今度、きものを着よう その1

ともあれ、絹のあの魔力、なめらかに皮膚を滑る官能的な快楽を体感するには、出来合いのきものでは、ちょっと力がたりません。そうではなく、反物をちゃんときものに仕立てて(つまりあつらえて)それをお召しになったほうが良いです。

昨今は、ネットでもきものを買うことができるのですが、わたくしはそれもおすすめしません。なぜなら、「日本の絹」の麗しさは、パソコン画面では決して再現出来ないからです。絹の美しさを分からずして買ったきものが、その人を真に美しく見せるかどうかは、わたくしには疑問です。まあ、お時間がないかたは、あいた時間にネットで選ぶ、というのも便利ではありましょうが、そういうお買い物では、本当に満足するきものにたどり着くまでには、遠回りのような気がするのです。

 

もちろん、きものをあつらえることは、そうお安い値段ではありませんが、真に素晴らしい何かを求めるには、じっくりと時間をかけ、自らの心に問いかけ、これは、と思ったものには一定の対価を払うのが当然のことです……しかし、どうやらわたくしは先走ったようです。まずは、この本の目的と、使い方をご説明したいと存じます。

 

この本は「いつかはきものを着たいと思っている全ての方」にとってのガイド本でございます。また、「きものを着るようになり、分からないこと、困っていることが幾つかある」方向きの知識も盛り込みました。

着付けの本ではありません。着付けの手順を文章で書いても無駄だからです。着付けを覚えたい方は、お教室に行かれるか、市販の着付け本をお買いになるかをおすすめします。

この本の画期的なところは、《女性編》と《男性編》の両方を作ったところではないかと自負しています。

なぜかと言いますと、きもののガイド本は、版元が女性向けの雑誌を主力にしているものですと、100%女性の読者に向けて書かれております。総花的にきものについて語った本ですと、男性向けに着付けその他を解説しているものもありますが、ページ数はかなり少ないです。そして、男性読者向けのきものの本は、世の中に数えるくらいしかありません。

なので、わたくしはあえて、女性のきもののことと、男性のきもののこと、両

【その1:きものを買う前に、足袋と草履を揃えましょう】

方についての知識を書くことを目指したのです。

「いつかはきものを着たいと思っている方」というのは、男女問わず、なのです。

この本をお読みになってくださる皆様が、少しでもきものについての理解を深め、実際にきものをお召しになった時に、「これは読んで良かったわ、便利だわ」と思って頂ければ幸いです。

 

《女性編》

 

その1:きものを買う前に、足袋と草履を揃えましょう

 

いきなり、意表をついたことを書いているわたくしです。(笑)しかし、足元は重要なのです。どれほど優美なきものをお召しになっていても、足袋が汚れていたり、草履の鼻緒が擦れていては台無しになりますので。

足袋は、高いものを買う必要はありません。「福助」のストレッチ入りのもので充分です。大切なことは、「靴のサイズより小さめを選ぶ」ことです。靴のサイズと同サイズですと、どこかしらが余って美しくありません。

小ハゼは、4枚コハゼと5枚コハゼがありますが、どちらを選ぶかはお好みで。わたくしは、能をやっているので、肌を少しでも隠せる5枚コハゼをもっぱら身に付けます。

 

足袋は、シワがないのが美しいとよく言われていますが、そうするには、履き方が大事です。

 

   足袋の履き口をあらかじめ折り返しておく ②かかとを床につけて、両手で足袋を持って足を入れる ③かかとまで全て入ったら、折り返した部分を直す④コハゼをかける前に、足袋の履き口を両手で持って、親指側に軽く引っ張る。⑤同様に、小指側にも引っ張る。足袋が自分の足にフィットし、一体化しているのを確かめるような気持ちで行なう ⑥この「引っぱり作業」を数回行うことで、足袋と足との間の「隙間」がなくなり、結果的にシワがなくなる ⑦手で足袋のシワをもう一度伸ばすようにしてから、コハゼをかける

あと、当然のことですが、足の指の爪は短く切っておきましょう。草履を履くと、爪を保護するのは足袋の布地のみ。そう思うと結構怖いです。

 

さて、草履ですが、不思議に思われた方も多いかもしれませんね。「きものを買って、それに合う草履を買うのが筋ではないの? 」と。


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おっしゃる通りなのですが、「私の選んだ、私に完璧に似合うきものに完璧に合う草履」を求めるには、まずは「きものを着てお店に」行かなくてはなりませんので、そのお出かけのための「最初の草履」をまずは持っておく必要があるのです。要するに「間に合わせ草履」ですけどね。

 

あなたの意中のきものが、染のきもの、たとえば美麗な訪問着や、楚々とした付け下げでしたら、台が淡いピンクや、クリーム色や、淡いグレーのエナメル製で、かかとが少し高いタイプをお選びになれば、安心です。そういった「王道のおとなしい草履」はこれから汎用的に使えます。

 

逆に、あなたの意中のきものが、織りのきもの、紬や御召(おめし)でしたら、台はベージュ色か、薄い緑色で、少しかかとが低く、鼻緒は紺色とか、黒を選ぶと、粋で洒落た感じになりますでしょう。

まあ、お店のほうで「訪問着用の草履はこちら、付け下げ用はこちら。紬用はこちら」と案内してくれるのでしょうから、心配はご無用です。

 

また、草履を履いたあとは、軽く濡らした布で全体を拭き、さらに乾いた布で拭いてから、ハコにしまうのをお勧めします。湿気が禁物だからです。拭いておくと、台の横部分についた汚れもほとんどは落ちます。

 

きもの姿の美しさは、「襟」、「足元」、「袖口」で決まります。これは事実です。

 

その2:帯も帯締めも一緒に買いましょう

 

帯までは難しい!とおっしゃる方も多いと思いますが、きものを生かすも殺す


【その2:帯も帯締めも一緒に買いましょう】

も帯次第なのですよ。なので、できれば、そのおきものに完璧に合う帯を一緒に揃えることをお勧めしたいです。

 

不思議なもので「どんなきものにも合いそう」と思って単体で買った帯は、結局、自分のどのきものにも、いまいち合ってないような?? という感想をお持ちの方は多いと思います。

 

同じことが、帯締めと帯揚げにも言えます。特に帯締めは、「あの帯に合いそう」と頭の中のイメージで買ったものは、結局どれにもあわずに箪笥の中で眠っていることになります。わたくしは経験済みです。そして不思議なのですが、「この帯にわざわざ合わせて買った」帯締めが、他の複数の帯にも合うことがあります。あれは不思議です。


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恐らく、帯と帯締めの「似合う、似合わない」は色ではなく、質感でよるところが大きいからではないかと推測していますが、帯の質感のお話を始めるときりがないので、ここでは深入りしません。

 

帯揚げは、汎用的に使えるのは、淡い水色です。純白の帯揚げと言うのは、留袖などに用いる礼装であり、わたくしは持っておりません。

淡いピンク色も持っているのですが、意外にも、わたくしの所持する帯には合わないので、水色の帯揚げばかりを用いるようになりました。しかし、最近、所持している花籠文様の帯に合う、ベージュ色と白に、桜が描かれているグラデーションの帯揚げを買いましたので、次の機会にそれを着るのが楽しみです。

 

 

その3:手入れは命がけでやりましょう

 

きものを買う前のお話から、一足飛びに「買ったあと」のお話しになってしまう、素っ頓狂なガイド本でございます。なぜならば、お読みになっておられる皆様、一人一人に似合うきものを探す為のお手伝いは、わたくしには荷が想いからです。

結局は、ご自分の審美眼が最も頼りになるのです。


深良マユミ
作家:深良マユミ
今度、きものを着よう その1
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