北摂エンジライン

 

 ある日、動画サイトで昔のJ-popを閲覧していたら、たまたまそれを見つけた。

 どれも映像はなく、音声のみのファイルだった。

 アップロードされたのは最近のようだが、オリジナルは随分昔なのだろう。音質が悪い。

 素人DJがラジオ番組風のことをやっていて、なんだか懐かしい雰囲気に

 つい引き寄せられるように聞いてしまった。

 


 

 こんばんは。今宵も始まりました『北摂エンジライン』。お相手はDJマルーンです。

 この番組はみなさんの何気ない日常を、何気なく電波にのせてお送りするだけの番組です。

 こちらも肩の力を抜いてやっているので、みなさんも気軽に投稿してくださいね。

 では、早速おハガキ紹介していきましょう。 

 

  マルーンさん、こんばんは。この前投稿した『くろすけ』です。

   先日はハガキ読んでくれて、ありがとうございました。

   『放課後の教室で2人なんて大チャンスだったのに!』って言ってくれた通り、

   チャンスを逃したなあ~って落ち込んでいたんですけど、

   あの放送聞いてもう一度頑張ろう! って思い直しました。

 

  もうすぐうちの高校も体育祭があって、私、応援リーダーになってるんですけど、

  なぜだか女子が学ラン着て応援することになったんですよ。

  で、この前の昼休みに彼が一人になったところに見計らって、

  (多分その時、思いつめすぎて眉間にしわ寄っていたと思います。恥ずかしい。。。)

  「学ラン貸して下さいっ!」 ってお願いをしに行ったら、

  こっちが拍子抜けするくらいあっさりした口調で、

  「あっいいよ、応援団やろ。暑いけどがんばりや」って言ってくれたんですよ。

  えっ、なんなん、私の一人相撲?って感じでした。

 

  で、次の日曜が体育祭本番なんですけど、土曜にリハーサルやるんで、

  2日間も借りることになりました!やっぱりお返しとか考えた方がいいですよね?

  お菓子? プレゼント? ごはん?、うわっそれやったらデートやん!

  もう、私の妄想は暴走中です(笑)

 

  これもマルーンさんのおかげです。ありがとうございました。

  うちの高校は高台にあって街並がよく見えるんですけど、

  この季節になると、電車の窓が明かりの列が夕闇の中を走っていくのが、

   まるで浮かんでいるみたいでとても綺麗なんですよ。

   で、思い出すのがこの曲です。曲調が今の気分にもぴったりです。

   また、進展あったら報告しますね!

 


 

  

  『くろすけ』さん、おめでとう。良かったね。

   思い切ってお願いして良かったね。

   僕の言葉が君の背中を押せたのなら、僕もとてもうれしいです。

   また、報告待ってますよぉ。

 

  では、『くろすけ』さんからいただいたリクエストです。

   ゴタイゴで『GARAXY EXPRESS 999』 

  ♪♪♪

  


 

 

  女子高生からの投稿か。学ランが制服の高校もだいぶ減ってしまったと聞くが、

  実際のところどうなのだろうか。

  そう言えば、高校時代に似たようなことがあった。

 

   相手は髪がさらさらとした陸上部の同級生だった。

   やはりうちの高校も体育祭で女子が学ランを着て応援合戦をやっていた。

  学ランを貸したことがきっかけとなり、親しくなった。

  何回めかのデートの時、キスをした。

   日焼けした肌、唇の柔らかさ、うるんだ瞳、髪を耳にかける仕草、シャンプーの香り・・・  

 

  その頃の感覚が記憶の彼方に淡く漂う。

  その後どうなったなのか思い出せないが、素敵な思い出の一ページだ。

 

   

 

マルーンさん、こんばんは。『ぽこ』です。

  突然ですが、私には気になる人が二人います。

  一人は今付き合っている彼氏、そしてもう一人は何でも話せる友達のA君。

  A君はとても話しやすくて、何でも相談してしまいます。

  今の彼氏に告白する時もA君には相談にのってもらっていました。

 

  今も彼とのことで相談にのってもらってます。彼の浮気のことです。

  決定的な証拠をつかんでいるわけではないのですが、どうも怪しいんです。

  それでもその人のそばにいたい、とA君は言ってました。

  A君はやさしくて、私が不安にならないように言葉を選んで話してくれます。

  そんなやさしいA君にも好きな人がいて、でもその人は彼氏がいるそうです。

 

