The Lost King 失われし王 ルイ=シャルル(下)

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一 オトラント公爵ジョゼフ・フーシェ

 ラサールが熟慮を重ねた様々な要素の中でも、偽のルイ十七世の為に社会的重要性と影響力を備えた後援者と渡りをつけるという問題以上に、時間をかけて取り組んだものはなかった。

 探求を開始した時点から、彼の理性はジョゼフ・フーシェの手引きを切望していた。元オラトリオ会数学教授、革命家、国王殺しレジシッド、国民公会議員、ギロチン使いギヨティネー、王党派に対する霰弾濫殺者ミトライユー、現在はオトラント公爵にして広大な領地の所有者、百万長者どころではない大富豪、そして如何なる政治体制の時代にあっても、常に国家の最重要人物の一人と見なされているのと同時に、恐らくは歴史上最も偉大なる日和見主義者の風見鶏としても認識されていた。大いなる知性と驚異的な胆力の持ち主である彼は、幻想も、理想も、信念も持たなかった。針路を定める際に用いる羅針盤コンパスは私的な利害と興味関心のみであり、そして風向きの読みについては決して過たぬセンスを持つ為に、彼は如何なる時も常に適切なタイミングで帆を調節する事が可能だった。

 彼が公職にあり、そして国家が安定した状態であったならば、ラサールがフーシェに助力を求める事など決して有り得ぬはずだった。だが、部分的にはド・バッツが語った話から、別の部分は自分自身で他の筋より収集した情報から、フーシェの支持なくしてはブルボン一族の復帰はかなわなかったにもかかわらず、ルイ十八世はその功労者を欺いたのだという現状を彼は把握していた。

 ブラカ、ジョクール、そして他の寵臣たちは、フーシェが権力を握る事により己の権勢が陰るのを恐れた。彼らにそそのかされた愚かな君主は、自分を王座に留め続ける事を可能にしたかもしれぬ人材を、フーシェはいざとなれば彼自身がこの国を支配できる勢力と影響力を有しているという理由により、政府から排除すると決定したのである。彼は常に使用人のロールを演じながらも、その主人は常に自分自身であり、それはボナパルトが相手であろうと変わりはなかった。そして好機が巡って来た時には、再び彼は同じ事をするだろう。彼は公職にあった時から巧妙に策をめぐらせ、そして己が構築した計り知れぬ力の使い道を過たずに、あらゆる政治勢力内に膨大な支持者を確保していた。ボナパルト体制下における王党派の容認に功ありとして、既に彼は王党派からの猜疑を解かれ信用を得ていた。彼はボナパルトに仕える間も共和主義の根本方針に従っていると認識されており、その為に、未だフランスに数多く存在する共和主義者の信頼を維持していた。現状においても多数が存在し、そして愚かなブルボンの悪政下で日々その数を増し続けているナポレオン信奉者ボナパルティストの目からすれば、フーシェは今も尚、ボナパルトに信任された重臣であり、現政権からの排除は失脚した皇帝に対する献身を忌避された為であると見なされ、それ故に彼らの忠誠心もまた我が物としていたのであった。

 これまで、その人生がひとつの絶え間ない活動であり、活動が人生そのものであった五十五歳の男が、フェリエールの領地に隠遁してキンキナトゥス1の美徳を守っているなど、到底考えられるものではなかった。彼がフランス帝国下で苦心して作り上げた、あらゆる社会階層に張り巡らされた驚異的な諜報網を破棄してしまったなど、到底考えられるものではなかった。その創造者が再びそれを必要とする機会が到来する可能性があるうちに、そして、いざその時には創造者にそれを知らせる役目を果たすかも知れないというのに、多大な時間と労力を費やして作り上げた組織を放棄するなど、有り得ぬ話であった。

 このような男を舞台に引っ張り出すには、何が必要であろうか。ラサールの考えは、フーシェの手の届く範囲に彼を軽視した王のあつらえ向きの代役を置いてやればいい、というものだった。そしてそれは、この国が既に声を上げ始めている要求を満たせるような人材を、フーシェ自身が見つけてしまう前にやらねばならない。

 彼について更に考察を深めたラサールは、フーシェこそが自分の必要とする人間であるとの確信を深めた。もしもシャルル・デリスがオトラント公爵の鋭い知性の前に晒されても尚、タンプル塔の孤児として欺きおおせたならば、このぺてんが見破られる憂いはないのだという保証を、そして自分たちの成功はほぼ間違いないのだという保証を得て、前に進む事ができるだろう。

 このような用件でフーシェを訪ねて行くのには度胸を要した。それは賽子さいころの一投に己の運命を賭けるに等しかった。だが、ラサールに如何なる資質が欠けていたとしても、豪胆にだけは欠ける事はなかった。そのような次第で、十月の初旬、フェリエールの途上、パリから50マイルも離れていないリベット・クルリーに、彼は失意で溜息を吐いているシャルル・デリスを伴い、やって来たのであった。

 情緒の定まらぬ時計職人は、ジュスティーヌの記憶に取り憑かれたが如き、良心の呵責による惨めな憂鬱状態に陥ったかと思えば、それと交わるように、待ち受ける計画への熱狂的な集中状態に没入していた。それはラサールから見れば極端に過ぎる熱意と思えたが、彼は良心の呵責から逃避する為の紛いものの意欲の高まりであろうと推測した。その間もラサールは、デリスが演じる事になっている王太子の若年時代に関する情報を克明に提供し、その立ち居振る舞いを入念に指導した。このような指導が功を奏し、デリスの内面には次第に変化が引き起こされ、時折、彼が己を本当にタンプル塔の孤児であったと信じているかのように見えるまでになった。

 レマン湖での溺死によって突然に終了した事実を補う為には、遠慮なく捏造が駆使された。其処から続くルイ十七世の来歴をでっちあげる作業については、デリスもラサールが意外に思うほどの想像力を発揮しつつ積極的に協力した。

 彼が語らねばならない作り話が、簡潔かつ反証困難であるのに満足したラサールは、まずは自分独りでフーシェを訪問してみると決めた。それにより探りを入れて好感触を得たならば、其処から先の段階に向けて、フーシェに計画を整えさせる事ができよう。その為に、彼はフェリエールの小村に着くと、逗留を決めた旅籠にデリスを残して、翌朝早く、あの男の壮大な居城2に向かった。彼が最後に会ったサントノーレ通りのむさくるしい貸間で、パンと武器と40クラウンの俸給以上に求めるものなどないと言い切った、あの男の許に。その雄大な灰色の城館シャトーは、周囲の公園緑地、牧草地、狩猟場などから成る広大な領地の中心にそびえていたが、これらの土地は途方もなく裕福な公爵の財産の内10分の1にすら満たなかった。

 馬車は、踊り場をひとつ挟んだ二続きの階段の下で止まった。そしてボナパルトがイタリア征服の際に持ち帰った略奪品を含む戦勝記念品や、値段もつけられぬほど貴重な絵画が飾られた、黒と白の大理石を敷き詰めた床と高い天井の玄関広間に入ったラサールは、簡素な黒い制服を着た侍従に用意していたメモを渡した。

『閣下、』と書き出して、彼は『貴方様が未だ当方を御記憶のはずなどと驕った事は申せぬ程度のか細い御縁ではありますが、極めて深刻なる国家的重要性を孕んだ問題について是非とも御高見を承りたく、遥々旅して参りました。』と記していた。そして恭順と敬意を表明した言葉と共に署名をしたのであった。『閣下の最も卑しくも従順なるしもべ、フロランス・ド・ラサール』

 これで城内に入る許可を得るには充分であろう、という期待は裏切られなかった。彼は待たされる事すらなかった。公爵という高位を得ても尚、いにしえのスパルタ人が如く厳格なフーシェは、早起きの習慣を守り、疲れを知らず働く人物だった。そしてこの処のフーシェは、彼に相応しい大事業に取り組んでいた。王位をくつがえすという事業、彼には熟練の技量があると主張しても異論の出ない事業である。かくしてラサールと彼の偽王は、折り良くも彼らが想定していた以上に絶妙なタイミングで、この地に到着したのであった。その創造に際して間違いなく彼が寄与した政府に排除された時から、フーシェはキンキナトゥスのマントという偽りの装いの下で、現政府の愚かさが最終的に破滅という運命を招き寄せる、その機が熟すのを待つのみであった。

 今や機は熟していた。熟し過ぎるほどに熟していた。その比類ない愚かさに起因する方向感覚の欠如が、恐怖と怒りを基盤とした圧制と無秩序状態の混合を生みだしていた。断固とした一撃が、この国家を転倒させるであろう。そしてフーシェは、今も尚、ナポレオンの警察大臣として制御下に置いていた蜘蛛の巣の主であり、未だその一撃が加えられていないのは、彼が現政府を如何なる政府によって置き換えるべきかを決定するまで保留されているからに過ぎないのだ。その十月の朝、ラサールの訪問を受けた時、フーシェは四つの選択肢を前にしていた。共和制を再建する。オルレアン=エガリテの息子3に冠を被せる。エルバ島からナポレオンを帰還させる。マリー=ルイーズ皇后4を摂政としてナポレオンの息子5を立てて、実際の政治は評議会が受け持つ場合には、ウジェーヌ皇子6、タレイラン、ダヴー7と手を組まねばならないだろう。

 ナポレオンの帰還が彼にとって好ましいのは特定の条件下に限られるが、ナポレオンというのは容易に条件を課せるような男ではなかった。ルイ=フィリップについては、この男の父親に対する至極当然の軽蔑心による反感があった。ナポレオン世が最も妥当な候補と言えた。もし彼が丁度この時、農民の引く子驢馬8に乗ってパリに上って来たならば、そのまま旗鼓堂々とテュイルリー宮に入城できるかもしれない。だが予測される摂政期間は、フランス内政への大幅な干渉をオーストリアに許してしまう可能性がある。共和制の再建というのは、贔屓目を抜きにして見れば、あくまで最後の方策に過ぎなかった。

 ラサールのメモが第五の、そして今まで思いも寄らなかった候補の登場に関係しているなど、彼には予測不可能なはずであった。しかしフーシェの驚異的に優秀な記憶力は、二十年前、彼の心に若干の影響を及ぼした若者に関する完全な回想を瞬時に呼び起こした。

 そのメモは、彼の書斎である、青と灰色を基調としたタペストリーを背景に、上質で華美に流れぬ胡桃材の調度をしつらえた格調高い部屋で手渡された。その為に、子供たちの世話役である、謹直なムッシュー・ド・シャスノンに与えていた指示を中断する事になった。

 この二年間、フーシェは男やもめとして過ごしていた。かつてラサールがサントノーレ通りの粗末なアパートで会った、不器量なボンヌ=ジャンヌとの死別は、これまでの人生でこの男が経験した最も悲痛な苦しみであり、道徳感覚については世間で標準とされているような認識を一切共有しないフーシェは、家庭内の美徳など実践される事が稀な時代にあって、尚も清廉な禁欲的生活を送っていた。それまで愛情深く誠実な夫であったのと同じく、この元教師は子煩悩な父親として、十三歳から十七歳までの三人の息子と十一歳の可愛らしい一人娘の教育を細やかに気配りし、精根を傾けて監督していた。

 メモについて考えをめぐらせたフーシェは、一瞬、眉をひそめた。それから彼の癖である唇を引き結んだ微笑が、表情を明るくした。即座に彼はムッシュー・ド・シャスノンを下がらせると、訪問者を部屋に通すように命じた。

 彼は立ったままでラサールを迎え入れ、そして二人の男はそれぞれに、時の流れが互いの外観に同じ程度の深遠な変化を及ぼしたが為に元の面影を見失ってしまったかのように、長い時間をかけて慎重に相手を見定めた。

 五十五歳のフーシェは実年齢よりも二十歳は年長に見えた。痩せた長身を縮こめた猫背と、かつてラサールが魅力の内に数えた顔の蒼白さが、極端に老け込んだ印象を強めていた。赤味がかった髪は既に黄褐色に褪せて、頭骨の上に撫で付けられた薄く透けたベールに過ぎなくなっていた。彼は単なる疲れ切った男を内包した貧弱な外皮のように見えた。ただ両目だけが、その低く垂れた目蓋が上げられた時に死人のような顔に生気を蘇らせ、最も鋭利で激しかった時代の活力が、未だその精神に留まっているであろう事をうかがわせた。

 フーシェはラサールの中に、より大きく、しかし非常に異なった変化を見ていた。しなやかで引き締まった彼の身体は活力が衰えるどころか増しており、その非常に蒼白い顔には同じく落ち着いた重みが増し、顔上にある豊かな髪は、奇妙な楔形の白髪を除けば、依然として黒く艶やかだった。

 フーシェは遂に口火を切った。「君は本当にフロランス・ド・ラサールなのかね?」

「二十年前、貴方の肖像画を描かせていただく為に、サントノーレ通りで四階まで階段を登った同じ男です、閣下」

「覚えているよ。少なくとも今日は、私に会う為に階段を登らされたと非難されずに済む訳だ。テンポラ・ムタントゥル、エト・ノス……(時は移ろい、我等もまた……9)許してくれ、一瞬とはいえ、君があの時の青年と同じ男であるかどうか疑ってしまったのを。だが、とりあえず座りたまえ。あのメモに国家的重要性を孕んだ問題と書かれていた以上、今日は私の肖像画を描こうとする必要はないだろう」

「ええ、ムッシュー公爵ル・デュック。その代わりに拙作の絵を御覧いただきたく、こちらに持参しました」

 それは心積もりをしていた用件への入り方とは違っていたが、しかし公爵の皮肉がきっかけを作ってくれた以上、ラサールはこれ幸いとその機をとらえた。彼は持参した小さな絵から包み紙を剥がし、約1フィート四方の正方形のカンバスを、公爵のライティングテーブルに置いた。

「これは誰に見えますか、閣下?」

 フーシェがつぶさに検分するべく、黄金作りの柄付き単眼鏡を近づけたのは、ラサールが意図的に合成して描いた肖像画だった。その絵は、二十年前にラサールが何枚も描いたルイ十七世の顔を巧妙に混ぜ込む事によって、シャルル・デリスがその現在の姿であるかのように見せかけたものだった。それはデリスに似せる一方で、タンプル塔の囚人と彼との類似性を巧みに強調していた。弓なりの眉はやや誇張され、そしてモデルを正面向きで描く事により、高い鼻梁を誤魔化しおおせていた。同じものに等しいものは互いに等しい、というユークリッドの公理10に示唆を受けたラサールの発想は、誰であれ特定の人物を描いたものと認識されるような肖像画を作成すれば、その絵のモデルであるデリスは、その特定人物との同一性を獲得できるというものだった。換言すれば、彼はデリスとルイ十七世の相違点を無効化する先入観を作り出すように努めたのである。

 今、彼はフーシェの傍らで、実験が成功する見込みは高いのか否かが判明するのを、じりじりとした思いで待っていた。

 依然として肖像画を検討しつつ、フーシェは言った。「これは成人年齢まで成長したプチカペーの肖像と答えるだろうね。そのような事は有り得ない、という前提が存在しなければだが」

「この肖像画によって、そのような事は有り得ないとは言い切れない、とお考えにはなりませんか?」

「その言葉を、どのように解釈すれば良いのかな?」フーシェは曲がった脊柱が許す限りまで背筋を伸ばした。「君は更なる偽ルイ十七世を後押ししているのかね?そして君が持ち込んできたこの幼稚な詐術は、私を標的にしたものなのかな?」

 突然に目の中で炎を上げたその輝きに、死人のような外殻の中で未だ健在である精神力を、ラサールは初めて感得した。だが、この痛烈なまでの注視にさらされても尚、彼の不遜な眼差しは揺るがなかった。

「今まで現れた詐称者たちの内に、このように良く似た者がおりましたか、ムッシュー公爵ル・デュック?」そして、人差し指で画を軽く叩いた。

「ふん!他人の空似に論ずるような価値があるのかね?」

「ないでしょうね、もしもそれ以外に何の論点もなければ。しかし実際には、夥しい数の論ずべき点があるのです。ルイ十七世がタンプル塔から逃れたという、巷間に流布された噂は事実に基づいているという事、そしてマドレーヌ墓地に埋葬された子供は…」

「それならば」とフーシェが話を遮った。「私は全てを承知している。ショーメットも知っていた。ロベスピエールも知っていた。バラスはそれを知っている。ルイ十八世も知っているし、それ以外に数人、恐らくはアングレーム公妃を含む少数も知らされているだろう。だがその後、あの少年に何が起きた?例えば、この絵に描かれた男が語る身の上話は、どのようなものだね?」

「恐らくは、閣下、まずは俺の身の上話を先にした方が良いでしょう。俺はタンプル塔から彼を救出する作戦において、工作員の長を務めていました。それから後のフランスからの出国作戦を指揮したのも俺でした」

「君が?」再び、目蓋の下から一瞬だけ、彼の両目がのぞいた。「それは初耳だよ、ムッシュー・ド・ラサール。正確には何年の事かね?」

「彼は1794年1月19日の日曜日にタンプル塔を出ました。ムードンを離れてスイスに向かう彼の護衛役を務めて俺が旅をしたのは、1797年6月遅くの事でした」

 フーシェの顔には如何なる種類の感情も表れてはいなかった。しかし彼の凝視は長く、探るようなものだった。ようやく、未だ一言も発さぬまま振り返ると、彼は呼び鈴の処に行き、それを鳴らした。それから再度、訪問者に向かって手振りで椅子を示した。

「どうぞ座りたまえ、ムッシュー。偶々たまたま、以前使っていた密偵の一人がここに滞在しているのだが、彼は現在のフランスにおいて、誰よりもこの件に詳しい男なのだよ」彼はやってきた従僕に命じた。「ムッシュー・デマレに、すぐに私の許に来るようにと」

 ラサールにとって、とうの昔に忘却の彼方になったその名前は何の感慨も呼ばなかった。けれども彼に不安はなかった。何故ならば、これまでの処、ラサールは確かな基盤の上に立っていたのだから。彼は待つ為に椅子に座り、そしてフーシェも同様に、訪問者と直接対面する位置にあるライティングテーブルに着いていた。眠たげな目蓋の下からラサールを観察しつつ、彼は細く乾いた声でゆっくりと語った。

「前回、訪問を受けた時には、君は私の肖像画を描くという口実を使っていたね。言うまでもなく、あれは口実だった。教えてもらえないだろうか、今となっては隠す必要もないだろう、あの訪問の本当の目的は何だったのだね?」

「仰せのままに。ですが、今更その質問をなさるのは、屋上屋のようなものですね」ラサールが先程の主張と完全に一致する事情を聞かせた時、フーシェはそれが確かに屋上屋を架す話題であるのを理解した。

 フーシェは注意深く耳を傾けた。「なるほど」彼は言った。「そして私を引き入れるのに失敗して、君はショーメットを誘惑したという訳だ。うん。如何にもありそうな事だ。ああ!デマレ君が来たよ」

 書斎に入ってきた骨格たくましい五十代の男性は、昔よりも恰幅が良くなり、髭のない顔は更に赤らんで肉厚になり、頭は白髪混じりに変じていた。にもかかわらず、ラサールはひと目で彼を識別した。

「ああ!懐かしき友よ、ヴォランとジュネーブ以来だね、岡っ引きくん」

 不意を打たれて驚いたデマレは足を止めた。「どうも、存知あげませんが」彼はそっけなかった。

 フーシェは彼に明かした。「こちらはムッシュー・ド・ラサールだ。ムッシュー・フロランス・ド・ラサール。彼を覚えているかね?随分と変わってしまったが。だが、注意深く見てみたまえ。彼はフランスからプチカペーを連れ出したのは自分であったと主張しているのだ」

「それは事実のはずがありません」デマレはきっぱりと答えた。

「だが、彼を良く見たまえ」フーシェは強く求めた。「私は彼が変わったと言ったね」

「見る必要はありませんよ、閣下。フランスから若い王を連れ出した男は、ウルリッヒ・フォン・エンセ男爵だったんですから」

「彼の記憶力は優秀だよ、どうだね」フーシェはラサールに告げた。

 ラサールは微笑した。「もし彼が、シャロンに向かう道を黄色い大型四輪馬車ベルリーヌに乗って一人旅する男を、彼を別の道に誘い込んでフォン・エンセ男爵とあの子供の国境越えを成功させた、一味の三人目の男を忘れているのなら、それほど優秀とは言えないでしょう」

 これはデマレの自信を揺るがせた。彼は強い興味を込めた丸い目で、改めてラサールを鋭く見つめた。だが最終的に、彼は首を振った。「あの時の事は良く覚えていますがね、ムッシュー。あの男の名前がラサールでなかったのは確実だ。あれは…」

「ウッソン」ラサールが素早く口にした。「ガブリエル・ウッソン、パスポートではチョコレート商の事務員という事になっていた、商用でスイスに向けて旅行中の男だ。君のその優秀な記憶を掘り起こしてくれたまえ、ムッシュー・デマレ」

 デマレの顔には、既にその記憶を発掘済みであると書かれていた。「もしもあんたが」彼はゆっくりと告げた。「男爵と奴の預かりものが、サリエールで俺たちの監視の目から消えた方法を説明してくれたなら、あんたの素性も納得できるんだがね」

 ラサールは彼に語った。

「乗合馬車!ああ、パルディ!(なるほどそうか!)」と気落ちした風にデマレは言った。「思いつかなかったよ」それから彼は笑った。「わかった、あんたは確かにあの時の男だったと信じる以外にないな。抜け目のない、大胆な博打をしたもんだ。残念ながら、結局は運命の女神が邪魔をして小カペーを溺死させたせいで、せっかく体を張ったのが、まるっきり無駄に終わっちまったんだが」

「遺体は発見されたのかい?」

「フォン・エンセのはな」

「知っているよ。埋葬したのは俺だから。遺体が引き上げられた時、俺はあの湖畔にいた。君もいたね、ムッシュー・デマレ。あれが君に会った最後だった。だが、俺が話してるのは、ルイ十七世についてだ」

 デマレは肩をすくめた。「死体はなくとも、状況証拠で充分だ」

 鋭く細いフーシェの声が発せられた。「有難う、デマレ君。今は下がってもよろしい」デマレが一礼して退出してから、公爵はいつもの気難しげに唇を引き結んだ微笑を見せた。「ムッシュー・ド・ラサール、私は判断を誤るのを好まない、そして今まで私が判断を誤った回数は、それほど多くはないはずだ。だが、にもかかわらず、君が関係する案件については、これまでに二度遭遇して二度判断を誤った。屈辱的な事だ。もしも三度繰り返したならば、私は自分を許す事ができないだろう。君はデマレに、レマン湖で溺死したといわれている少年の遺体が発見されなかったと言った。その発言の真意を聞かせてくれるのだろうね」

 ラサールは身を引き締めた。今までの彼は、確固とした事実という根拠の上で自信を持って歩いていた。今、虚構という危うい地盤に移るに際して、彼は同じように自信を持って歩いて見せねばならなかった。これから彼が語る虚構は、デリスと共に慎重に準備した作り話だった。

 フォン・エンセとその被保護者が湖の対岸に逃れるのに使用したボートは、ローザンヌの豪雨によって浸水し沈没した。しかし嵐と急速に濃くなる暗闇にもかかわらず、救出を試みる為に一艘のボートが漕ぎ出され、疲労の極でオールにしがみついて水上に浮ぶ少年が奇跡的に発見された。そのオールは体重の軽い少年を乗せて運ぶ程度ならば、充分に持ちこたえるものだったのだ。

 だが東から吹きつける強風の中で、彼らはローザンヌ側の岸に戻るのは不可能と判断した。無理に試みれば沈没したボートの二の舞になる。其処で嵐に逆らわぬように船を動かした彼らは、モルジュから西に約10マイル、岬の影になっている為に強風から守られた地点で、ようやく上陸する事ができた。救助された子供は早急に避難所を確保する必要のある状態だったが、幸運に恵まれた彼らはモルジュの教区牧師の家に迎え入れられた。少年は濡れた服を脱がされ、毛布にくるまれて、長老会の台所でストーブにあたり暖を取って、急速に回復した。

 最初に少年の頭に浮んだ考えは、とりあえず逃げおおせはしたものの、自分は依然として共和国の密偵から追撃される危険な身であり、保護者を失った現在は尚更に危険であるというものだった。その恐れは、彼が全幅の信頼を置いて事情を打ち明けた牧師とも共有された。その親切な牧師は救助者たち――彼らは二名いた――に秘密厳守を誓わせ、村の者には救助は失敗したと伝えるように口裏を合わせた上で、消息の知れぬ彼らを不安な思いで待つローザンヌに戻らせた。牧師はその夜、彼を牧師館に泊まらせて、翌日には秘かにジュネーブのルバの家に送った。若き王を奪還する為とあらば、フランスの密偵たちが形振りかまわないのを良く承知していたルバは、彼らに少年の死を信じ続けさせる利点を即座に悟った。自分の家は既に疑われて監視対象となっていた為に、ルバはジュネーブから少年を密かに連れ出して、諸々の準備が整うまでの間、寡婦となっていた姉のマダム・ペランが暮らしている丘陵地帯のデリスにある農場に身柄を移させた。ルバは、後からラサールも到着するものと思っていた。だが、ラサールは誤解に基づいた判断から、再びルバを探さぬままにジュネーブを去ってしまった。少年は其処に留まり、その小さな農場の名前からペラン・デリス未亡人という名前で通っていた女性に可愛がられて、彼女の甥として暮らした。二年後に彼女が世を去ると、少年はルバの企てによって、ジュラ地方に住む未亡人の義弟、パサバンのジョゼフ・ペランの農場に移動した。少年はその地で安全な避難場所を得て、彼が再び世に出ても危険のない、然るべき時が到来するまでの間を、ペランの甥としてやり過ごしてきたのだ。

 話がその辺りに差し掛かった処で、ラサールは一旦休止を入れた。更に驚くべき展開を物語る段に進む前に、彼は相手が何らかの反応を示してくれるのを期待した。フーシェの死人のような顔は、しかしながら計り知れぬ表情のままだった。

「それからどうしたのだね?どうか続けてくれたまえ。アルプスの牧草地で二十年もの間、フランスの王が牛を追う生活に満足していたなどと言い張るつもりでないならば」

「ああ、もちろん違いますよ」ラサールは安堵した。話の先を促された事から、これまでの処は自分の作り話に綻びを発見された訳ではないと想定した。最も危うい部分は既に終わった。裏付けとなる記録を提出できない作り話を片付けて、少なくとも主要部分は事実であり、証明も可能な事件に関する説明に入ったのである。

「若き王は当然ながら理解していました。革命が総裁政府ディレクトワールから執政政府コンスラへと変遷し、それから後、最終的に帝国アンピールへと継承された期間のフランスにおいて、彼にできる事も、彼の為にできる事も、何一つ有りはしないのだと。その為に、彼はしばらくの間は潜伏を続け、山地にあるパサバンの農場で生活していました。そして時が経ち、水よりも濃い血の力が自らの素性を物語る事になったのです」これはラサールが思いついた事を我ながら誇りに思った潤色だった。「父親である、受難に遭った王と同じく、彼は機械工作を愛する趣味と才能を現し始めたのです。彼は時計職人の徒弟となる為にル・ロックルへ行かせるようにペランを説得し、俺が見る限りでは、其処でなかなかの技能を身に着けたようです。その一方で、自分の素性を明らかにする機会が巡って来るかもしれないフランスの変化を見守りながら、根気良く待ち続けました。彼は叔父であるムッシュー・ド・プロヴァンスに、ルイ十八世という称号の下で国王を自称している男に宛てて手紙を書きました。しかし、その手紙に返事はありませんでした、宛先に届いていたらの話ですが。彼はオーストリアの宮廷に亡命中の姉にも手紙を書きましたが、やはり返事はありませんでした。恐らくは、入れ替わり立ち替わり現れる詐称者の一人と片付けられてしまったのでしょう。

「けれどもボナパルトの失脚によって決定的な行動を採るべき期が熟したと判断した時、彼はすぐに、約十七年前にジュネーブでの事件によって中断させられた、プロイセン宮廷への旅を再開しようとしました」

 そしてラサールは、大きな嘘の中に、デリスと共に慎重に構成済みの少々の事実を混ぜ込んで、この物語の中に自分自身を大胆に登場させた。事実については、若者がドイツで脱走兵として逮捕された記録によって裏付けられる。彼が陸軍病院に送られる結果に繋がった病気。病院でのナウンドルフとの出会いと友情によって、王はナウンドルフに特定の文書と幾つかの所持品を託すに到り、そして彼には死が待つばかりと信じられた時にナウンドルフは何処かに去って行ったという事。作り話の要素は問題のプロイセン人と共に消え失せた文書の性質にあった。それについて、フーシェは次のように説明された。フォン・エンセ男爵は、彼に託された任務の重要性を考えれば何ら不思議はないとはいえ、大いに称賛されるべき先見の明を発揮して、自分が死亡した場合、あるいは彼が若き王と止むなく離ればなれになるような事態が起こった場合に、少年が己の身分を証明するにあたって困難のないようにと可能な限りの配慮をし、準備を整えていた。男爵はフランスからの脱出について余さず記録した自身の署名と捺印入りの文書を含む幾つかの書類と、それ以外にも、ルイ十六世のものであった印章や、旅の助けとなるまとまった額の金貨を用意して少年に持たせていた。これらには男爵の要請によりルバが確認書を添え、形式に則って連署した。その署名の下に少年は自身の署名を添え、この筆跡を確認させる事によって、如何に疑り深い者が相手であろうと、最終的な証明を可能にしてみせたのであった。

 ラサールの話は、ナウンドルフに託された為に若き王の手元からは失われてしまった物品についての順を追った詳しい説明に移っていた。それまで王は、問題の品々をコートの衿に縫い込めて、肌身離さず持ち歩いていた。その証拠品なしでは次の行動に移る事は不可能である為に、彼は必死でナウンドルフを探し出すべく出発したのであった。ラサールは劇的効果を与える為に、其処で言葉を切った。「それはプロイセン――ブランデンブルク――での事でした。95年にタンプル塔から彼を誘拐し、97年にフランスから彼を連れ出した俺が、この十七年間、既に死んだとばかり思っていた王と再会したのは。再会の瞬間、一目で彼と見分ける事ができました」

 ライティングテーブルに着いているスフィンクスの薄い唇が、感情のこもらぬ声でラサールが予期していた四単語からなる言葉を発した。

「非現実的な、稀なる、偶然の、合致」

「偶然の要素はありませんよ、全ての状況を考慮して見れば。我々を結ぶものは、あのナウンドルフでした」そして今、再び事実の裏付けという確固たる足場に戻ったラサールは、詳細に出会いの顛末を語った。「これについては」彼は締めくくりに言った。「ブランデンブルク警察が俺の話を裏付けてくれるでしょう」

「良くできた話だ」フーシェは言った。「そして欲を言えば、それが真実であり、その真実性が否定されない事を願う。白状するが、私は君が語った話の要所要所については、既に――恐らく君が想定している以上に――把握しているし、君の証言はこちらの情報と一致している。丁度、先程デマレ君と答え合わせをしたのと同じにね」

 その告白がラサールに安堵を許し、更に驚きを与えるものだったとしても、彼は慎重な抑制を守った。

「俺は期待していたよりも、ずっと幸運だった訳ですね」

「だがしかし、私としては己に問わざるを得ない。君は何故、公職から距離を置いて静かに引退生活を楽しんでいる私の処に来たのだろうか?とね」

「まさしくそれが理由ですよ、ムッシュー公爵ル・デュック

「君は私を誤解しているよ。今の私は自分の地所の管理と子供たちの教育以外の事柄には、さしたる関心はないのだよ」

「ムッシュー・デマレの手を借りて、ですか」

 フーシェはその無礼な言葉に微笑を返した。「性急な結論には用心をした方がいいね、我が友よ」

「そのように心がけています、ムッシュー公爵ル・デュック

「にもかかわらず、君は私を訪ねて来た。無論、何がしかの期待を抱いてだ。それは性急とは言えないのかな?」

「それどころか、全く逆ですよ。慎重な行動であると判断しました」彼は膝の上に肘を置き、前のめりになった。「貴方を訪ねたのは、公爵、今こそが『その時』であり、貴方こそが『その人』だからです」

「いやいや。今までの話からすれば、『その人』を擁しているのは君だろう」

「あえてこのように言わせていただきます。俺は、彼の後ろ盾について想定していたんです」

「そして君は、そのロールを私に演じさせようと?身に余る光栄だが、君はお世辞を言う為にわざわざやって来たとしか思えないね」

「率直に話しませんか、ムッシュー公爵ル・デュック?」

「これは驚いた!君は、私が率直ではないとでも言うつもりかね?」

「だとしたら、率直さが足りなかったのは俺の方です。テーブルにこちらの持ち札を全て広げます。閣下、あの大革命と、その後に続いた全ての小さな革命において常に主要な役割を果たしてきた貴方ならば、俺が悟っているような、感情に大きく左右される大衆の性質に気づいておられるはずです。もしも今、国家規模の幻滅と現支配者に対する嫌悪が高まっているこの瞬間に、タンプル塔の孤児みなしごが名乗り出てきたならば、その感激性は抗しがたい勢いで彼を王位に押し上げるでしょう」

 その細い声は無感動に評した。「それは可能だ。タンプル塔の孤児。それだけで感情をかき立てる肩書だ」

「しかしながら彼には、その判断力について国民の確かな信頼が置かれている、国家的重要人物の後ろ盾が必要です。ここまで言えば、公爵、私が貴方の許を訪ねた理由はおわかりでしょう」そして大胆にも付け加えた。「ルイ十八世に人並みの判断力があれば、奴が貴方を据えていたであろう場所、その同じ場所に、ルイ十七世が貴方を据えるであろう未来を提供する為に」

「なるほど。ならば、君に対して恩を感じるべきなのだろうな、私が君の想定しているような立場を欲する愚か者だとすればだが」

 ラサールは断固たる威厳をもって軽い皮肉を受け流した。「ムッシュー公爵ル・デュック、ここには恩の売り買いについて論ずべき余地はありません。俺が申し出ているのは取引です」

「それは認識しているよ。君のように洞察力のある男ならば、私と認識を共有していると思うが、ルイ十八世が間もなく明け渡す事になる王位には、他にも候補者は数名いる」

「しかし、より良い肩書を持つ者はいません。そして擁立するのがより容易な、あるいはより都合の良い者はいません」

 フーシェはすぐには答えなかった。彼は再び肖像画を手に取ると、しばしの間、静かにそれを検討していた。それからまたそれを下に置き、彼は椅子に寄り掛かると、アームに肘を置いて両手の指先を軽く合わせ、目を瞑ったように見えるまで目蓋を伏せた。しばし熟慮する間、彼は眠っているか、あるいは死んでいるかのように見えた。それから彼の唇が開き、ひとつの質問を発した。

「今、君の王は何処にいるのだね?」

「ごく近くに。このフェリエールにある『百合亭11』という宿です」

「到底、国王陛下に相応しい宿とは言えないな。とはいえ、牛飼い上がりの王に対してならば法外な扱いとも言えまいし、その屋号は恐らく吉兆だ。君は縁起を担ぐ方かね、ムッシュー・ド・ラサール?」

「貴方と同じ程度には、ムッシュー公爵ル・デュック

「なるほど。つまり君は現実主義者と判断して良い訳だ。それならば君は理解していると思うが、君の申し出は幾つかの危険を孕んでいる。最終的な結論は問題外としても、寄って立つ処が蘇った死者に関する君の知識だけしかない状況では、どのような判断も即決できるものではない。『夜は助言を生みだす』という格言もある」彼は目蓋を上げ、そして死人のような顔の中で異様なまでに強い生気を宿した両目が一瞬、ラサールに向けて再び激しく燃え立った。「明日、こちらから使いを送ろう、ムッシュー、宿で待機していてくれたまえ」


  1. ルキウス・クィンクティウス・キンキナトゥス 共和政ローマ前期の人物。ローマの大難の時期には元老院の指名により独裁官となり、外敵を打ち破って己の任務を果すと僅か16日で地位を返上して晴耕雨読の生活に戻り、また国内の叛乱鎮圧の為に独裁官の地位に呼び戻されると、再び任務を果した後で即座に地位を返上して農耕生活に戻った。 

  2. パリの東、フェリエール・エン・ブリーにあったジョゼフ・フーシェの居城。尚、現在のフェリエール城は19世紀半ばにロスチャイルド男爵が英国の建築家ジョゼフ・バクストンに建てさせたものなので、当時の面影はない。 

  3. ルイ=フィリップ・ド・オルレアン(1773年10月6日1850年8月26日)
    オルレアン公ルイ=フィリップの息子。父の影響で青年時代から自由主義思想に傾倒してジャコバン・クラブに加わり、フランス革命戦争でも将校として出征したが、デムーリエ将軍の裏切りに巻き込まれて亡命を余儀なくされた。ナポレオンの退位によりフランスに帰国。後の七月王政における「フランス人の王」ルイ=フィリップ世(在位1830年8月9日1848年2月24日)。 

  4. マリー=ルイーゼ・フォン・エスターライヒ(1791年12月12日1847年12月17日)
    神聖ローマ皇帝フランツ世の皇女(フランス語読み:マリー=ルイーズ)。ヨーロッパ王家との縁組及び世継を望んだナポレオンがジョゼフィーヌとの離婚後に后妃に迎え、一年後の1811年にナポレオン世をもうけた。ナポレオンの敗北、退位後は息子と共に母国オーストリアに帰国、本章の時期にはフランスの保養地エクス=レ=バンに滞在中。 

  5. ナポレオン・フランソワ・シャルル・ジョゼフ・ボナパルト(1811年3月20日1832年7月22日)
    ナポレオン世と后妃マリー=ルイーズの息子。フランス帝国皇太子、ローマ王。本章の時期にはウィーンの祖父の許にいる。 

  6. ウジェーヌ・ローズ・ド・ボアルネ(1781年9月3日1824年2月21日)
    ナポレオンの最初の妻ジョゼフィーヌの連れ子、実父はボアルネ子爵。ナポレオンの養子となる事でフランス皇子の称号を得ている。将校としてナポレオンの数々の遠征に従い功績を立て、イタリア副王、ヴェネチア公、フランクフルト大公、ロイヒテンベルク公、アイヒシュテット公の位を得た。本章の時点ではナポレオン帝国の崩壊によりイタリアを去り、バイエルン王女である妻の生家を頼ってドイツにいる。 

  7. ルイ=ニコラ・ダヴー(1770年5月10日1823年6月1日)
    ナポレオンの腹心の部下の一人であり、1804年に帝国元帥号を与えられた十八人の内では最年少。アウエルシュタット公、エックミュール大公。アウステルリッツ、アウエルシュタット、エックミュールの戦いでは伝説的な大勝利を収め、Maréchal de fer(鋼鉄の元帥)と渾名される一方、優れた行政能力も発揮した。王政復古時にはナポレオンに対する忠誠を貫き、新王ルイ十八世への臣従を拒んだ。 

  8. 新約聖書マタイ伝より、イエス・キリストがロバに乗ってエルサレムに入城しゼカリヤの預言を果した故事に因む。凱旋入城、王の証、救い主の到来などの例え。 

  9. Tempora mutantur, et nos mutamur in illis. (時は移ろい、我等もまた時の移ろいの中に変わりゆく)ラテン語の慣用句。 

  10. 古代ギリシアの数学者、天文学者エウクレイデス(英語読み:ユークリッド)が編纂した幾何学の公理より。 

  11. 百合の紋章(fleur-de-lys)はフランス王家の象徴。 

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