芸術の監獄 江戸川乱歩

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江戸川乱歩( 1 / 4 )

江戸川乱歩

乱歩なのである。日本の老若男女みな乱歩が大好きで、鴎外も漱石も司馬遼太郎も本当はどうでも良いのである。8月の某日、都内の百貨店で催された「江戸川乱歩と大衆の20世紀展」が大盛況なのを見て、私は笑い出したくなるような満足感とともにそう思った。(註:言及されているのは、2004年8月に池袋東武百貨店で開催された「江戸川乱歩と大衆の20世紀展」のことです。拙作は2004年に執筆されました)

 

連載にあたって私は、「小説家については1作品を取りあげ」と書いたが、江戸川乱歩についてはその規則を逸脱します。というのは、乱歩は1作品に限るにはあまりに多面的というか、間口も奥行きも広い。「処女作にその作家の全てがある」と良く言われるが、では処女作の「二銭銅貨」に彼の全てがあると、ファンも研究家も断言できるのだろうか? 確かに「二銭銅貨」には乱歩の根幹があるが(それはトリックと謎解きへの愛情だ)、それだけが乱歩作品の魅力ではないのだ。今さら言うまでもなく。

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なんだかつい絶叫口調になってしまうのをご容赦ください。とにかく(何がどう、とにかくなのだ?)1作品を取りあげないからには、全作品に目配りということになるが、そんなことをしたら3ヶ月経っても江戸川乱歩の項が終わらない。読者も嫌だろうが私も避けたい(でも、1ヶ月程度なら書けるかも)。そこで、やや無謀かもしれないが、「乱歩というキャラクターが日本人みんなに愛されている」こと、このことに絞って私見を述べてみたい。

 




画像は、1994年公開の映画「RANPO」のプログラム。奥山和由監督、黛りんたろう監督の2本の「RAMPO」がつくられたが、画像は黛りんたろう監督のもの。ヒロインは羽田美智子さんで、乱歩役は竹中直人。



「乱歩というキャラクターが愛されている」との言は、いかにも奇矯に響くかもしれないが、私は誇張はしていない。キャラクターという語が悪ければ、「日本人の遊戯文化の歴史に残るヒーロー」と言っても良いが、長いですね。乱歩がいかに多数のファンを持っているか、どれほど大衆を魅了しているか証明するのは簡単だ。まず、冒頭の企画。タイトルに「江戸川乱歩」が最初に来ているが、同時代の他の小説家で代わりに持ってこられるような存在がいるだろうか? 「芥川龍之介」、「谷崎潤一郎」、「山本有三」…。この作家たちを媒介に面白い企画を作るのはもちろん可能ではあるが、「より多くの集客を!」となると話は違うと思う。

 

芥川や谷崎や、山本有三が乱歩より価値が下だ、と言っているのではない。それこそ老若男女、働くおじさんから碁を打つおじいさん、文学オタクはいっている若い男女まで、いろいろな層へのアピール度について言っているのである。

江戸川乱歩( 2 / 4 )

江戸川乱歩

この観点からざっと見ると、同時代の日本人作家で「江戸川乱歩」以上に強力な存在はちょっと見あたらない。あるいは「吉川英治」が比肩するかもしれないが。そして時代が下がると、好みの細分化が進みすぎて、どの作家なら大成功するかは判断がつかない。「三島由紀夫」と「松本清張」と「司馬遼太郎」ではどの人でも何らかの催しができそうだが、「マニアな信奉者」しか集まらない可能性もある。

 

さらに言うと、江戸川乱歩は、その名前自体が小説や映画のタイトルになってしまっている!10年前にそのものずばり「RAMPO」なる映画が公開されたことをご記憶の方も多いだろう。そしてもうじき「乱歩地獄」という映画が公開されちゃうのである。これは「鏡地獄」のもじりなのだろうか? 「D坂の乱歩」とか「孤島の乱歩」などにならなくて本当に良かった…ついでに言うと「乱歩R」というテレビドラマもありましたね。タイトルからして脱力してしまうが、巷の噂ではやはりおちゃらけた番組だったようだ。

 

乱歩は作品も映像化されるが、本人も映像化されるのだ。そしてその映像作品は、猟奇と耽美を追究したものから「乱歩R」のような「これは笑えるぜ」な番組まで面白さの質が驚異的に広いのだ(正確に言えば、「どんな人のニーズにも合わせられる」)。どうしてそこまで広い「面白さの質」を獲得したのか、獲得できたのか。

 


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それは、乱歩が「大人のための探偵小説」と「子供のための探偵小説」と両方の世界で成功したことによる。後者がいわゆる「少年探偵団シリーズ」と呼ばれているのは周知の事実だが、このシリーズの大人気によって、乱歩はいわば「文学者でありながら子供のアイドル」となり、「出版社のドル箱」のみならず、「おもちゃメーカーのドル箱」となったのだ。私が先に「遊戯文化」という語を使ったのはそういう意味だ。


上の画像は、漫画「少年探偵団」小学館刊。山田貴敏画。

 

「この少年探偵団ごっこに欠かせないのが、BD バッジや少年探偵手帳など「少年探偵七つ道具」といわれる小道具である。「少年探偵団シリーズ」のなかで小林少年や団員たちは、この七つ道具を使って二十面相を相手に大活躍した。
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深良マユミ
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