「そんなことも出来ないんじゃ退院なんか出来ませんよ」とN医師は言い放った。どうやら彼女は病人いじめが趣味のようだ。そして自身が指示して出していた頓服薬を私が濫用(らんよう)しているとも言った。「(訓練が)ダメなようなら長期療養型の病院に行ってもらいます」と言葉を続けた。どうやら彼女は鼻から私を退院させる気はなかったとみえる。濫用と言うなら、その医師としての権力を彼女は濫用している。パワーハラスメントだ。一応の目途は、3、4か月後の退院をめざすとのこと。それまでは日常生活の訓練をしろということだ。とりあえずは歩くこと。私が一番苦手なこと。脱走を考えた私は父に不満をぶつけた。「本当に紹介状がないと退院出来ないの?それじゃあ任意入院じゃないじゃんか」父「任意だよ」私「だって書かないと言われたらどうすりゃいいんだい?」父「言われたらそこに居ればいい」私「至言だな。さすが、その通りだよ」父「了解かい」。今日も今日とてメールチャットが続く。そうだな。父の言う通り。そして「退院なんか出来ませんよ」というN医師の叱咤激励(しったげきれい)も医師としての一種の愛情表現かとも思えてくる。そして私にも確かに甘えがあった。精神病棟での人生勉強はこのように続くのである。