そっと、玄関を入った鳥羽は、踊り場に立って待っていたさやかの顔を見て、深々と頭を下げた。さやかは、無事に帰ってきた二人を見て、ちょっと微笑み、アンナの寝室に駆けていった。アンナは、ふてくされた顔で玄関にやってきた。心の底から怒りがこみ上げていたが、なぜか、無事に戻った二人の顔を見ると怒鳴る気になれなかった。「さあ、上がりなさい。人騒がせな、二人ね。今度から、出かけるときは、行き先を言いなさい。分かった」
鳥羽は、踊り場に駆け上がると、アンナの前で正座した。そして、「ごめんなさい、ごめんなさい」と言って、土下座した。それを見ていた亜紀も、素早く、鳥羽の後ろに正座すると土下座した。二人の姿を見ていると、先ほどまで爆発しそうだった怒りが一瞬にして消えた。なぜか、突然、笑いが込み上げてきた。「二人とも、十分反省したみたいね。鳥羽君は、おにいちゃんでしょ、もっとしっかりしなきゃ」頭をあげた鳥羽は、泣きそうな顔で、もう一度「ごめんなさい」といった。
アンナは、腕を振り上げると、今にも殴るふりをした。亜紀は、おにいちゃんが殴られると思い、目を細めた。アンナは、勢いよくゲンコツの腕を振り下ろした。だが、コツン、と小さなゲンコツを食らわせて、ニコッと笑顔を作り立ち去った。ホッとした亜紀は、ぴょんと跳び上がり、鳥羽に抱きついた。“おにいちゃん、ありがとう、おにいちゃん、ありがとう”と心の中で何度も叫んだ。