あいつは、未来からやってきたと教えてくれた。
あいつのいた世界は、誰もいない寂しい所で、たとえるなら世界の終りのような場所で。
でもこっちに来て俺と一緒にすごしてから、すこしずつ話すようになって笑うようになって。
あいつは、俺が作ったおにぎりが好きだった。初めて出会った時なんか三つも食ってて。
そして昨日の夢で笑いかけてくれた、あいつ。
見つからなかったアルバムが、瀬戸の目の前に現れた。走馬灯のように、流れてくる記憶。
いつしか、瀬戸は完全に思い出していた。彼と過ごした日々を。
「そんで、最初にあった場所がここだったよな。・・・樫原」
瀬戸はその場所に通じるドアの前に立っていた。瀬戸と樫原が最初に出会った場所。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。
鍵は、かかっていなかった。
ぎぃ、と軋んだ音が響きドアが開く。
ぶわ、と風が吹き込み、瀬戸は屋上へと出た。
目の前に広がるのは、夕闇せまる空ばかりで。
なぜかすごく胸が苦しい。痛いくらいだ。
辺りを見渡す。だが、
「・・・やっぱ、いないよな」
期待はしていなかった。けれどやはりいないとわかると苦しい。
「いつまで待たせるつもりだよ」
誰もいない屋上で空を見上げながら言う。空のそのさらに向こうの遠い未来にいるはずの樫原に向かって。
―――一度、眼を閉じ、ゆっくりと瞼を開けた。
するとなぜか視界が真っ暗になっていた。瞼に体温を感じて目を誰かにふさがれている事に気づく。
誰、と声を発する前に耳元で、懐かしい声が鼓膜を震わせた。
「ここは、立ち入り禁止だよ。―・・・どうして君はここにきたのかな」
初めて会った時と同じセリフ。けれどその声はどこまでも優しく、温かい。
瀬戸はその声の主を知っていた。
「・・・おせぇよ」
くす、と笑う声が聴こえ目の前からゆっくりと手が離される。
頭の中で、いろんな言葉が浮かんでくるがそのどれも口にすることはできず、結局言えたのはその一言だけだった。
他にも言ってやりたいことがあるが、それは後でいっぱい聞いてもらうことにする。
後ろの人物は、瀬戸の返事を待っているようだった。
あの時の約束は今、果される。
また、この場所から、始まる。
最初に出会ったあの時と同じく、言葉に応えるべく瀬戸はゆっくりと後ろを振り返った。
「おかえり」
あの時よりも大人びた顔が、ほほ笑えんだ。
「ただいま」