同行三人旅

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(2)

 十年ぶりの左ハンドルのレンタカーには慣
れるものではなく、必死のドライブだ。おま
けにミュンヘンは駐車禁止区域ばかりであり、
また安ホテルにパーキングがない。

 出先からホテル近辺に戻ってきたのだが、
まず「ホテル客に許された区域内」で駐車す
るために六ユーロの駐車券をホテルに買いに
いかねばならない。

 雨はしきりに降るしホテルの外観が目立た
ないのでうっかり間違えて、ある筋に入り込
んだ。すぐ後ろからついてくる車がある。女
性が窓から怒鳴っている。彼女の住まいへの
入り口だと言う。


 私はその時には雨の中へ飛び出してホテル
を探していた。連れ合いがその状況をどう処
理するかもう神頼みで、次の角にみつけた我
々のホテルメルクールへ駆け込んだ。受付で
券をもらうと外へ飛び出す。ちょうど連れ合
いが騒動を抜け出してこちらへゆっくりと走
ってきたので誘導する。


 さて、それから空き場所を探す。すべての
道路の両側にびったり駐車している。そのす
べてに「駐車券が必要」と倦むことなく立て
札がつけてある。ひとつ空いていそうなので、
喜んで行くとそこは出入り口である。あるい
は車いす専用である。

 地図を見ながらくねくねと曲がって行く。
最初の大通りに出た。すると何とひとつ空い
ていた。しかし、ひとつ問題があった。

    はたしてここはホテルに許された区域内あ
るのか? 暗くなったのでもらったコピーの
通り名の文字もよく見えないし、次の筋の通
り名も読めない。


 私の出番がまたやってきた。
 雨の中、傘もささずに敢然と紙切れをもっ
て走り出す。次の通りの名前であろうかと思
われる箇所が小さすぎて読めないではないか。
仕方なく右へ入り、その次の通り名をコピー
の図でみつけられるかに賭ける。

 違う。あ、この名前は見たぞ。でもこの十
字路はちがうぞ。まて、やみくもに走り回ら
ない。
   あそこの店で尋ねることが出来るかも! 
   ノックする。がらんとした、何の店が分
からないが、中に若い女性がいた。尋ねると、
思っていたのとは異なる十字路であるらしい。
確信をもって教えてくれたので、それなら区
域内だとわかり、嬉しさのあまり「ありがと
う~」と日本語で言ってしまった。それくら
いは知っているのか、分かったような顔をし
ている彼女が菩薩のように見えた。




(3)

 次のホテルは郊外のホテルデーパス(意味
不明)、階下はスーパーマーケット、しかも
古めかしい赤屋根である。俄然、ドイツ人が
多くなった。国内旅行者だ。

 ここに来て、連れ合いの脚がぱんぱんに腫
れてしまった。つまり疲れている、心臓が弱
っている。部屋で食べることとして、スーパ
ーで、にせもののキャビアの瓶詰め、サワー
キャベツを購入。

 そうする間に早くもホテルを後にする日が
来た。不可能だと思われた荷物をスーツケー
スにつめることができたのは、衣類などを郵
便小包で私があらかじめ送ったからだ。


 超未来的なフランツヨゼフシュトラウス空
港、この巨大な空間を動くには、まず夫を車
椅子に荷積み格納しなくてはならない。しか
しこのせいで、たいていの行列に並ぶのを回
避する事が出来、時には数人乗りの電気自動
車が軽快な音を立てて一気に、エレベーター
の中にも入り、目的地に連れて行ってくれる。

 こうしてやっと生きて帰路についた。と思
ったがなんと。。。

*それぞれの願ひ叶えて離陸すもモスクワ上
空ユーターンとなる

*見逃さず不運来たるか固唾のむやがて息の
む高級ホテルへ


 このハプニングも乗り越え正しい帰路とな
る。最後の僥倖は窓際の席だったこと。。。


*窓ぎはの席あり難し貼りつきて小窓に写す
空またそらを

*夕空の上弦の月高きまま窓の後ろへみる間
に移動す 

*大気中を自転プラスの速さにて吾ら進むに
月置きさらる

*雲井より村落の灯の遠々に見られゐるとは
夢思ふまじ

*明時(あかとき)の心細さよ三角の白光ひ
とつ翼の先に

*作られたる機内の夜に倦みて窓少し開けば
射抜く神の矢



 弘法大師の霊力あなどれず、夫の悪運強し、
何とか羽田に着陸。最後まで気を抜けず、海
に落ちるのではないかと足を踏ん張った。


*海面へ滑り込むかの危ふさを航空母艦羽田
と呼ばむ
              了
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東天
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