対馬の闇Ⅰ

 ひろ子が、目を丸くして話し始めた。「え、対馬勤務、サワちゃんが。マジ?」沢富は、小さくうなずいて返事した。「来年の1月から3月までは、警視庁勤務で、4月から対馬北署勤務となる。まったく、大切な時に転勤だ何って。ごめん、ひろ子さん」ひろ子は、呆然としてしまった。なんといって返事していいかわからなくなった。結婚の準備は全く進んでいない。このままだと、結婚は再来年になってしまうと思えた。「それじゃ、結婚は、再来年ってこと、サワちゃん」沢富は、断腸の思いで小さくうなずき返事した。「ごめん。今回の任務は、ちょっと危険が伴うし、休暇も取れない。だから、結婚は、対馬勤務を終えてからということになる。本当に、ごめん」

 

 ひろ子は、目の前が真っ暗になった。幼馴染の出口君は水死体で発見され、婚約者の沢富は、対馬に行ってしまう。暗闇に取り残されたような気持になってしまった。「1年間、待てばいいのね。悔しいけど、仕事だもんね。刑事の妻になるってことは、こういうものなのね。分かったわ。だったら、出口君の敵を必ず取ってよ。島を知り尽くしている出口君が、事故だなんて、絶対あり得ない。間違いなく誰かかに殺されたのよ。サワちゃん、きっと犯人を捕まえて。私にできることがあれば、協力するから」島を知り尽くしているひろ子は、何か協力できるように思えた。落ち込んだナオ子が、質問した。「ねえ、ついて行っちゃ、ダメなの?一人ぼっちって、さみしいわ。対馬に引っ越して、いい?」

 

 

 伊達は、顔を振った。「だめだ。危険だ。今回だけは。わかってくれ」ナオ子は、肩を落としてしょげてしまった。ひろ子が、ポンと手を打ち口をはさんだ。「そうだわ。ナオ子さん、私と住めばいいのよ。対馬で。絶対、仕事の邪魔しないから。いいでしょ、伊達さん」伊達は、返事に困った。まったく、仕事にかかわらないのであれば、別に二人が対馬観光しようが構わない。しばらく考えて、ウ~~とうなり声をあげて返事した。「ひろ子さんも、対馬に住みたいのですか?」ひろ子は、出口巡査長の敵をとるために何か情報を集めたかった。「はい、対馬でタクシーの運転手をします。ナオ子さんは、対馬観光ということで。お願いします。この通り」ひろ子は、両手を合わせてお願いした。伊達は、沢富に声をかけた。「おい、どうする?」沢富は、問題ないように思えた。「先輩がいいんだったら、僕は構いません」伊達は、しかめっ面で、うなずいた。

 

 

 

 


春日信彦
作家:春日信彦
対馬の闇Ⅰ
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