小説の未来(3)

初めて書くのですが、どうすれば書き始められますか?

 

 初めて書く場合、女性であれば恋愛小説、男性であれば推理小説に興味が引かれるのではないでしょうか。恋愛小説であれば、女子もしくは男子を主人公にして、家族の反対や不治の病と闘う恋愛、あるいは不倫や兄妹や同性などの反道徳的恋愛を設定してのドラマ展開が考えられます。それぞれにバリエーションはいくつかありますが、恋愛小説こそ、人物描写の技術が要求されるので、一見簡単のように思われますが、奥が深いのです。

 

推理小説を書きたいと思った場合、絞殺、扼殺、刺殺、射殺、毒殺、などの具体的な殺人事件と犯罪者の殺人動機、アリバイ工作を設定し、そして、悪戦苦闘しながら捜査する刑事と必死に逃げ切ろうとする犯罪者、その難解な事件にかかわる人物を描いて行けばどうにかドラマは進展すると思います。この手の殺人事件小説では、殺人方法とアリバイ工作がドラマの面白みを左右します。おそらく、殺人事件もので使われる殺人方法とアリバイ工作は、ほとんど公開されていると思うので、まったく新しい殺人方法とアリバイ工作を考え出すのは難しいかもしれません。

 

ドラマ展開の原動力となる登場人物ですが、自分自身をモデルにして書くことには限界があるので、そこで知識と発想による創作の技術が必要となります。初めて書く方は、プロの真似をすることから始めればいいかと思います。まねるということは、技術習得になるので、悪いことではありません。いかなる小説でも、最も大切なことは、人物描写だと思っています。私の場合、書き始める前にあれやこれやと面白そうなドラマ展開を考えるより、描きたい人物をどんどん書きながら、その人物にドラマを作ってもらうというやり方を取っています。

人物描写で心がけていることはありますか?

 

 プロはさておき、これから書き始めようとされているアマの方は、すべてにおいて技術的に未熟なわけで、特に、人物の描写については難しく思われるでしょう。一般的に、主人公がいてその周りに引き立て役がいるわけですが、筋書きは単調でも登場人物の描き方次第で作家独自の味を出すことができると思います。プロの作品では、どちらかというと主人公の活躍に重きが置かれ、読者を楽しませているように思います。

 

 ほとんどのアマは、プロの作品を参考に書かれていると思われますが、プロの真似をされることはいい方法だと思います。たとえば、刑事、探偵、記者などを主人公にして、殺人事件を解決するという数多くの推理小説が市販されていますが、作者の個性を出せば、この手の作品でもオリジナルな味のある作品ができると思っています。アマの方にとって、最初は、推理小説を書く方が書きやすいかもしれません。ここで大切なことは、やはり人物をどのように描いていくかでしょう。

 

 小説は、娯楽の一つだと述べましたが、作者は読者が求める楽しみを提供しなければなりません。当然、読者は十人十色ですから、必ず多くの読者にウケルとは限りません。アマは、プロのような技術はないのですから、そのことに落ち込まず、くよくよせず、自分の力量でガンガン書けばいいのではないでしょうか。私も技術の未熟を気にせず、まずは、ドラマを前進させることに意識を集中させています。

 

技術はさておき、私は人物描写を最重要視しています。私の小説では人物を描くことが、真の狙いと言っても過言ではありません。登場人物にはいろんな人がいて、複雑な人間関係を作り出して行きます。だからこそ、小説家はいろんな奇想天外なドラマを生み出すことができるのです。読者は、読書を通して、架空の世界で現実には出会うことのないような人物と会話し、あり得ないような人間関係を疑似体験できます。この点が、小説のだいご味ではないでしょうか。

 

人物を描く技術を向上させる方法ですが、実体験を豊富にするのがいいとは思いますが、やはり限界があります。だから、アマは、プロの作品を通して疑似体験を豊富にし、プロの技を極力真似するほかはないかもしれません。後は、発想とチャレンジでしょう。人物描写には、外観、表情、動作、心理、思考、行動、などがあります。まずは、自分が描きたい人物を想定し、その人物を描きながらドラマを考えて行けば、どうにかドラマにかかわる人物も描けるのではないでしょうか。

 

まさに、その手法は私の手法です。たとえば、恋愛小説であれば、描きたい人物に恋愛をしてもらうわけです。探偵ものであれば、描きたい探偵に事件を解決してもらうのです。私の創作の中核をなすのは、人物なのです。自分の中にいる人物が、ドラマを作っていくと考えてもらえばいいと思います。どの程度まで人物を描けるかは、技術に左右されますが、とにかく、プロの真似をしながら“たくさん書く”ことが技術向上につながると思います。

頭がよくなくても小説家になれますか?

 

 勉強は嫌いだけど小説家になれば有名になって金持ちになれるのではないか、と思い小説家にあこがれている中学生、高校生の方がいるかもしれません。一方、小説家になるには、一流大学を出る必要があるのではないか、と不安に思っている方もいるでしょう。あくまでも個人的な意見ですが、小説家は学者ではないので学歴は関係ないと思っています。中卒でも、高卒でも、大卒でも、小説家にはなれるでしょう。でも、小説は、言葉の芸術ですから、作家になるための言語表現の勉強は必要と思います。

 

 毎日学校でやっている受験勉強も小説を書くうえで役に立ちますが、必要な勉強は、プロの作家の作品を読み、自分の考えと比較し、思考の幅を広げること。それと、「条件思考力」を高めることも必要と思います。いかなる分野の作品を書くにも、ドラマ作りのための知識は必要です。最も大切なことは、自分の知識をドラマ作りに応用することです。常識的な知識でも、作家の組み立て方によって、面白い作品となるのです。

春日信彦
作家:春日信彦
小説の未来(3)
0
  • 0円
  • ダウンロード

1 / 6

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント