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亜紀は、軍服を着た拓実が鉄砲を担いでいる姿を想像しただけで背筋がぞっとした。今後、中東での戦争が大きくなって、北朝鮮と韓国が参戦すれば、日本までも戦場になるように思えた。もし、戦場になって、原発が破壊されたら、日本は放射能に覆われて、誰も住めなくなるように思えた。そうなれば、どこに逃げればいいのだろうかと不安になった。さやかおねえちゃんが言ってたように、九州は独立国家になるべきだと思えた。「さやかおねえちゃん、やっぱ、絶対に戦争をしない九州帝国を作るべきよ。アキ、さやかと一緒に独立運動をやる」

 

アンナは、さやかの妄想話に乗ってしまった亜紀にあきれてしまった。アンナは、戦争のない世界なんて、妄想に過ぎないと何度もさやかに言った。だが、ついに、亜紀までも妄想に取りつかれてしまったと、天を仰いでしまった。「アキ、バカなこと言うんじゃないの。国家は、戦争しなくてはならないの。戦争に勝って初めて、平和がつかめるのよ。戦わなかったら、殺されるだけなのよ。もっと、現実を見つめなさい。さやか、妄想話をアキに言うんじゃないわよ。そんこと、特高警察に知られたら、ブタ箱行よ。まったく、困ったものだわ」

 

さやかたちの地下組織は、KGBをバックにクーデターの準備を進めていた。このまま戦争が激化すれば、破壊効果の高い福井の大飯原発と静岡の高浜原発は破壊されてしまう。そうなれば、本州には、住めなくなってしまうと考えた。放射能から逃れるには、九州を独立国家にして、本州を切り捨てるべきだと考えていた。このことは、超極秘事項であった。亜紀の口から、地下組織のことがばれては一大事と話を替えることにした。

3人は話に夢中になっていたが、いつの間にか食事を終えた拓実はピースたちと遊んでいた。さやかは食糧難について話し始めた。「早く、戦争は終わってほしいものだわ。このままいけば、食べるものがなくなってしまうわよ。鶏肉と牛肉の輸入量が一気に減ったみたいで、最近、カラスやハトがニワトリの代わりに売られているというじゃない。もうしばらくしたら、イヌやネコが牛肉の代わりに売られるんじゃないかしら。スパイダーを売ってくれって、肉屋がやってくるかもね」

 

あまりにも残酷な話を耳にした亜紀は、立ち上がってさやかに抗議した。「さやか、何言うのよ。スパイダーは、売らないから。ピースもいやよ。絶対ダメ。戦争なんかするからいけないのよ。人間って、どうしてバカなことするの。どうして、仲良く暮らせないの」アンナは、血相を変えて大声を出した亜紀をなだめた。「アキ、大丈夫よ。食糧難になっても、スパイダーとピースを食べるようなことはしないから。そのために、畑にイモや野菜を植えているんだから。人間は、肉を食べなくっても、イモさえあれば、どうにかなるから。さやかったら、ちょっと言い過ぎじゃない」

 

さやかは、亜紀がこんなに血相を変えて怒るとは思っていなかった。「世界中で、ニワトリ、牛、豚が、原因不明の病気で死んでいるらしいのよ。ウイルス兵器が使われているんじゃないかと言う噂よ。これから、きっと食糧難になるわ。だから、なんでも食べられるように訓練しておいた方がいいかも。たとえば、ヘビとか、カエルとか、ネズミとか」亜紀は、ヘビと聞いて吐き気がしてきた。アンナも今食べた牛肉がカエルの肉のように思えてしまった。「さやか、やめてよ。せっかくの御馳走が台無しじゃない。食糧難になっても、ヘビなんか食べないわよ」

 

亜紀は、中学家庭科の授業についてのニュースを思い出した。全国の中学校での家庭科の授業でヘビとカエルの調理学習が義務付けられたと報道していた。やはり、今後の食糧難対策の授業だと思った。亜紀は、しかめっ面で話し始めた。「さやかの言う通りかも。イヌやネコまで食べることになったら、どうしよう。たとえそうなったとしても、アキは、ピースとスパイダーを必ず守ってやる」イヌやネコを食べると聞いたピースとスパイダーは、顔を引きつらせ一目散に二階にかけて行った。

春日信彦
作家:春日信彦
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