父と娘

「確かに、ブラックホールは物理的にも謎が多く、数学的には解明できない代物だね」拓也は杏子の口からブラックホールと言う言葉を聴いて少し感心した。「そこで、ブラックホールは地球上の生物にたとえるとなんに当たると思われますか?」杏子は質問した。「地球上の生物にたとえると?う~~、なんだろうな~~」拓也がしばらく黙っていると「それは女です」杏子が答えを言った。

 

 「へ~、杏子さん、オリジナルの発想かな」拓也はまた騙されたと思った。「ブラックホールは女、光が男なのです。どんなに早く突き進む光もブラックホールに近づくと曲がってしまうのです。それほど、女は不思議な力を持った宇宙の生物なんです。しかも、ブラックホールと同じように、女は物理的にも数学的にも解明できない謎の生物なんです。女を解明することはブラックホールを解明することにもつながるのです」杏子は顔を拓也に近づけてきた。

 

 「なるほど、それは小説であって、数学とは関係ないようだね。話としてはおもしろいけど」拓也はいい加減にしてくれと言わんばっかりの顔をした。「先生はせっかちですね、これからが数学なんです」杏子の目が血走ってきた。「どれどれ、続けてくれ」拓也はあきれて天井に眼をやった。杏子は目を輝かせると話し始めた。

「虚数の世界がありますね。これはブラックホールであり、女の本質なんです。i i = -1 これは何を意味しているのでしょう。愛し合うことは非現実の世界に突入することを意味しているのです。ガウスはきっと失恋から立ち直ろうとしたとき、愛の本質を発見したのです。男は実数、つまり現実。女は虚数、つまり非現実。ガウスは宇宙が現実と非現実から成り立っていることを発見したのです。宇宙は膨張し続けながら、縮小し続けているのです」杏子の妄想はピークに達していた。

 

 拓也は大きく頷くと「わかった、君の熱意は十分伝わった。この話は成績に加算することにする。もう、この辺にしておこう」拓也はどっと疲れた。杏子はこの言葉を聴いてとたんに顔が明るくなった。「先生はさすが一流の数学者ですね。この話を理解してくださるなんて、先生大好き」拓也に飛びつきそうになった杏子をとっさに避けると、立ち上がり激励の言葉をかけた。「芥川賞を取ったら報告に来てくれ」拓也は杏子の肩をポンと叩くとドアに案内した。

 

 拓也が二人に声をかけた。「パパは寝ます。朝は6時に起こすからね」拓也がドアから離れようとすると理恵の声が返ってきた。「パパ、一緒に寝よ~、三人で仲良く」ドアが開くと理恵は拓也の手を引っ張り込んだ。「パパが真ん中で二人が両端に寝るの。お話しながら寝よ~」三人は川の字に寝ると拓也は日本昔話を話し始めた。

 

春日信彦
作家:春日信彦
父と娘
0
  • 0円
  • ダウンロード

13 / 14

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント