芸術の監獄 伊福部昭

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「芸術の監獄 伊福部昭」( 3 / 5 )

それはビートの躍動感と、重低音楽器の荘重な迫力、そして蒼穹に響く金管楽器の長く続く旋律。かっこ良い。伊福部の楽曲には「○○大行進」「○○大進撃」というタイトルがよく見られるが、曲想から言って自然と言うか妥当と言うか、あの規則正しいずしっ!ずしっ!ずしっ!という響きを聴くと、元気よく歩かずにはいられないのだ。


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何を聴いても、荘重で壮大な音世界が楽しめると思うが、私のおすすめの曲は、「シンフォニア・タプカーラ」(1954)と、デビュー作「日本狂詩曲」(1935)だ。特に後者は、「サビ」にしても良いようなキャッチーな旋律が、なぜかいきなり冒頭で歌われるという、やや常道から外れたつくりが面白い。匂いがしないうちに、料理のお皿が目の前に出されるような気がするが、あら不思議、「サビ」がちょっとずつ姿を変えて、何度か歌われるうちに、思いがけない変身をするのだ。これには感動する。伊福部のアタマには、旋律のストックが常時あったのかもしれない。

 

旋律のストックと言えば、伊福部は戦前の曲の一部を、戦後、専業作曲家になってからの長い曲の一部に組み込むと言うワザを頻発していて、例を挙げると、1944年に陸軍の依頼で書いた「兵士の序楽」のサビの旋律がそっくりそのまま「SF交響ファンタジー第1番」(1954/1983)の最後の部分になっている。また、2010年8月8日に初演された「音詩 寒帯林」の中盤には「ゴジラ」の最重要旋律がちゃんと登場していて、日比谷公会堂の聴衆を大喜びさせた。「寒帯林にゴジラが上陸!」な瞬間であった(?)。

 

全体的に、やはり伊福部の若い頃の(特に1930年代の)楽曲には、日本的と言うよりはユーラシア大陸的、そしてなんといっても、アイヌの祈りや踊りの要素が溢れていて、やはりこの人のオリジナリティは「北海道」なのだ、と感心する。なんというか、せせこましくないのだ。音響は西洋楽器なのに、旋律は日本でも、西洋でもない。そしてビートが素晴らしくて踊りたくなる。その特質が遺憾なく発揮されたのが、「シンフォニア・タプカーラ」で、この楽曲を聴くと、祈りと祝祭、日本のなかの非日本、などという言葉が浮かぶ。

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深良マユミ
芸術の監獄 伊福部昭
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