小説の未来(5)

③黒猫シリーズの「母性の罪」では、堕胎の罪に苦しむ39歳の女教師ルミ子と教え子の中学生とのエロスを描きました。神様のいたずらなのか、孤島に赴任したルミ子は、親友麻美の子供、剛士をマンツーマンで教えることになった。ルミ子は、大学の時、彼氏に裏切られ堕胎していた。その時から、堕胎の罪に苦しみ、恋愛恐怖症になっていた。だが、誰もいない教室で母親のように剛士に教えていると、しだいに罪悪感は消え去って行った。

 

ルミ子は民宿に下宿していたが、ある日、そこのおばあさんから、剛士の父親は、診断の結果、無精子で子供を作ることができない身体だとルミ子は知らされた。また、10年前に麻美は失踪したということになっているが、おばあさんは、そのころ誰一人孤島から出て行ったものはいないと断言した。その話からルミ子は、麻美は子供欲しさに不倫し、そして、夫の子供と偽って剛士を出産したのではないかと推測した。また、麻美は、島を出て行ったのではなく、不倫の罪悪感から自殺し、孤島のどこかで眠っているのではないかと推測した。

 

ルミ子も徐々に心が回復するにしたがって、妊娠の欲求が強くなっていった。剛士が高校に無事合格後、二人は剛士の自宅でくつろいでいると、ルミ子の子宮は爆発的にうずき始めた。妊娠の欲望を抑えきれなくなったルミ子は、ついに、親友麻美が産み落とした15歳の鳥羽を誘惑してしまう。夏のある日、妊娠したルミ子は、取り壊されることになっていた剛士の家を見に行った。そして、“白骨が出てきたばい”という床下を掘っていた土木作業員の驚きの声を聞いた。麻美の亡霊が乗り移った黒猫が、ルミ子に寄り添い、罪を背負ったルミ子の将来をじっと見守っていた。

④コロンダ君シリーズの主人公は、法務大臣の父親の意向に沿って政治家になっていく青年コロンダ君です。彼は、T大文Ⅰ卒業後、警察庁のキャリアから弁護士、参議院議員と転職していきます。本人は、小説家を志していましたが、文才がないことに気づき、挫折しました。コロンダ君の父親の愛人お菊さんが、脇役としてドラマを盛り上げます。お菊さんは、京都の老舗料亭の娘で、文才に恵まれた彼女はエロ小説家として活躍していきます。コロンダ君の実の母親が亡くなってからは、お手伝いさんとしてコロンダ君と一緒に生活しています。

 

「ありふれた殺人」は、同性愛者の片方が結婚するということから起きるソープランド殺人事件で、殺人現場は男が遊ぶソープランドです。刑事は、犯人は当然“男”と思い込み、まったく見当はずれの捜査をします。本来事件には首を突っ込むことができないのですが、詮索好きのコロンダ君は、県警本部長にお酒を飲ませながら言葉巧みに誘導尋問をして、彼からある程度の情報を手に入れました。

 

そして、東京に帰ったコロンダ君は、女性心理に詳しいお菊さんに相談します。いつもは、名推理をするお菊さんも不可解な事件にお手上げ状態になりました。お菊さんは、親友の女性が何か事件のカギを握っているのではないかとひらめき、福岡に行っての聞き込みを提案します。コロンダ君は、糸島市のレストランで親友の女性に会い、いくつかの質問をしました。その返答の様子から、もしかして、彼女が犯人では?と直感しましたが、問い詰めることができず、素直に引き下がりました。

 

一般常識にとらわれた刑事の捜査を通して、いったん思い込んでしまうと自分の考えに疑いを持たなくなるという特徴をドラマ化しました。この作品は、エドガー・アラン・ポー作の「盗まれた手紙」を参考に書いてみました。

⑤ゆう子シリーズの「友情をかけた嘘」では、裁判官を志す正義感あふれる親友横山の断腸の思いの嘘を描きました。ゆう子は、新体操の選手でオリンピック出場を目指す糸島中学3年生です。糸島高校に進学を決めていたゆう子は、突然年末に教頭から東京の名門高校への特待生に推薦されたが、幼なじみの菊池を忘れることができず、東京への旅立ちに足踏みをしていた。一方、菊池も大分の名門高校からスカウトされていたが、幼なじみのゆう子から離れることができず、ゆう子と一緒の糸島高校への進学を望んでいた。

 

横山は、このままでは、ゆう子のオリンピックへの道は途絶えてしまうと思い、二人に嘘を言って、それぞれの夢に向かわせる決意をした。ゆう子は、“菊池は大分の名門に進学する”という嘘を横山に聞かされ、信じていた菊池に裏切られたと思ったゆう子は、東京へ旅立つ決意をした。ゆう子の決意を聞かされた菊池も、甲子園のマウンドに立った晴れ姿をゆう子に見せようと大分へ旅立った。

 

ゆう子は、福岡空港を飛び立たった飛行機の中で菊池からのメールを開き、その時初めて、横山の嘘に気づいた。そして、正義感あふれる横山の断腸の思いを考えると涙が止まらなかった。ここでは、親友の夢を後押しするために心で涙する横山の友情を描きました。

春日信彦
作家:春日信彦
小説の未来(5)
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