夢見草と一夜酒

 それが彼のプロポーズの言葉だった。
 神前婚の下見に訪れた神社の境内に桜の木があった。
 季節は秋なので花はついていないけど、夢で見た桜とよく似ている。
「これで……いいのよね」
 桜に向かい、祈るようにつぶやく。
 何かが舞い落ちてきた。
 手の甲に落ちたのは桜の花びら。
 花は開いていないのに、ひとひらの花びら。
「どうかしたのか?」
 彼が聞く。
「友人から祝福を貰ったの」
「幸せになろうね」
「はい」
 私は彼の手をとり、振り向かずに歩き始めた。
戸間
作家:戸間
夢見草と一夜酒
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