小説の未来(1)

確かに、架空の出来事を創作するより、現実のありのままを映像や音声で表現する方が、それらを受信する多くの人にとっては、分かりやすく、情報価値があるように思えます。では、なぜ、フィクション小説が存在するのでしょうか?「フィクションを通して現実を見つめてみる」とこのようなことを言われる方がいます。

 

映像のフィクションにも小説と同じ効用があるわけですが、ならば、言語にこだわる必要はないのでは、と思われるかもしれません。それでも、私は、言語にこだわるのです。なぜかと問われても、「どうしても言葉でなければ表現できないことがある」としか答えられません。

 

映像には、それなりの効用があって、決して、言語に劣るものではありません。それどころか、映像でしか表現できないものが多々あるでしょう。言語と映像には、それぞれ特有の長所があるわけですから、いずれも、存在し続けて行くと思われます。

 

 

人工知能と脳

 

人間の脳は、五感を使って現実を見つめています。でも、見つめている現実は、見つめる人によって違っています。たとえば、視覚を使って犬をとらえた場合、犬という日本語を知っている人は、犬と認識するでしょう。でも、犬を見たときの感じ方は、その人によってかなりの違いがあるでしょう。そこで、細かな感情の違いを表現するのに、言語は役に立ちます。

人は、行動し、言葉を使い、感情を抱きます。それらは、同じ人間でも、細かな点において、違いが出てきます。そんなことは、当たり前じゃないか、とおっしゃるでしょう。まさに、同じ人間でも、まったく同一じゃないのです。いかなる生物も、まったく同一な生物は、存在しないように思います。

 

また、人は、脳を機能させて生きています。遺伝子的異常や後天的障害による変質を除けば、脳の仕組みは、ほとんど同じです。でも、脳の機能には、犬の例で述べたように、細かな点において違いがあります。

 

 そこで、言語を生み出す「脳」について少し考察してみましょう。脳を考える上でどのようなアプローチ方法があるのでしょうか?脳を物理学的、生物学的、生理学的、化学的、数理学的、統計学的に考えて行けば、脳は、解明できると思われるかもしれません。

 

でも、やはり、脳の機能は、無限に変化していきますから、数理的に脳の機能をとらえて行っても、永遠に追跡していかなければならないことになります。人間が保有する脳は、生物としての生命があるという点から考えて、有限と言えますが、脳の機能は、機能している限り無限と言えます。

では、無限の機能を有する脳をどのようにとらえて行けばよいのでしょうか?別に悩むことはない、自然科学と数学に任せていれば、いずれ解明されるとおっしゃる方もいるでしょう。

 

恋愛感情や宗教観念も、所詮は、脳機能にすぎません。ならば、科学によって、いかなる脳機能もいずれ解明され、脳機能は人為的に自由自在に操作できるようになる、と言えなくもありません。

 

 人間の脳は、人工知能を開発しました。今後、ますます、人工知能は発達するでしょう。もしかすると、脳以上の機能を持った人工知能が出来上がるかもしれません。たとえそうなったとしても、人工知能と生物としての脳は、同一とはならないでしょう。

 

高度に発達した人工知能は、分野的には、人間の脳を凌駕すると思いますが、今後どんなに発達しても、機械である人工知能は、生物である脳と同一にはなれません。

 

 人間以上の脳を持ったロボットは作りえても、所詮、「機械」であって、「生物」ではないのです。人間が生物以上に秀でた機械を作り出すことができても、その機械は生物である人間にはなりえません。今後、人間は、高度な機械を創造し続けることができるでしょう。でも、先ほど言いましたように、機械は、生物に限りなく近づくことはできても、生物には、なりえません。

 

言いたいことをまとめると、人間は生物であり、生物である人間を動かすのは、最終的に「欲」だということです。だから、「欲」を持った人間が人口知能を使う限り、人工知能が人の幸せに使われるとは限らないということです。

 

だから、人工知能を発達させると同時に、人間が持つ「欲」についても考えて行かなければならないわけです。機械には存在しない「欲」について考える場合、科学的(論理学的、数理学的、生理学的、医学的、等)方法と芸術的(映像学的、哲学的、宗教学的、文学的、等)方法があるように思います。

 

そこで、私としては、これからもフィクション小説を用いて人間が持つ「欲」を考察していきたいと思っています。

春日信彦
作家:春日信彦
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