「アキラ君には少し強引だったかしら?」
ツバキはそう言うと猫の頭をなでる。ニャーとうれしそうに猫は鳴いた。
「でも、一度でも恋ができてうれしかったわ」
ツバキは一気にさかずきの中の酒を飲み干す。
「こんな気持ちなのね……恋って」
ツバキは一滴の涙を流す。
「ぅ、つう……」
一滴では済まない涙は溢れてくる。その時、ツバキと自分を呼ぶ声が聞こえた。
「お父様……」
「行こうか……」
「……はい」
ツバキはさかずきをその場に置いて父の後についていった。
しばらくしてそんなことがあったことなど全く知らなかった俺はツバキを捜した。
「ツバキ! ツバキ!」
どこを捜してもいない彼女。俺の瞳にはうすい膜がはった。
「ちくしょ……ちくしょー!」
サヨナラ。愛しいあなた