対馬の闇Ⅳ

  沢富の言葉を聞いて、少しは、ホッとした。おそらく、極秘情報の入手は、無理だとは思ったが、協力すれば、何かいいことがるように思えた。「沢富警部補、協力するからには、将来のこと頼みますよ。ひろ子さんが、出世を約束してくれたんですから」ちょっと、ムキになって念を押した。沢富は、うなずき、快く返事した。「わかってるさ。来春には、僕は、警察庁に戻る。でも、長崎県警本部には、君のことを持ち上げておくから。協力頼む」大野巡査は、沢富警部補の今の言葉を聞いて、未来が開けた心持になった。「よっしゃ~。任せてください。須賀巡査長は、野球部の先輩です。きっと、僕にだったら、話してくれるような気がしてきました。ところで、沢富警部補は、ひろ子さんとは、どういうご関係で?」沢富は、ちょっと気まずそうな表情でひろ子を見つめた。ひろ子は、この際、二人の関係を打ち明けたほうが、より信用されるような気になった。

 

 ひろ子が、ニコッと笑顔を作って話し始めた。「実は、付き合ってるの。そういう関係」大野巡査は、そうではないかと直感していた。「やっぱり。そうじゃないかと思っていたんです。なんとなく。そうか、ひろ子さんは、沢富警部補の転勤に、ついてこられたってわけですね。それじゃ、近々、ご結婚ですね。いいよな~、僕も、結婚したいな~」ひろ子は、瑞恵の気持ちを伝えることにした。「あら、大野さんも彼女がいるじゃないですか。隠さなくてもいいのに」大野巡査は、激しく顔を左右に振った。「ナニ、言ってるんです。僕なんかに、彼女はできません。女性は、苦手なんです。沢富警部補に、ゴルフより、女性の口説き方を習いたいくらいです。あ~~、僕は、ダメな男なんです」ひろ子が、間髪入れずに返事した。「近くにいるんじゃないの?ほら、みずえさん。お似合いだと思うけど」

 

 瑞恵とは、先日あったばかりで、彼女ではなかった。「何言ってるんですか。みずえさんとは、先日、初めて会ったにすぎません。彼女ではないですよ。みずえさんが、怒りますよ」ひろ子は、ワハハ~と笑い声をあげた。「何言ってるのよ。一度会えば、十分なのよ。女心ってそういうもの。アタックしたら。きっと、うまくいくから。男なら、ド~~ンと押してみないと。エースでしょ。みずえさん、大野さんを待っているから。女の直感は、当たるんだから」そういわれると単純な大野巡査は、マジに受け取ってしまった。「そうですか。それじゃ、ひろ子さんの言葉を信じて、アタックしてみます。沢富警部補、こっちのほうも、協力してくださいよ」沢富は、大きくうなずき、笑顔で返事した。「よっしゃー!大船に乗った気持ちで、みずえさんに、アタックするがいい」大野巡査の能天気な脳裏のスクリーンには、バージンロードを厳かに歩く、純白のウエディングドレスをまとった新婦と腕を組んだタキシードの新郎の姿が、映し出されていた。

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
対馬の闇Ⅳ
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