小さな星が運んだもの

三話

そんなある日のこと

海の泡の中から一人の女神が忽然と姿を現しました。

その女神は新しい時代を造るために

天から地上につかわされた者でした。

美しいその女神は神様に呼ばれて天に昇りました。

その初々しい女神に神様は訪ねました。

「君には何ができるのだ?」

「私には美しい物を造りだすことができます。」

そう言って静かに微笑むと、

その女神の手から一輪の薔薇が生まれました。

「これは美しいものだ。素晴らしい。」

神様は女神の力に感心して、

新しい時代を造る者として期待を込めて

彼女をヴィーナスと名づけました。


ヴィーナスは新しい時代を夢見ていました。

それと、まだ見ぬ未来の愛する人を夢見ていました。

未来の愛しい人に捧げたいと願いを込めて、

その美しい花を心だけで産み落としたのでした。


地上では人々が街を作り始めていました。

人々は知恵を使い、辛抱強く工夫して、

生活をより良い物にするように日々働いていました。

ヴィーナスはそんな人達が大好きでした。

そして人々を微笑んで見守っていました。

ヴィーナスは街の発展を願って

「もっと、もっと大きくなあれ。」と呟きました。

そして、あの少年もまた未来を夢見て、

地上の人達を見守っていました。


四話


そんな日々が続いた後のこと

ヴィーナスが見守っていた隣の街の者達が

その街へと攻め入ってきました。

隣の街は土地も狭く、その土地も痩せていて、

貧しい街でした。

発展した隣街をねたんで、小麦を奪いに来たのでした。


ヴィーナスは天上からそれを見ていて嘆きました。

「お願い。そんなことを望んだんじゃないの。
 
お互いに分け合って!争いをしないで!」

ヴィーナスは泣きながら、天から大きな声で呼びかけました。

けれどヴィーナスの嘆きは地上の人達には届きませんでした。


隣街の者達は小麦を全て奪い尽くすと、

街に火を放って焼き尽くしてしまいました。


心優しい人達が逃げ惑っているのをヴィーナスは成す術もなく

心を痛めて見ているしかありませんでした。

「ああ・・・街が・・・。」

ヴィーナスは人の心の醜さを生まれて初めて見たのでした。

それから心優しい人々の為に心を痛めました。

「こんな世の中では、私が愛する者に出会うこともできない。」

ヴィーナスは嘆いて、薔薇の花を残したまま

どこかに姿を隠してしまいました。



haru
作家:文haru 絵ムラナギ
小さな星が運んだもの
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