小説の未来(9)

そのことを踏まえたうえで小説に内包される有限性と無限性について考えてみたいともいます。創作において、作家の概念は言語化されていきます。そして、脳内言語は他人が認識できる言語へ姿を変え、外部へ発信されていきます。

 

この発信される言語ですが、この言語は概念が記号化されたという点において有限なるものではあるのですが、記号が内包する意味は、無限なるものなのです。分かりやすくするために、例を挙げて説明します。

 

日本人であればほとんどの人が知っている“太陽”という言葉があります。人は、宇宙にある物質を記号化することによって、未知なる物質を認識していきます。この記号化は、言い換えれば、未知なる無限の要素を含む物質を有限化したことになるのです。

太陽という言葉を聞くと、人は脳内に太陽をイメージできます。そして、太陽を理解できたと安心できます。物質とその運動を記号化するということは、先にも言いましたように、有限化することなのですが、“同時に”太陽という言葉は、その記号の中に無限の要素をも内包しているのです。

 

今仮に、太陽とはどのようなものですか?と質問された場合、人はどのように答えるでしょうか?おそらく、“生物が生存し続けるためには不可欠な光と熱を発するもの”というような常識的な答えが返ってくると思われますが、実は、条件を設定しなければ、答えは、無限に存在するのです。

 

作家は、無限なる概念を言語化、記号化をするという作業を行い、有限なる文章を構築し、無限を内包する有限なる作品を読者に提供しているのです。「有限と無限」の概念は、私の創作の中核をなしているのですが、私が作り上げるフィクションは、“認識と社会の有限性と無限性”を理解していただくためのものと言っても過言ではありません。

 

今回は、かなり説明が難しかったのですが、ほんの少しでも、理解していただければ幸いです。

春日信彦
作家:春日信彦
小説の未来(9)
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