 それを聞いた時、なぜだか気持ちがざわついたんです。

 やさしいA君の気持ちに気づかない相手に対する苛立ちのようなものと、

 当たり前のようにそばにいてくれたA君が離れていってしまうような不安。

 

 自分勝手な悪い子やなあ、って自分でも思います。

 マルーンさん、何か良いアドバイスをお願いします。

 

 


   

  

 『ぽこ』さん、おハガキありがとう。

 う~ん、アドバイスになるかわからないけど、

 うれしい時やさみしい時に、誰にそばにいてほしいと思うか、じゃないかな。

  その人があなたにとっての一番大事な人だと思うよ。

  

 じゃあ、ここで一曲お届けします。BaBeで「I Don’t Know!

  ♪♪♪

 


  

 

  

 いつの時代のどこにでも似たようなことがあるものだ。

 あれは高二の夏だったか、当時の片思いの彼女と駅の改札口でばったり会った。

 

 高架に切り替える工事の関係で殺風景な仮設の改札口の脇でしばらく話し込んでいたら、

 彼女の彼氏が近くの女子高の女の子と仲良さそうに降りてきたんだった。

  しまった、という彼氏の表情。顔を赤くして走り出す彼女。

  降り出した雨のなか、追いついて掴んだ彼女の肩が小さく震えていた。

  「あかんやん、好きな娘に見られたら誤解されるよ」って言う彼女に

  「大丈夫、もう目の前にいるから」って思わず口に出した。

  走ったせいなのか、その言葉を発したせいなのか、

  早まる心臓の鼓動が全身を脈打たせていたことを覚えている。

  雨音はシャワーに変わり、彼女の白さと柔らかさが微かによみがえる。

  

 甘い記憶にしばしまどろむ。時計は既に夜の12時をまわっていた。

 次のファイルをクリックしてみる。

 

 

  マルーンさんこんばんは。『ないとらいだー』でお願いします。

  今、駅と線路の高架工事やってますよね。実はあの上に上がってきたんです。

   友人と話が盛り上がって、深夜に家を抜け出して集合することになりました。

  深夜の町はひっそりとしていて、おなかの下の方が締め付けられるような感じでしたが、

  腕を大きく振って走り抜けていきました。

  集合時間の5分前に待ち合わせ場所である工事現場横の公園に到着しました。

  友人はまだ到着していないようでした。僕は植木に身を潜めて待ちました。

  5分、10分、15分、集合時間を過ぎても友人は現れません。

  僕はますますお腹が締め付けられて、我慢できなくなりました。

  工事の柵を潜り抜け、備え付けのはしごで上にあがってみると、

  月明かりがコンクリートをほのかに照らしていました。

  端の方からは鉄筋が何本も出ていて、その先は闇に吸い込まれていました。

  変な静けさが辺りを包んでいて、僕は急いで極太の油性ペンを取り出しました。

  二人でここに来たことを刻もうと言って決めたマークを書くためです。

  仕上がりを確認してからペンのふたを閉めて、さあ帰ろうとしたその時です。

  高架端の遠くに電車のヘッドライトが見えてきたのです。まだ、線路もないのに! 

  ライトはだんだん近づいてきます。僕は転がるようにはしごを降りて、家まで走って帰りました。

  あれは絶対、『噂のエンジライン』ですよ。

  伝説の通り、3人に伝えなくてはなりません。二人の友達には話したのですが、

  三人目が見つからず、すいません!マルーンさんに託します!  

    


  

  おいおい、『ないとらいだー』さん、なんで僕やねん!

  伝えられた三人目ってあれやるんでしょ? もう、かんべんして。

  でも罰あたりが怖いからやります。皆さんにはこちらをお送りします。その間にやります。

 

  未来警察ウラシマンのオープニングテーマで『ミッドナイト・サブマリン』

  ♪♪♪

  


  

 

  おかしい。なぜこんなに自分の過去と同じようなエピソードばかりなのだ。

  確かに自分も夜中に工事現場に忍び込んだことがあった。落書きもした。

  もしかして同級生の誰かが投稿したのか。それともこのDJが同級生の誰かなのか。

  そもそも、これが録音されたのはいつなのか。なぜ動画サイトにアップされているのか。

  だめだ。頭の中が混乱してきた。微かに耳鳴りもする。

  

ミキトモ
北摂エンジライン
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