小説の未来(8)

日本に連れてこられた笑顔を失った14歳の少女スアールは、マンションの一室に軟禁され、キムという通訳に監視されていた。美貌の少女に興味を抱いたヒカル監督は、キムから彼女の身の上を聞き出すことにした。女優の優希の助けを得て、キムから得た情報は、ヒカル監督に衝撃を与えた。その内容とは、マフィアに利用された後は、口封じのために殺される運命にある、ということだった。思い悩んだ挙句、ヒカル監督は、必ずスアールを世界的女優にするという約束で、彼女を買い取ってほしい、と社長に願い出た。

 

 土下座をしてお願いしたヒカル監督の情熱に押し切られた社長は、5000万円を捨てる思いで、彼女を買い取った。ヒカル監督は約束を果たすべく、彼女を映画「スラム街の天使」の主演女優として出演させた。その映画は、世界的ヒットとなり、彼女は社長に恩返しを果たすことができた。しかし、そのころ、ヒカル監督は、AV界から姿を消し、彼の所在を知るものは誰もいなかった。

 

 新興国の貧困地帯では、一般的に知られていない人身売買、内臓の売買、など非人道的な売買が日常的に行われている。スモーキーマウンテン地区の売買された笑顔を失った少女スアールの運命を通して、資本主義経済が生み出す貧困が被害者と犯罪者を生み出していること、また、国家と内通する犯罪組織、マフィアや暴力団が、国際ビジネスに深くかかわっていることを浮き彫りにしてみました。

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
小説の未来(8)
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