世界の終りのそのあとで。

世界の終りのそのあとで( 5 / 5 )

 あいつは、未来からやってきたと教えてくれた。

 あいつのいた世界は、誰もいない寂しい所で、たとえるなら世界の終りのような場所で。

 でもこっちに来て俺と一緒にすごしてから、すこしずつ話すようになって笑うようになって。

 あいつは、俺が作ったおにぎりが好きだった。初めて出会った時なんか三つも食ってて。

 そして昨日の夢で笑いかけてくれた、あいつ。

 

 見つからなかったアルバムが、瀬戸の目の前に現れた。走馬灯のように、流れてくる記憶。

 

 いつしか、瀬戸は完全に思い出していた。彼と過ごした日々を。

 「そんで、最初にあった場所がここだったよな。・・・樫原」

 瀬戸はその場所に通じるドアの前に立っていた。瀬戸と樫原が最初に出会った場所。

 ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。

 鍵は、かかっていなかった。

 ぎぃ、と軋んだ音が響きドアが開く。

 ぶわ、と風が吹き込み、瀬戸は屋上へと出た。

 目の前に広がるのは、夕闇せまる空ばかりで。

 なぜかすごく胸が苦しい。痛いくらいだ。

 辺りを見渡す。だが、

 「・・・やっぱ、いないよな」

 期待はしていなかった。けれどやはりいないとわかると苦しい。

 「いつまで待たせるつもりだよ」

 誰もいない屋上で空を見上げながら言う。空のそのさらに向こうの遠い未来にいるはずの樫原に向かって。

 

 ―――一度、眼を閉じ、ゆっくりと瞼を開けた。

 するとなぜか視界が真っ暗になっていた。瞼に体温を感じて目を誰かにふさがれている事に気づく。

 誰、と声を発する前に耳元で、懐かしい声が鼓膜を震わせた。

 「ここは、立ち入り禁止だよ。―・・・どうして君はここにきたのかな」

 初めて会った時と同じセリフ。けれどその声はどこまでも優しく、温かい。

 瀬戸はその声の主を知っていた。

 「・・・おせぇよ」

 くす、と笑う声が聴こえ目の前からゆっくりと手が離される。

 頭の中で、いろんな言葉が浮かんでくるがそのどれも口にすることはできず、結局言えたのはその一言だけだった。

 他にも言ってやりたいことがあるが、それは後でいっぱい聞いてもらうことにする。

 後ろの人物は、瀬戸の返事を待っているようだった。

 あの時の約束は今、果される。

 また、この場所から、始まる。

 

 最初に出会ったあの時と同じく、言葉に応えるべく瀬戸はゆっくりと後ろを振り返った。

 

 「おかえり」

 

 あの時よりも大人びた顔が、ほほ笑えんだ。

 「ただいま」

 

 

 

 

 

 

 

渋矢 亜季
作家:草津秋
世界の終りのそのあとで。
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