尼寺

 

 なんだか、不思議な幸せを感じていたゆう子は、ふと、鳥羽の気持ちに疑問を感じてしまった。なぜ、こんなにまで親切にしてくれるのか?「鳥羽君~~、こんな山奥まで、連れまわして、ごめんね。いやなときは、いやだといっていいのよ。鳥羽君は、ちょっと、人が良すぎるんじゃない。私なんかにかまっていたら、彼女が、できないわよ」鳥羽は、嫌われたのではないかと勘違いした。「え、僕が、うっとおしいんですか?なんだか、がっかりだな~~。こんなにお仕えしてるのに」ゆう子は、誤解を招いたと思い、弁解した。「そうじゃなくて、あまりにも、親切にしてくれるから、気の毒なだけよ。とっても、感謝してるんだから。でも、どうして、こんなに親切にしてくれるの?」鳥羽は、即座に、大声で返事した。「当然のことをしてるだけです。姫をお守りすることは、神勅なんです。感謝なんって、もったいない」

 

 やはり、鳥羽は、かなりの変人だと確信した。どんな根拠で言っているのかさっぱりわからなかった。「え、どんな神様から任命されたの?鳥羽君、ちょっと変じゃない。私を守る神勅なんて、ないと思うんだけど」変人といわれた鳥羽は、春日神からの神勅を話すことにした。「姫、何をおっしゃるんですか。藤原氏の氏神である春日神の神勅です。姫こそ、日本の守護神になられる方んです。僕は、姫をお守りするために、現世に降臨させられた日本武尊なんです。これからも、命を懸けて、お守りいたします。ご安心ください」マジ、ますます、頭がいかれていると確信した。バカと天才は紙一重、とは、このことだと思った。これ以上話しても、理解しあえないと思い、話を変えることにした。「鳥羽君は、世界一、お人よしってことね。いつもありがとう。もう、登山口についちゃった。下りは、やっぱ、早いね」

 

 登りは、目的地までの道のりがわからず、とても長く時間が感じられたが、下りは、思っていたより、早く登山口に到着した気がした。ゆう子は、鳥羽にお礼をしなくてはと思い、食事に誘った。「鳥羽君、おなか、すいたでしょ。どこかで、食事しない?」道中でのサンドイッチぐらいでは、おなかが満たされていなかった。鳥羽のお腹は、グ~~グ~~なっていた。「待ってる時、おなかが、すきすぎて、倒れそうでした。何を食べますか?」ゆう子は、鳥羽の好物の牛丼を提案した。「すき屋に行ってみない?特盛り、おごるわよ」牛丼が頭に浮かぶとよだれが出そうになった。「牛丼、いいですね。卵をかけて食べると、最高です」楽しそうな二人を乗せたスクーターは、フードウェイ横にあるすき屋に向かって走り続けた。

春日信彦
作家:春日信彦
尼寺
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