正門を入ると、まるでそこは中世のヨーロッパにも似た風景だった。
しっかりと道幅がとられたプロムナードには、青々と葉をつけた広葉樹が立ち並んでいる。その先には歴史的な重みを感じる、赤茶けたレンガ校舎。
「ごきげんよう……ごきげんよう……」
いつものように私は、トレードマークの黒縁眼鏡をかけ、紺色のベーシックなスーツに身を包んでいた。
行き交う女子生徒達と、上品な朝の挨拶。もちろん背筋は、ピンと伸ばしたままで。
毎朝のこの時間を、とても誇らしく思っていた。
進学校として有名なカトリック系女子高、「精徳女子学園」の英語教師になって3年。神様から与えられた天職に、私は本当に充実感を味わっていたから。
だから25歳にしてバージンでも、気にならなかった。というよりむしろ、良かったと思っている。
古臭いけど、やっぱり結婚初夜まで守り通し、愛する旦那様にすべてを捧げたいのだ。
それは聖職につく私の夢でもあり、誓いでもあった。
「牧村先生、ごきげんよう」
後ろを振り向くと、医師で保健教諭、憧れの橋口圭一先生が近付いて来る。
「ごきげんよう」
私は軽く会釈をした。そして、
「そうですよね。今日は木曜日ですものね」
と、さも無頓着なふりをする。
「嬉しいなあ、もしかして、覚えていてくださったんですか?」
イケメンで、服のセンスも申し分ない。今日の薄紫色のシャツも、すごく良く似合ってる。高級そうなこの腕時計は、何といったっけ? 時々芸能人がつけてるけど。