さやかとアンナ

「ただいま!」

瞳の明るい声!瞳との再会の映像は一瞬にして拓也の脳裏から消えた。

「勝ったみたいだね」

パチンコで勝ったときのいつもの笑顔。

「うれしいわ、タクヤが私のこと、すぐにわかってくれて」

瞳は買ってきた荷物をテーブルの上に勢いよく落とす。

「大丈夫かよ。割れるぜ」

「はは・・ん、タクヤったら、何買ってきたかわかったな。

パックに入っているから大丈夫。今夜はお蕎麦よ。

見て、タイの刺身、うずらの卵、天然の山芋、精が出るわよ!

シャワー、お先にどうぞ」

言い終わると、奥の部屋に駆け込んだ。


夕食ができるのを待っている間、タクヤは絵本を描いていたが、

テーブルの隅に置かれていた包みが気になっていた。

「夏は蕎麦に限るな。これは?」

テーブルの隅に置いてある包みを指差す。

「これ、まだ見ないで。それじゃ、いただきまーす。タクヤ、ビールは我慢してね」

「わかっているよ」

タクヤは包みが気になり口を動かしながら瞳の右隅に目をやる。


「何だよ、これ?」

「待って、後で見せてあがるから。山芋どう。タイおいしい」

「ああ、うまい」

包みが気になって、気が抜けた返事。

拓也は食べ終わると、ブランデーを飲みながら、

瞳の食べ終わるのを待った。


「元気でた!」

瞳は最後のビールを飲み干す。

「ああ」

拓也は書斎にロボ開発情報誌を取りに席を立つ。


「絵本、どう?うまくいってる?」

「もう、かなり出来上がったよ。瞳のおかげだよ」

「早くできあがるといいね。チョット見せて」

瞳は両腕でリズムをとりながら、書斎に跳ねてやってくる。

「あら、かわいい!かわいい!~女神からの不思議なプレゼント~

きっと、子どもたち喜ぶわ」

「思い切って、やってよかった。新しい目標ができたし、瞳のおかげだよ」


瞳はキッチンで洗い物を片付けると拓也を呼ぶ。

「開けて!」

包みを拓也に手渡す。

「何だよこれ、からかうなよ。バレリーナの愛、今月の新人、愛沢聖子」

DVDを手にした拓也はしばらく草原で宙を舞うバレリーナを眺める。


「もう、わかるでしょ」

「まさか?」

「その、まさか!念のためにDVD買ってきたの」

「そうか、この子が麗ちゃん。あのころはまだ子どもだったからな」

「タクヤ、いつまで見てんの。タクヤが言ったように、何も言わない」

瞳は拓也の手からすばやくDVDを取り上げる。



春日信彦
作家:春日信彦
さやかとアンナ
0
  • ダウンロード

29 / 29

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント