小説の未来(7)

自作の補足解説

 

⑩人形シリーズ「木彫り人形」では、完全犯罪の生命保険金殺人を取り上げました。私は、かつて生命保険会社に勤めていたときに、ふと思いついたアイデアをドラマ化しました。世界中に死に至る死亡事故は、数えきれないほどあります。その中で、殺人と認定され、犯人が検挙される殺人事件数は、ほんの一握りです。つまり、不慮の事故による死亡と思われるものの中にも、他殺が多々含まれているということです。

 

 主人公は、悩み相談事務所を構え、悩み相談業をやっている澤田健二と離婚を願うあまり、殺人ほう助をしてしまう安西かおり。かおりの夫は、会社倒産後再就職ができず、自暴自棄からアル中になり、お酒が入ると家庭内暴力を犯すまでになっていた。そのことでどうすれいいかわからなくなったかおりは、澤田の相談所にやってきた。澤田は、当初、アル中の夫の再就職による再起を促した。

 

だが、アル中の夫は、かおりの意見に対してさらに暴力を振るうようになり、かおりは傷害を負わされるまでになった。次第に、かおりは夫との離婚を考えるようになり、穏便に離婚できる方法を澤田に相談した。澤田は、離婚の決意を確認すると、幸運をもたらす木彫り人形にお願いすれば、必ず願いがかなうと言ってかおりを誘導し始めた。そして、かおりは、殺人ほう助と気が付きながら澤田の指示に従う。

澤田のアドバイスを受けてから半年後、かおりは澤田に指示された日に実家で外泊した。奇遇にも、外泊したその夜に火災が起き、焼死体となった夫が焼け跡から発見された。出火原因は、夫の寝たばこということで処理され、受取人となっていたかおりの口座に死亡保険金1億円が振り込まれた。この火災には、澤田の愛人で生保レディーの西川が関与していたが、近隣に住宅はなく、誰一人目撃者はいなかったため、彼女への捜査がなされることはなかった。

 

この完全犯罪に味をしめた澤田は、一年後、死亡保険金受取人になるためにかおりと結婚し、不審火による自宅の火災を引き起こした。そしてさらに、かおり、彼女の母親、子供二人の死亡保険金を手に入れた。大金を手に入れ、働く必要がなくなった澤田と西川は、ハネムーンを兼ねて世界一周旅行に旅立つ計画を立てた。そして、幸運をもたらした木彫り人形に感謝し、二人は澤田の別荘で一夜を過ごした。

 

翌日、二人は気晴らしに嬉野温泉に出かけることにしたが、デートには邪魔だと思い、木彫り人形を別荘に残して出かけた。助手席に西川を乗せ、ハンドルを握った澤田のベンツは、ヘアピンカーブの多い糸島峠、三瀬峠を軽快に突っ走り、無事佐賀大和インターに到着した。早速、佐賀大和インターから長崎自動車道に乗り上げ嬉野に向かったが、なぜか、武雄北方を過ぎてから突然、車のブレーキが利かなくなった。スピードを落とそうと何度もブレーキを踏んだが、スピードは増すばかりで、大きな悲鳴とともに、ベンツは時速150キロを超すスピードで前方を走るトラックの後部に追突した。そして、二人は即死した。

 

人は、一度は殺意を持ったことがあるのではなかろうか。でも、ほとんどの人は、殺意を実行に移すことはしない。たとえ、殺人を犯し、完全犯罪が成功したとしても、人を殺したという罪悪が、いつか、人に不幸をもたらすという不可解な現象を描いてみました。

⑪沢富刑事シリーズ「女優」では、売名行為のために二人の漫才師を自殺に見せかけて殺すという、女優、桂子の愛情を利用した完全犯罪を描きました。中洲芸能大学の学生、田柴と崎山は、日本一の漫才師を目指して、漫才の稽古に打ち込んでいたが、卒業漫才が不評で卒業できなかった。そこで、やむなく学費を稼ぐために、二人は奇妙なバイトを始めることになった。そのバイトとは、人間の内臓を取り出すという気持ち悪いバイトで、崎山はどうにかこなしていたが、田柴にとっては苦痛を伴うものだった。次第に、田柴の体調がおかしくなり、ついには、精神異常に陥ってしまった。

 

 田柴は、次第に自殺願望が芽生え、一緒に死のうと自殺を崎山に持ちかけるようになった。困り果てた崎山は、田柴の彼女桂子にこのことを相談すると、田柴の自殺願望の原因は自分にあるといって、桂子も自殺したいと言い張った。崎山は、田柴の自殺願望は桂子が原因ではないとひたすら説得したが、桂子の自殺の意思は変わらなかった。結局、すべての責任は、自分にあると思った崎山は、自分も自殺する決意をした。

桂子は、崎山の自殺意思を確認すると、三人で自殺する計画を立てた。その計画とは、二人が確実に死んで桂子だけが生き残る計画だった。自殺決行の日、桂子は、管理人に分からないように寮の小さな窓から侵入し、3Dプリンタで作った拳銃で自殺を図った。その自殺とは、田柴は崎山を撃ち、崎山は桂子を撃ち、桂子は田柴を撃つという自殺だった。崎山の合図で、一斉に拳銃の引き金を引くことになっていたが、田柴の銃声を確認した桂子は、うまくいったと思い、即座に、引き金を引いた。

 

自殺を固く決意していた崎山であったが、結局、桂子に好きだと打ち明けられた崎山は、桂子に対して引き金を引くことができなかった。恋愛心理に精通した桂子は、“崎山は愛してくれている人に向かって引き金を引くことができない”、という心理を推理していた。その推理は的中し、ものの見事に桂子だけが生き残る自殺計画は成功した。また、元カレが自殺したということで、桂子は一躍時の人となり、女優の道も開けた。沢富刑事は、窓の外に残された27センチの靴跡に疑問を持ったが、結局、ホモの関係にあった男二人の相打ち自殺ということで事件は処理された。

 

このドラマでは、また、お金に困ると有償の臓器提供、原発労働、不法バイトなどにかかわってしまう反倫理的側面も描いています。現在、世界中で高額な金額での臓器売買がなされ、特に、新興諸国では誘拐された子供が腎臓を奪われ、殺されるという悲劇が起きています。金持ちが生き延びるために、貧乏人が殺されるという、富裕層と貧困層を浮き彫りにしました。

春日信彦
作家:春日信彦
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