小説の未来(9)

条件的に成長する精神

 

小説は人間関係の根源となっている精神を具体的にドラマ化したものと言えますが、そこで、人間の“精神の成長”について考えてみたいと思います。

 

分かりやすいように子供の成長について考えてみたいと思います。成長過程にある子供の精神は、脳細胞が正常に成長すると仮定して、将来に対し無限の可能性を持っていると言えます。現実的には脳細胞の成長過程で複雑な条件が作用しますが、子供たちは、常識的に不可能と思われるような壮大な夢を描くことが許されます。

 

確かに、子供は、大人に向かって全身の細胞を増殖させ、徐々に成長するわけですから、将来に対し無限の可能性を持っていると言えるでしょう。また、子供たちは、家族、学校、職場、などという組織に条件づけられて成長し、社会、国家の一員として生きていきます。

でも、即座にお分かりのように、一個体の人間は、無限に生存する生物ではありません。死という終焉(しゅうえん)があるのです。人間の卵子が人間の精子を受け入れ、受精したならば、細胞分裂を繰り返し、人間として成長していきますが、それが成長し、数十年間生存したとしても、人間は必ず死に至ります。

 

死ぬということを有限とすれば、人間は、“有限なる物質”と言えます。一方、人間が永遠に子孫を残し続けることができると考えれば、人類は無限に存在すると言えるかもしれません。

 

ちょっと寄り道した話をします。宇宙は有限でしょうか?それともも、無限でしょうか?宇宙の外側は存在するのでしょうか?それとも、存在しないのでしょうか?宇宙は終焉を迎えるのでしょうか、それとも、無限に存在し続けるのでしょうか?ゼロに最も近い数字は、あるのでしょうか?また、最も遠い数字はあるのでしょうか?このような常識では回答できない質問をされると、不安になります。

私たちは、できる限り不安のない、悩みのない、平穏な心の状態で生活したいと願っています。だから、心を安定させるために、何らかの条件設定をするのです。

 

そのことに関し、身近なことで考えてみましょう。太陽は動いているのでしょうか?ほとんどの人は、地球が動いているから、太陽が動いて見えると答えるでしょう。この答えは、一般的ですから疑問はないと思われます。

 

では、なぜそのような答えを出すのでしょうか?それは、大半の人たちは、そのことを小学校でそのように習っているからです。また、教科書や辞典に記載されているそのような知識を常識として身につけているからです。

質問に対する多くの人たちの答えは、常識的なものがほとんどです。また、そのように答えることによって、社会の治安が維持され、生活と心も安定するのです。つまり、ほとんどの人の考えは、一般的、常識的、条件的なもので、無条件的なものではありません。言い方を変えれば、人の言動の指針となる考えは、家族、学校、職場などの生活環境から与えられた情報に基づき導き出されたものなのです。

 

簡単に言えば、人の考えは、条件設定された有限的なものだと言えます。また、人は、有限的知識を有することで、安心感を得ているのです。もし、ある問題に対し無限に答えがあるとすれば、悩み苦しみ不安になって生活できなくなってしまいます。

 

私たちは、条件付けられた思考を行い、その結果を常識として共有し、円滑な日常生活を行っているのです。また、この常識があるからこそ、社会の治安と心の平穏が守られるのです。だからと言って、全人類に共通する常識があるわけではありません。

春日信彦
作家:春日信彦
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