ガンプラの日

 亜紀は、うなずいた。「そうなの。おにいちゃんが、こっそりアキバに行こうって言ったの。その方が、スリルがあるからって。だから、今朝の5時ごろ、こっそり家を抜け出して、おにいちゃんと一緒にタクシーで空港に行ったの。だから、ついさっき、ママは、アキバ行をしったの。おにいちゃんは、ちゃんと、ママにメールしとくって言ったのよ。それなのに、忘れるなんて。おにいちゃんって、ほんと、バカ。アキは、悪くないもん」

 

 ひろ子は、もしかすると警察沙汰になっているんじゃないかと思った。鳥羽を怒鳴りつけようかと思ったが、今ごろになって、怒鳴っても、事態は収まらないと思い、二人に事の重大さを話した。「鳥羽君は、もう、高校生でしょ。黙って、連れ出すってことは、誘拐と同じなのよ。きっと、大騒ぎになって、警察沙汰になってるわよ。どうするの。分かってるの、鳥羽君」

 

 鳥羽は、頭を抱えて、ウ~~~とうなっていた。「ごめんなさい。僕が、すべて悪いんです。やっぱ、警察が来ているでしょうか?捜索願が出されているでしょうか?ア~~、どうしよう。ア~~、バカ、バカ、バカ」鳥羽は、自分の頭を何度もたたいた。亜紀は、自分は悪くないと思ったが、なんとなく、自分も悪いような気がして、泣き出しそうになった。ひろ子は、このまま帰れば、鳥羽君は、警察に事情聴取されて、気の強いアンナさんにボコボコにやられると思った。

 ひろ子は、話を続けた。「今、メールはしたのね。ってことは、そのことは、警察には、連絡されたと思う。でも、鳥羽君がやったことは、誘拐事件と同じなんだから、アンナさんに、ボコボコにされるわ。覚悟は、できてるわね」鳥羽は、ア~~~、とうなり、「ひろ子さん、助けてください。見殺しにしないでください。お願いです」と涙を流し、お願いした。

 

 亜紀も鳥羽が、かわいそうになってきた。アキバに行ったのは、二人だし、おにちゃんは、亜紀のために、お小遣いをはたいて、アキバに連れて行ってくれた。黙って行ったことは、悪いことだけど、おにいちゃんは、とっても優しい人だと思った。おにいちゃんに責任を押し付けた自分が、恥ずかしくなってきた。「おにいちゃん、アキもアキバに行ったんだから、一緒に謝る。おにいちゃんが、殴られるんだったら、アキも殴られる。おにいちゃん、泣かないで」

 

 きっと、警察沙汰になっていると思ったひろ子は、自分も一肌脱ぐことにした。「二人とも、こうなったら、覚悟を決めなさい。確かに、悪いのは、トバ君だけど、アキちゃんのために、アキバに行ったんだから、トバ君も、優しいところ、あるじゃない。きっと、警察は来てると思うけど、そこは、何とかなるわ。おね~ちゃんは、デカには、顔がきくんだから、安心して。男でしょ、潔く、謝りなさい。ママも、分かってくれるって。もう、泣くのは、ヤメ」

 助っ人が現れ、ほんの少し、気分が楽になった鳥羽は、力を振り絞ってつぶやいた。「はい、悪いのは、僕ですから、とことん、謝ります。本当に、反省しています。ひろ子さん、ご迷惑をおかけして、本当に、申し訳ありません。自分のしでかした過ちは、ちゃんと、自分で責任を取らなきゃいけませんよね。いかに、自分がバカか、今回のことでよ~~く分かりました。二度とこのようなバカなことはしないと誓います」

 

 ひろ子は、十分反省した二人を励ますことにした。「よくぞ、言ったわ。それでこそ、九州男児。誰にだって、過ちはあるわ。わたしなんか、お母ちゃんから、叱られてばっかだった。家出をして、連れ戻されたこともあった。でも、青春なんて、こんなものよ。よっしゃ、ガンダムソングで元気を出しなさい。そらのかなたで、いくわよ」亜紀ちゃんは、ヤッター、と叫ぶとパチパチパチと拍手をした。

 

そらのかなたで あらそうがはじまる ほしがしずかに まばたくように はがねのよろいに みをつつんだら こころがひげきを まとってしまった へいわのねがいは もうきこえない がれきがくずれる おとにけされて うごきはじめた れきしのはぐるま むかうさきには ぜつぼうしかない みんなしっているのに なぜ?なぜ?なぜ?

小さな恋

 

 鳥羽のメールは、テーブルの上に置かれていたスマホの着信音を鳴らした。担任の先生からだと思ったさやかは、スマホを手に取ると、素早く、メールを開いた。意外にも、鳥羽からだった。早朝から二人でアキバに行き、今、福岡空港に到着したとのメールを受け取ったさやかは、寝込んでいるアンナのところに跳んでいった。アンナは、そのメールを読んで、ホッと安心した表情をするとドッと涙を流した。さやかは、亜紀が無事だったことに涙を流したと思った。

 

 だが、アンナの涙は、さやかが思っていた涙ではなかった。亜紀の気持ちを分かってあげられなかった自分のふがいなさに涙したのだった。もっと、亜紀と会話していれば、もっと、一緒に遊んでやっていれば、亜紀の気持ちも理解でき、自分がアキバに連れて行ってあげられたと思った。また、亜紀と一緒にアキバに行ってくれた鳥羽のやさしさに感謝した。でも、黙って連れて行ったことは、許せなかった。

 

 さやかは、鳥羽からのメールをアンナに知らせた後、すぐに、小太り刑事にも知らせた。知らせを受けた二人の刑事は、即座にアンナの自宅に向かった。630分過ぎに到着した二人の刑事は、駐車場で鳥羽と亜紀の帰宅を待った。都市高速を使って空港から約40分かかると考えると、650分ごろにタクシーは到着すると計算した。気落ちしてしまったアンナは、起き上がることができず、まだ寝床の中だったが、さやかは、玄関の中で拓実と一緒に待つことにした。

春日信彦
作家:春日信彦
ガンプラの日
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