サイボーグΠανδώρα

死んだ世界( 2 / 2 )

Ⅱ.Πανδώρα

 「ねぇねぇお母さん!見てあの服!可愛くない!?私あれ欲しい!」
 右隣にいた女性の裾を掴みながら、少女は美しく透き通るような声で言った。
 サラサラで黒く長い髪の毛、それと着ていた綺麗で清潔な白いボレロの制服が蝶のようにひらひらと舞う。
 「駄目よ。あなた、お洋服ならたくさん持っているでしょう。もっと物を大切にしなさい。」
 裾を掴まれている女性は言った。
 蝶が描かれている朱色の和服で身を包み、漆で黒塗りされたこっぽりを履いた女性だった。
 瞳、髪の毛、顔、肌、身体、全てにおいて歳を感じさせない、美しい女性だった。
 「そうだぞ花梨。物を大切にすることは、人を大切にすることと同じことなんだ。このことはしっかり覚えとくんだぞ。」
 左隣にいたスーツ姿の男性は言った。
 服を着た上からでも分かる、筋肉質な身体だ。
 身長は高く、190ぐらいだろうか...。がたいの良い男性だ。
 「分かったよお父さん。ちゃんと家にある服着るから...。」
 少女は頬を膨らませながらそっぽを向いた。落ち込んでいるのか、怒っているのか、曖昧な表情になる。
 そんな姿を見て、彼女の両親は見つめ合いながら微笑ましく笑った。
 この家族はこの日、買い物をしに外出をしていた。
 幸せそうな家族だ。見てるこっちも微笑ましくなる。
 誰もが彼女らの日常が続くことを望み、又、自分達も彼女らのようになりたいと思うだろう。
 人間は...ね。
 でもね、神様は違ったの。
 私達が買い物を終えて、帰宅していた時のことだった。夕方だったかしら。
 ちょうど、信号が青になって横断歩道を渡っていた時よ。
 今日買ったものとか、明日何するのか、楽しい話をしていたわ。
 その途中、右が激しく光ったから私は右を向いたんだけど、目の前に、大きな壁が現れたの。
 ちょうど太陽が私の向いた向かい側にあったし、強い光のせいで目を細めていたから、壁にしか見えなかった。
 ごめんなさい。私が人間だった時の記憶は、ここまでしかないの。
 意識を失ってんだと思う。
 ここからの日々は、地獄みたいに辛かったわ...。
 私が目を覚ましたのは、公衆トイレを無理やり病院に改造したような所だった。床や壁には大量の血が塗られていたわ、
 その中のベッドで、私は横たわっていたわ。手足を高速されてる状態で。
 でも、すぐに違和感を感じた。
 寝ているのに、寝てない感じだったの。
 困惑の中、私は違和感を確かめるため体を起こしたわ。
 今でも、あの衝撃は忘れられない。夢に何度も出てくる。思い出すだけでも、とてつもない寒気と冷や汗が私を襲いそうになるわ。
 頭から下が全部...、機械になっていた。いわゆるサイボーグってやつよ。
 「なによ...。これ...。」
 そう言わざる終えなかった。
 息が上がって、過呼吸みたいになった。目は焦点が離れたり、遠ざかったりして激しく錯乱したわ。何も見ることができなかった。
 (ぁ...あ...ああああああああああああああああああああ!!)
 叫んだつもりだったんだけど、声が出なかった。私は喋れなくなっていたの。
 頭を何度も何度も何度も何度も打ち付けたわ。
 誰かにこの痛みを伝えたかったのかもしれない、早く夢から覚めたかったのかもしれない。発狂したわ。
 そしてまた、私は気を失ったわ。ショックのあまりね...。
 もう一度目を覚ました時は、私は牢獄みたいな部屋でうつ伏せの状態だった。
 目が覚めると同時に、すぐさま体を確認したけ。だけど、特に何の異常もなかった。ちゃんと硬い石の床で寝ているという感覚があったし、体もちゃんと皮膚で覆われていた。
 (あれって...。夢?)
 (そうよ夢よ、夢、夢、夢。夢だったのよ。)
 うずくまりながら、何度も何度も何度も何度も何度も自分に言い聞かせたわ。なんで私がこんな場所にいるのか、なんで声が出ないのか、疑問に思えないほど必死にね。
 でも、そのおかげで少し落ち着くことができた。
 それから、立ち上がって部屋を見渡したら、目の前の扉の横に木箱があった。
 恐る恐る開けたけど、中には色々と入っていた。
 カーキーのマント、白いタンクトップ、魅惑的なホットパンツ、ドラム型の黒いバッグ、レザー製のレッグホルスターとフィンガレスグローブとブーツ、大きな地図、赤いペン、方位磁石のリストバンド、それからレーダー。これらが入っていた。今私が身に着けているものと同じものがね。
 裸で外に出るのは流石に恥ずかしかったから、その場で着替えたわ。普段着ない様な珍しい衣類ばかりで、最初は驚いたわね。
 それで、着替えた後...、私はドアの向こうへと行こうとしたの...。
 ドアを開けて、部屋から出たわ...。
 赤い...、赤い廊下だったの...。身の毛がよだったわ...。壁から感じる視線を横切り、無我夢中で走ったわ...。
 もう...、言わなくても分かるでしょ...。
 廊下を抜けると、光が差し込んできたの。
 喜んだわ。こんな地獄から抜け出せる、もうあんなものを見なくて済む、やっと夢から覚められるって。
 でも、そこからが本当の地獄の始まりだった...。

 この世界はね、きっと平等に出来てると思うの。
 神様は、幸せな私達を不幸な私達に変えて、平等にした。
 しょうがないことだと思った。
 これが運命なんだって、認めた。
 こんな身体にされたのも、こんな世界になったのも、運命なんだって。

 初めてこの世界に顔を出した時、私はメタルプレートのネックレスをしていることに気がついた。表には『Πανδώρα(パンドーラー)』、裏には『HOPE』と書かれていた。
 だから私、パンドーラーは、希望という名の運命に沿って歩き始めたの。

 だから私は、今日も奴らと戦い、砂漠を歩き続ける...。
Turtle
作家:Turtle
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