コロンビア雑記帳

メキシコへ

 一月末日。

 日本を発ち、コロンビアへ。

 といっても、まずはメキシコに行き、そこで一泊した後、コロンビア入国。メキシコまではと一緒だった。Yはぼくと同じように、メキシコで日本語教師をする。

 機内でとりあえずビールを一本ずつもらい

「これからのお互いの活躍を祈って」

か何か、それらしい理由ともったいをつけて乾杯した。欲望につける理由には不自由しない。

 貧乏生だった頃にはまず飲めなかった本物のビールだ。

 ところが、おもっていたよりうまくなかった。

 あまりに高級すぎて、体が受け付けなかったの。いつも飲んでいたビール風飲料の水っぽいサッパリ感の代わりに、異常なコクが口一杯にひろがりノドを下っていった。機内ということも影響したかも知れない。

「釣りバカ日誌」を二回見た。それ以外は、窓も遠かったので景色も見ずよく眠った。


数時間眠り、目を覚ますと食事が運ばれていた。その時はなんともおもわずに食べたが、これ以降二年間にわたって口にすることの叶わなくなる日本米だった。

「あの時、もっとちゃんと味わうだった…」

コロンビアに到着して、おもったことの一つである。


カナダのバンクーバーで給油。給油している間はロビーのような部屋に待機しているしかなく、トイレで用をたすか顔を洗うくらいしかできない。窓から外を眺めても、寒そうな灰色の空とだだっ広い滑走路に飛行機がぽつり。楽しめるような景色はなく、当然ながらタバコも吸えないので、ただただ時間の過ぎるのを待つ。

ようやく給油が終わり、再び機内へ。ここからメキシコを目指す。

飛行機は順調に飛ぶ。ほぼ予定通りにメキシコに着いた。荷物も無事に受け取り、入国審査もすんなり通過。その時吸ったタバコのうまさといったら、とても書き表せないものだった。


たそがれのメキシコ・シティー、夕暮れから夜に変わっていく異国の町並み…というとなんだか素敵な雰囲気だけどそうはいかない

歩道も車道もへったくれもないくらいの混雑で、車と車の間のわずかな隙間を飛び回るように、自転車、バイク、歩く人が行き交う。車はどうやって進むかというと、目前のわずかなスペースにいち早く飛び込むように進む。渋滞だからといってノロノロしていられない猛烈な割り込みを喰らうから。クラクションの洪水の中、宿に辿り着いた。

荷物を部屋に入れ、リラックスできる服に着替える。

夕食。出てきた酒は、もちろんテキーラ。食べものは、こちらもタコスなどメキシコ料理

メキシコで飲むテキーラ、格別。


日本でもテキーラを飲んだことはあり、おいしいとおもった。日本で飲んだテキーラの方が、この時のテキーラよりもしかしたらクラスも値段も上だったかも知れないが、そういう話とは少し違う。キザな言い方だけど「あるべくしてある」という感じ。気温や湿度や、景色や外の雑音、そしてもちろんメキシコ料理。色んな要素とこの一杯がピタリとハマるような印象で、メキシコではテキーラだなと、ただもう納得した。

 

は飲みつづけていたが、ぼくは翌日の朝の便に乗らなければならないので早めに切り上げる。ベッドに横になるが、うとうとできない。

騒音が凄まじい。大通りに面しているため、でかい車がのべつ幕なしに通っていく。しかも、やっと眠りの糸口をつかみかけたとおもったら、今度はひどく喉が渇く。

メキシコシティーは盆地なのだが、それでも標高が高く空気が乾いている。おまけに、すぐ外を大型のトラックが大量の排気ガスを振りまいて走っている。で、盆地のためその空気が溜まりやすい。だからメキシコ人の鼻毛は長い、らしい。

メキシコに比べれば、日本の空気は澄んでいる。そのことが、まさに「イヤ」というほど分かった。

水を飲んで、ベッドに戻る。やっと眠りに入る。

コロンビアへ

 昨夜もそうだったが、朝も涼しい。

バカなもので、コロンビア行きが決まってしばらく経ってからも、メキシコあたりを赤道が通っているとおもっていた。中米というくらいだからそこが真ん中だろうと、漠然とおもいこんでいた。

 実際はメキシコは赤道よりずっと北で、驚くことに南半球だとばかりおもっていたコロンビアも九割がた北半球に位置する。

 一月末のメキシコが涼しいのは当たり前だ。

 しかし、北米イコール北半球、中米を赤道が通過し、南米は全部南半球とおもっている人はぼくだけではなさそうだ。


朝、掃除の手伝いをさせてもらう。トイレやなんかを掃除したが、とにかく水を大事に使う。水を捨てるということはしない。掃除し終わった後の水は、庭の木や花にまくという徹底ぶりだ。これもメキシコの気候と水事情で、そうなっているらしい。というより日本人が雑に使いすぎなのかもしれない。「湯水のように使う」ということわざも、ここでは意味が逆になるだろうと思う。

朝食の後シャワーを浴び着替えて、空港に向かう。ここからは一人旅だ。

何も分からない者同士でも、二人というのはなぜか、心強い。不思議なことに、一人になると不安感はより大きくなる。


空港内でトイレに入る。用を済ませて出ようとすると、手洗いのところに紙コップが置いてあり、その中に小銭が入っているのに気付く。目の前の人が、そこにいくらか小銭を入れて、出て行った。なるほど。チップ

こまった。メキシコの硬貨は持っていない。ドルならいくらか持っているが、紙幣だ。こんなところで、日本人がチップにドル紙幣を入れて、それを変な人に見られたら、金持ちにおもわれてしまうかもしれない。言葉は悪いが、「人を見たら泥棒とおもえ」というくらいの国なのだ(と、聞いていた)。警戒していてし過ぎるということはない。

しかし、そうだとしたら紙コップの中の小銭はとっくに盗まれているはず。今になると初の海外にビビりすぎていたとおもう。

「小便するにもめんどくさいところだな」とおもい、知らんぷりして出た。


当然ながら空港内のアナウンスはスペイン語で、ぼくが乗る飛行機の乗り場が変更になったらしい。それは分かるが、どこへ行ったらいいものか皆目分からない。メキシコ空港はとても広い。案内の掲示板を見ても良く分からない。ああ、成田空港は分かりやすかった。

空港職員にチケットを見せて尋ねる。

「この飛行機はどこですか?」

「あっちです」

 指し示した方向は、変更前のゲートのある方。変だなとおもって訊き返す。

「でも、変更になったでしょ」

あらそうね。こっちよ」

というやりとりをやたら化粧の濃い二、三人の職員と交わして、なんとかパナマ行き飛行機に乗り込む。

乗ってしまえば恐くはない。パナマでの乗り継ぎもうまくいき、無事コロンビア、カリ空港行き飛行機に乗る。

安堵して出されたジュースを飲む。

これがマズかった。オレンジジュースだとおもうが妙な匂いというか、変な味がする。

食事もうまくない。口に合わないというのではなく、安っぽさがみえみえで愛情のこもったサービスというのとはかけ離れている。

とどめはデザートのつもりのお菓子なのだが、これがもう口がひん曲がるほど甘い。寒気がするくらい濃厚。究極の味音痴がハチミツに溶かせるだけの黒砂糖を溶かし込んで、生キャラメルと混ぜて固めた、スイーツのコブラツイストみたいな代物だった。あごが外れそうな一品。日本のお菓子は、これに較べるとまるで甘ちゃんとおもいつつ完食した。

昨日までとはエライ違い。エライ違いだが、お菓子というのは甘いものを食べたくて作ったのであるから、甘くて当然だ。

飛行機のサービスにしても、飛行機は移動手段なのであるから、ちゃんと着きさえすればよろしい。こんな基本的なことが、日本にいると勘違いしてしまう。

甘さ控えめのチョコとか。甘いのが嫌なら、チョコなんて食べなけりゃいいのである。塩でもなめていればよいこれはいいすぎか。)

サービスにしてもそうでもちろんカユイところに手が届くようなサービスは、日本人の誇るおもてなしの気配り、心配りだ。それはいいけど、利用客の方が、「そのくらいのサービスはあって当然だ」と、おもっている気がする。それはおもい上がりではないだろうか

「お客様は神様です」というのは店側・サービスする側の言葉であって、客のセリフではない。そこを自分の都合のいいように解釈してしまうから始末に悪いとおもう。

 要は限度というか、妥協点をどこにするかだ。日本式と中南米式、どっちも両極端なようにおもえた。

 まあ、どちらでもよい。サービスの悪い飛行機に乗ってしまったら乗ってしまったで着くまでは降りるわけにいかないので、まな板の上の鯉よろしく大人しく、お利口にしていればよい。

さて。飛行機はカリブ海上空を飛んでいるわけだが、青い海はまるで見えない。一面真っ白い雲。幼稚な発想だが、あの上に降りて歩けそうな気がする

雲海。これはこれで見応えがある。


カリ着荷物受け取る。

暑い。さすがに暑い。周りを見ても、ネクタイをしているのはぼくぐらいで、ほとんどの人は涼しそうな格好をしている。

と、入国する人たちが列をなしている。しかもスーツケースから手荷物まで、全て出してチェックを受けている。なんだこれは! メキシコではそんなのなかったぞ! 

ぼくの直前の男のスーツケースの中から、大量の女性用サンダルが出てきた。お土産にしたって、スーツケースが一杯になるサンダルはおかしい。おまけにサンダル以外、自分が着るような衣類すら入っていない。どう見ても異常。

検査官とその男が問答している。何を言っているかは分からないが、検査官がサンダルを手にして(たぶん)これにドリルで穴を開けて調べるというようなジェスチャーをしている。

まさか、こやつ運び屋か!

息巻く検査官。

これじゃあ、ぼくまで色々聞かれそうだ。別に変なものは持っていないが、日本から持ってきたラーメンやふりかけや、メキシコ渡されたお菓子など、聞かれたらどうやって答えたらいいのだ。それ以前に

「食品は持っていませんか?」

 の質問に

「いいえ」

 と答えたぼくなのだ。

検査官はサンダルを持って、持ち主と別室に向かうらしい。その時ぼくがいることに気付き、

「あ、この日本人がまだいたのか」

という、めんどくさそうな顔をした。そしてその場に居あわせた空港職員に

「このアジア人、見てやれ」

というようなことを言った(とおもう)。任された方はあからさまに

「えなんで俺が?」

 という顔。なぜなら任された方の彼は、服装からして荷物チェックの職員ではなく普通の警備員だから。

「こんなの、俺の仕事じゃないよ」

という態度が見え見えで、ぼくのスーツケースをちらっと見て、

「行っていいですよ」

となった。

めでたくゲートを抜け、迎えに来ていた学校の車に乗り込んだ。夜のカリ市を走った。窓を開けて煙草を吸う。外の空気はサトウキビの甘いようなむん…とする匂いがして、ちょっと臭かった。空港から学校までは約四十分。

道路は舗装されているが、あちこち穴があいていてデコボコ道だ。それに街灯が少なくて暗い(日本の道路が明るすぎるのかもしれないが)。運転手の林紺さんという職員さんが

「あれ、ここ、いつの間に工事始まったんだよ、道分からないぞ

と、ぼやいている。へー、大変だなー、とおもった。まさかそれが自分のことになるとは、この時おもっていなかった。


 冒頭で、「ぼくは日本語を教えたり…」うんぬんと書いたが、もう少し詳しく。

 ここに出てくる学校は、宗教施設に併設された日本語教室である。ぼくを含め職員の多くは学校(あるいは教会)に住んでいた。

 ぼくの主な仕事は、現地の人に日本語を教えること。

 子どもクラス、大人クラス、日系人クラスがある。

 朗読大会、生徒送迎バスの運転、生徒たちとの触れ合い、思春期を迎えた日系人クラスの生徒の心のありようなど、実体験を元に書いた小説が別にあります。

 だから、これから書く中では日本語教室については触れません。

 日本語教室以外の部分について書こうと思います。

そぞろ歩き 一( 1 / 13 )

