踏切の音がする
あの時の金属音もだ
だんだん大きくなってくる…。
また…か?
電車の長く持続する急ブレーキの音が警笛の絶望的な低音と混じり合った。踏切のカンカンという音が誰も踊らない舞踏の伴奏をしているかのように滑稽に鳴り続けている。
救急車の音、群衆の悲鳴と叫び声。だれかが怒鳴っている声は不思議ととても遠くの声のように聞こえる。 姉さん?
逃げよう
ここは危ない。
あの時の神田の踏切だ。
何やってるんだよ姉さん、向こうを見てないでこっちを向いてくれ!
トニー、父さん、母さん、何でみんなここにいるのさ?
とにかくここは危ないんだ。
もうすぐ列車がここに突っ込んでくる。
ダメだってば、踏切をくぐっちゃ!
木島先生、隣にいるのは…もしかして先生の高校時代の親友だった青田君?君からも言ってくれ。そうだよ、ここは君が身を投げたあの踏切だ。
何だってみんなこっちに来ようとするんだよ。集団自殺でもやらかそうっていうのかい?
神崎先輩、西村さん、佐藤さん…。どうしたんですか?涙まで浮かべて…。「ありがとう?」僕がですか?何のことだかわかりません、それよりこっちに来ちゃだめです!
春日井生の横にいる白衣を着たあなたはあなたは?やっぱり春日井生の弟さんか?「心配いらないって?」あなた何者なんですか?みんな列車に轢かれて死んでしまうんですよ!!
電車の長く持続する急ブレーキの音が警笛の絶望的な低音と混じり合った。踏切のカンカンという音が誰も踊らない舞踏の伴奏をしているかのように滑稽に鳴り続けている。 姉さん!みんなに避難するように言って!
下を向いて何をやってるんだよ。
僕は姉さんの肩を荒々しくつかんでこちらを向かせた。
姉さんは何か分厚いファイルのようなものを読んでいたらしい。
姉さんの大粒の涙が頬を伝ってファイルの読みかけのページににポタリポタリと落ちた。
ファイルを取り上げて表紙を見る。
『地下鉄のない街』
目次…。
これまでの僕と姉さんの不思議ない世界の旅、タイムトラベルによって見聞きしてきたものが、どうやら順番に書いてあるらしい。
「姉さん、これは一体?」
僕は頭が変になりそうだった。
今こうして経験していることが、活字になって存在しているってどういうことだ?
目次は今までの出来事が順番に章立てで並んでいる。
最終章は「君島健太郎からみんなへ」とあった。
この少し前に「春日井先生の真実?」という章がある。さっきの出来事はもうこのストーリーの終盤らしい。
僕はその途中の章の「春日井先生の真実?」というページを震える手でめくってみたここには、今僕と姉さんが途中まで聞いた西村と皆川君の会話が…?
あった。
さっきの出来事までが書いてあり、その先は白紙のページがただ続いていた。
一体この『地下鉄のない街』っていうファイルは何なんだ…?
「あ!」
鈍いブレーキの制動音とともに列車が突っ込んだ。
救急車の音、群衆の悲鳴と叫び声。だれかが怒鳴っている声は不思議ととても遠くの声のように聞こえる。「みんな無事か!?」
僕は薄れゆく意識の中でみんなの声を聞いた。
「ああ。無事だよ。本当にありがとう、健太郎君」