死神サークルⅠ

 沢富が、気にかかっていることを話し出した。「ちょっと気にかかることがるんです。市毛武史の病死の件ですが、どうも、納得がいかないんです。鈴木課長も言っていたように、突然ガンになって、3か月でなくなっています。これって、ちょっと、変じゃないですか?」伊達は、意味がよくわからなかった。「変ってことはないだろう。ガンなんだから、そういうこともあるんじゃないか。俺は、医者じゃないから、よくわからんが」沢富は、小説で読んだ替え玉死体の話をすることにした。「あくまでも、小説の話なんですけどね。ある物理学者が、マフィアに狙われていましてね、そこで、この世から自分を抹殺するために、親友の医者に頼んで、死亡診断書を書いてもらったんです。しかも、ご丁寧に、身代わりを使って、火葬までしたんです。まさかと思うんですが、市毛がこの手口を使ったってことはないかと」

 

 伊達は、あきれた顔で返事した。「まさか、市毛は、トラックの運ちゃんだぞ。そんな込み入ったことを思いつくか?実際に、死んでると思うがな~」沢富は、伊達の反論にうなずきながらも、偽死亡診断書手口にこだわった。「でも、ですよ。もし、数億の金を、持ち逃げしていたとすれば、どうですか?医者に、大金を積めば、ウンと言ったんじゃないかと思うんです。もし、本当に、大金を持ち逃げしたと仮定すると、ヤクザから逃れるために、戸籍上は死んだことにして、どこかで生きているように思えて、ならならないんです」いつもの沢富の妄想が始まったと顔をしかめたが、捨てがたい発想には違いなかった。「まあ、考えられなくもないが。市毛武史は、生きていて、どこかに潜んでいる、と言いたいんだな」

 

 沢富は、さらに想像をたくましくした。「大金を手にしたとなれば、整形手術の可能性があります。二人とも、全く顔が変わっているかもしれません。そうなれば、発見できません」伊達は、あきれ返った表情で返事した。「そうだとすれば、お手上げじゃないか。何を手掛かりに、捜索するんだ。あほらしい」沢富は、気まずい表情をしたが、可能性は否定できなかった。「考えすぎですかね。整形手術をする前に、菅原洋次を発見しましょう」伊達は、眉を下げて暗い表情をした。「でもな~。今のところ、まったく、手掛かりがない。どうやって、探し出すんだ」沢富は、ニコッと笑顔を作って返事した。「刑事は、足です。身を隠すために、ひきこもったとしても、菅原洋次は、かつてチンピラの遊び人です。きっと、女欲しさに、歓楽街に足を運ぶはずです。根気良く、聞き込みをやりましょう。そう、ひろ子さんにも、写真を手掛かりに、協力してもらいましょう」イラついてきた伊達は、ゴクゴクと喉を鳴らし、一気に、ジョッキを空にした。

 

春日信彦
作家:春日信彦
死神サークルⅠ
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