緑のチームと赤のチーム

 服屋に行った。

 Tシャツを何枚か買ここでは一年中着るからTシャツは何枚あってもいい。「Colombia」とか「Cali」とかプリントしてあるのを選んだ


 そう言えばカリでこういうTシャツをたくさん売っていた。服だけでなく、帽子、アクセサリーなどもコロンビアの国旗の黄色、青、赤を基調にしたものがたくさんあって、愛国心が強いんだなあとおもった。


 一枚のシャツが目にとまった。カリのサッカーチームのロゴが入ったTシャツだった。デポルティーボ・カリというチームだ。チームカラーは緑色。

 コロンビアに限らず南米全般、人気のスポーツは何かと言えばサッカーだ。

 これを着ていれば、学校に来る人たちとすぐに仲良くなれるのではないかとおもって買った。店主が

「お客さんは、デポルティーボのファンですか?」

 訊いてきた。

 まぁ、今日からファンになるのだからいいだろうとおもい

「はい」

 と、答えた。すると店主は我が意を得たりとばかりに破顔し、

「では、これもお付けしましょう」

 と言って、デポルティーボの小さい旗をくれた。いきなり好反応ではないか。


 翌日、調子に乗って学校でもそれを着ていた。学校を訪れたディアナさんというおばちゃんがぼくを見て

「ああ! アルバリート。あなたもカリのファンなのね!」

 と、ぼくを抱擁してくれた。作戦大成功。シャツ一枚着ているだけで、いきなり親しくなってしまった。

 カリの中心街でそれを着て歩いていると、若いやつに声をかけられた。握りこぶしの親指を上に立てて、ナイス! というポーズをしてきた。


 別の日、のシャツを着ていたらアントニオさんというおじさんが近づいてきた。

「いいシャツ着てるな」

 と言ってくれるとおもっていたら、

「アルバリート…なんて××な服着ているんだ…」

 と、これ以上ないくらい渋い顔をした。この世で一番の苦虫をかみつぶしたような渋い顔だ。

「アメリカじゃないとだめだよ」

 という。なんのことかまるで分からない。

 なぜだ。このシャツさえ着ていれば、可愛がってもらえるんじゃないのか?

 よくよく聞くと、カリには緑のデポルティーボ・カリと、赤のアメリカ・デ・カリ(通称アメリカ)というチームがあると言う。当然ながら二つはライバル巨人と阪神みたいなものだと言えよう

 さらに、シャツに書いてある文字が単にカリの応援をしているのではなく、アメリカをかなりくさすような、過激な内容らしい。

 このTシャツは両刃の剣なのだった。

 これを着て中心街を歩いた話をしたら

「それは危険だ」

 と言われた。

 その時はたまたまカリのファンだったから好意的だっただけで、もしその日がカリ対アメリカの試合の日でガラの悪いアメリカファンに見つかったら、何をされるか分からないという。巨人戦のある甲子園球場で阪神ファンが集まっている中、一人で巨人の服を着てバカ面下げてにこにこしながら歩いているようなものだ。

 知らないというのは、こわい。

そぞろ歩き 一( 2 / 13 )

国際免許

 コロンビアに行く前、つまり日本でスペイン語や日本語の教え方などを勉強していた頃。コロンビアに行くためになにが必要か、ぼくの前任者の九九田さんに問い合わせ準備した。

