記憶の森 第三部

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8・光を集める者

アンヌはふと足を止めると
大広間の入り口の手前で
アルフの前に回り込んで
悪戯っぽくアルフの顔を覗き込んだ。
「ねえ、ここには何が待っていると思う?」
アルフはふいを突かれたが、
アンヌに微笑み返して言った。
「僕はここは初めてなんだよ。さあ、何だろう?」
「うふふ、さあどうぞ。」アンヌはそう言うと
ドレスを少しつまんで裾を広げて
胸に手を当てて、うやうやしくアルフにお辞儀をした。
「さあ、行こう。楽しみだ。」
アルフはアンヌの肩に手を置くと、
大広間の中へと促した。

大広間の中はろうそくの灯りが至る所に据えられ
ため息が出そうな程の美しさだった。
クリスタルの床には至る所に金色の星が埋め込まれ
それは星座を形作っている様に思えた。
壁には天使や妖精のレリーフが
ろうそくの灯りにともされて、ぼんやりと見えた。
その床の中央には
クリスタルの台座の上に多面的にカットされた
球形のとても大きなクリスタルが乗っていた。

アルフはこの場の雰囲気に圧倒されているようだった。
「素晴らしい。」
アルフはそう言って息を呑んでいた。
アンヌは中央の球体のクリスタルまでゆっくり歩いた。
「アルフ、ここを見て。
 古代文字で書いてあるの。」
アルフもゆっくりと近づいて、
その台座の上の端の文字を見た。
「私が教えてあげる。これは 光を集める者-Angee-よ。」
その文字をアルフは興味深く眺めた。
Angeeとはケルトの言葉で天使の意味である。

9・松明に頬染めて

アルフとアンヌは飽きることなく
大広間の至る所を見ていた。
「昔は巫女達がいて、皆この広間で祈りを捧げた
 のでしょうね。」アンヌが言った。
「ああ、君のようなガイドが居て、心強いよ。」
そう言ってアルフは微笑んだ。
「いいえ、大したことじゃないわ。
 私も毎晩祈っているのよ。」
「ああ、天使達が光を連れて来るって信じてるのかい?」
「ええ。」
アンヌはこんな話ができるのが嬉しくてたまらなかった。
(新しい 大切なお友達)
アンヌの中にそんな思いが浮かんだ。

社の中にはガイドとでも言うべき人がいた。
「さあ、皆さん。神聖な朝日を迎える準備をします。
 この広間のろうそくを消して、朝日を待ちますよー。
 海岸に松明と温かい飲み物を用意してあります。
 皆さん、どうぞそちらでご歓談を。」
もう夜明けは間近だ。
ガイドの指示通り、多くの観光客が大広間から表に出た。
赤々とした松明の炎が目に飛び込んできた。
季節はもう冬を迎える間近。
暖を取ろうと人々は皆その松明の傍に集まった。
焚き火もたかれていた。
そこでは大きな鍋からカップにスープがよそられ、
皆に振舞われていた。
アルフとアンヌもご相伴に預かって、
温かいスープに目を細めた。

「皆さん!東の岸をご覧下さい。
 あと何分かで朝日が出ます。」
今日は雲も少ない。
水平線が赤く染まって、素晴らしい朝焼けがそこにはあった。
アンヌは水平線を眺めた。
海も心なしか赤く染まっているようだ。
「もうすぐね。」アンヌはアルフに囁いた。
「ああ。」アルフはアンヌに微笑んだ。
アンヌは水平線を見ながら、
アルフの横顔を時々眺めた。
こうしているととても幸せだった。

10・光の輪の中で

朝日は音も無くその姿を海上に現した。
聞こえるのは繰り返される波の音だけだった。
陽の端が海上に現れると、
人々から感嘆の声が上がった。
静かに上りくる太陽は
光線の関係なのか、赤々と静かに燃えているようだった。
陽は静かに上りながら
次第に黄金色にその姿を変え、
海も黄金色に染め上げた。
その美しさは声を無くす程だった。
二人は片時もその姿を見逃すまいと真剣に見つめた。
そして黄金色に染まった波をアルフが指指し
二人で見詰め合って微笑んだ。
「本当に最高だよ。」
アルフは今日この場に居られたことを神様に感謝していた。
「ええ、本当に。」
アンヌは心の中に陽が差してきたような
明るい希望とも呼べる物が心を満たしているのを感じた。

「さあ、皆さん。そろそろ社の中に朝日が差し込む時間ですよ。
 朝日の差す社の中はそれは素晴らしいので、
 どうぞ、その目に心に焼き付けて帰って下さいね。」
ガイドに促され、人々は社の中へと歩を進めた。
その人数は二十人程だろうか?
アンヌはワクワクしていた。
朝日の差すべナールは初めてである。
社は朝日に照らされ、既にその光で輝いていた。
それは荘厳とでも呼ぶべき姿であった。
二人はその光り輝く中へと足を進めた。
中でどよめきが聞こえた。

一歩中に足を入れると「わー。」とアンヌは声を漏らした。
アルフは信じられないという顔で
アンヌの手をぎゅっと握った。
それは光りの洪水とでも言うような見たこともない世界だった。
中央のクリスタルへと壁面の高い窓から光りが差し込み、
クリスタルの多面体が光りをあらゆる角度に反射させていた。
その光は四方の天使達の像を照らし出し、
たった今空から天使が降りて来たかの様な
錯覚を覚えさせた。
アルフも同じことを感じていたのだろう。
「君、天使が舞い降りて来たよ。」
アルフはアンヌに呟いた。
天使の顔は今にも愛を囁きそうに優しくアンヌの目に映った。

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haru
作家:haru
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