 その中に国際免許というのがあった。日本の普通免許を、免許センターに持って行って申請すれば良いとのこと。早速作りに行った。係りの人が

「ちなみに、どちらへ行かれますか」と訊いた。

「コロンビアです」

「コロンビア…」

「南米です」

 ええ、といって、その人はやや怪訝な顔になり、書類をめくり始めた。そして

「あのですね…」と言って国際免許の説明をしてくれ、とどのつまりコロンビアではこれを持っていても意味がないと言われた。

 なんでも、この免許のための条約が定められていて、それを締約している国では有効。しかしコロンビアは締約していないという。説明には少しもおかしなところはない。しかし、ここまで来てそのまま帰るわけにはいかない。ぼくは必要な理由を簡単に述べ、作るだけでも作ってもらえないかダメもとでお願いしてみた。

「もちろん、作るだけなら作れますが…。少なくともコロンビアでは、意味がありませんよ」

「ええ。説明は十分わかりました。でも、持ってくるように言われてますので…」


 それで国際免許はできた。無意味と知りつつ、何かの時のお守り替わりというつもりだった。

 そのことを、コロンビアに着いてから九九田さんに訊ねてみた。

「ああ。おれも同じでさ。意味ないですよって言われたんだけど、持ってこいっていうからさ。作ったよ。代々、みんな持ってきてるっていうからさ。それで、こっちでまた新たに免許の書き換えしてもらった」

「じゃあ、ぼくもその内、こっちでの運転免許を作りに行くわけですね」

「そうなるな」

 九九田さんは一度、路上で検問にかかり免許を出すように言われたことがあるらしい。その時国際免許を出したら、検問していた警官が国際免許はコロンビアでは無効ということを知らず

「すごいですね」

 と言って通してくれたと言った。

 それを聞いてぼくも是非同じことをしてみたいとおもい、いつも国際免許を持って運転していたが、幸か不幸か検問にかからず、ぼくの国際免許は遂に一度も日の目を見なかった。


 後日、身分証明証や運転免許などを用意する準備で、証明写真を撮りに連れて行ってもらった。

 公的な物になるので、ネクタイとまではいかなかったけれど一応襟のあるシャツを着て行った。

 店に着き、カーテンと薄いベニヤ板で仕切られた撮影用の狭い空間に通された。

 撮影はすぐに済んだ。デジタルカメラで撮った画像をパソコンに取り込んでいる。他にお客はいないようだし、すぐにプリントするだろうと思っていたら、店員がぼくの写真を加工している。

 まず服が変わった。写真のぼくはいつの間にかネクタイを締めている。それくらいならまだ分かるけど、今度は顔を直している。ニキビの痕も消え、全体的に肌ツヤが良くなった。唇も赤みがちょっと濃くなり、プリプリしている。

 ありがたい気もするが、これじゃあ証明写真にならないのじゃなかろうか。そう思い林紺さんに訊いてみたが、

「大丈夫だろ。どうせこっちの人にとったら、東洋人の顔なんて全部同じに見えるし。しかし、おれの時はこんなサービス、なかったなあ。お前、ついてるじゃん。おれも今度の書き換えの時はここで写真撮ってもらおう」

 と言って笑っている。

「でも、ここまでしてくれなくても…。あんまりいじったら何のための証明写真か分からなくなっちゃいますよ」 

「せっかくだから、やってもらえって」

「そ、そういう問題ですか」

「コロンビアって、そんな感じだぞ」

「…じゃあ、分かりました」

 写真が出来上がった。役者のような、とまではいかないが、いくらかキリッとした顔になっていた。

「いい写真でしょう」

 店員が言う。

「うん。どうもありがとう」

「また来てください」

 店を出て、車に乗り込む。

「林紺さん、ぼく、今日からなるべく、あの顔になれるように、頑張ります」

 と言って、キリッとした顔で林紺さんを見た。

「うん。頑張りな」

 けれど、おかしくて、ニヤけてしまい、ついに二人で大笑いした。そしてとうとう、あんなキリッとした顔にはなれなかった。

小関三千男
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