地下鉄のない街 第一部完結

地下鉄のない街65 何処?

「ここはどこなの姉さん」

 僕はまだ暗闇の中にいた。暗闇の中だったけれど姉さんの声ははっきり聞こえた。それから人の気配がした。数人いる。誰だろう…?何処かに横たわっている僕の顔を覗き込むように、数人が代わる代わる僕の顔に影を作っているようだった。

「姉さん、僕はまだあたりが真っ暗で何も見ないよ。ここはあの姉さんが事故にあった踏切なんだろ」

『意識が戻りました』

 誰かがつぶやいた。さっき僕を覗き込んでいた人たちが「ああ」という安堵の声を漏らした。安堵した声の中に父さんと母さんのため息が混じったような気がした。まさか?

「僕は気絶して学校から運ばれたのかい?姉さん。じゃあ、この世界と接点がでてきたの?」

 姉さんのすすり泣く声がした。




『君島くん、分かるかい?トニーだよ』

「トニー?なんで君がここに?君は飛行機事故で亡くなったんじゃないのかい?

 僕は懐かしさのあまり大きな声を出した。トニーはそれには答えなかった。代わりにトニーの鼻を啜る音がした。前よりもずっと日本語が流暢になっているようだった。




『君島くん』

 別の声がした。

「まさか、皆川くん?」

『ああ、久しぶりだね。ここに神崎先輩も西村さんもいるよ。それから木島先生と春日井先生も』

 さっきの人の気配はそれだったのか。




「父さんと母さんもいるのかい」

『あたしの横にいるわ、健太郎』

 懐かしい姉さんの声がする。さっきまで一緒にいたのに何十年ぶりかに声を聞いたような気がするのはなぜだろう。ここはいったい何処なんだ。




「ここはあの世かい?僕は暗闇の中で電車に轢かれて死んだのかい?」

『違うよ、君島くん、君はもっとずっとずっと長い眠りから目を覚ましつつあるんだ』

「その声は皆川くんだね、いったいどういうことだい?」

『姉さん、そろそろまた寝かさないと』

 姉さん?誰かの弟さん?さっき最初に『意識が戻りました』と言った人だ。


『そうね、あんまり長くならない方がいいわね。』

 春日井先生の声だ。ということは、この人は失踪した春日井先生の弟さん?







『そうだな、また来るからな、君島』『ああ』『またな』

 木島先生に神崎先輩と西村さん?





「待ってくれ、みんな何処へ行くんだい?僕はどうなるの?姉さん」

『あたしと皆川くんはまだここにいるわ。あなたにはそれが今必要だから』

「必要だから…?」

『僕と一緒に来てくれ、君島くん』

「皆川くんと?」

『もちろん君の姉さんも一緒さ』

「何をしに何処へ?」

『君が望んでいる場所さ』

「…そこで僕は何をすればいい?」

『見ていてくれたらいいんだ』

「何を?」





『アキレスが亀に追いつくかどうかをさ』

「…?」




 またすっと意識が遠のいた。

地下鉄のない街64 あの踏切

 あれは本当に僕だったんだろうか。もし僕だったとするならば、21年前の僕が38歳の僕を見たという記憶があるはずだ。しかし16歳の時の僕にそんな記憶はない。
 皆川君が西村にいろんな嫌がらせを受けた中に、確かに保健室前でキレた西村に殴られて血まみれになったということはあった。校内放送で呼ばれた僕は確かに保健室に急いだ。その記憶は確かだった。

 姉さんが消えてしまったことはどう解釈すればいいのだろう。僕が疲れきった38歳のサラリーマンを生きる世界から今のこの世界にきた時も、遠眼鏡で姉さんの部屋を一緒に覗いて自分たちが育った家に空間移動した時も姉さんは消滅したりしなかった。

 今回は16歳の僕自身が現れ、その僕がおそらく僕自身を見て驚愕したという事実が今までとは違っている。今までは言ってみれば僕たちは観客席から侵犯のできない舞台を眺めていたのだった。
 だから高校生の僕が今の僕、今の僕と言っても姿形は姉さんの一つしたの高校生になっているわけだけど、その僕を見て驚いたというのは自分と全く同じ存在を舞台から見て、役者が舞台上で驚いてしまったという劇の進行に致命的な影響を与えてしまったということになる。

 もし実際の舞台で、役者が実人生で子供の頃に生き別れた自分の母親を見つけたと仮定しよう。その役者は自分が舞台の中で一人の役を演じていることを思わず忘れてしまって、「お母さん!」と叫んでしまったとしよう。舞台はめちゃくちゃになり、取りあえず劇は中断して、騒ぎ出した観客席は舞台の上からおりてきた緞帳で舞台から遮断される。

 そうだ、舞台の上と観客席は「お母さん!」という叫び声によって接続されてはいけないのだ。さっきそれが起きたのだ。僕は向こう側の世界の僕に発見されてしまった。16歳の僕は「あ、もう一人の君島健太郎だ!」と叫びそうになった。そこで舞台の緞帳のようなものが、時空の混乱を防ぐための緊急の安全装置のように作動し、僕は観客席の側に隔離された。もともとこちら側の住人だった姉さんは、そうすると緞帳の向こう側にいるということになる。

 自分を落ち着かせようとここまで考えてきて、僕は確かに少し落ち着いてきた。しかし今度は混乱に替わって深い恐怖心がざわざわと僕に取り憑いた。

 姉さんにもう一度会えるんだろうか。

 この暗闇の中で僕は生きて行くんだろうか。

 16歳の僕は向こう側の世界で生きており、かといって38歳のもともとの僕の世界にも戻らなかった僕はいったい何なのだろう。おそらく38歳の僕は今のこの僕が戻ることなく、その生活を続けているのだろう。

 じゃあ、この僕はいったいなんなんだ。この真っ暗な世界では、僕という存在はただ、「僕」という意識、記憶だけだった。この世界には出口がない。
 僕は自分の顔にいきなりビニール袋をかぶせられたような錯覚を覚えて呼吸困難になりそうになった。



 何としてでも出口の手がかりを発見しないと、僕の意識はこの場で狂ってしまいそうだった。

 恐怖にとらわれた頭で必死に手がかりを探す中、昔読んだ小説の一節が頭に思い浮かんだ。

「音のない真の闇は、かえって鋭い金属音のような音を錯覚させる」

 誰だっただろう。三島由紀夫だったような気もするが違うかもしれない。でもその作家は今の僕と同じような真の闇を想像できる作家だったのだ。確かに自分の意識すらこの世に存在するのか疑わしくなるほどの闇の中、どこか遠いところで、「キーン」という金属音が聞こえるような気がした。

 僕はその金属音を逃さないように意識を集中した。今の僕にとって藁にもすがる思いのまさにその藁が、この金属音だったからだ。唯一僕の意識の外にあって、僕という意識が幻でないことを証明してくれるものだ。この金属音がなくなったら僕の意識そのものも消滅して、この僕はどの世界からも消滅するのだと思った。これが人間が死ぬということなのだろうか…。



 音が少し大きくなったような気がする。死を前にした恐怖のためにありもしない音がさらに大きくなったと思い込みたいのかもしれない。だとすればそれこそが僕の意識が錯乱しはじめた証拠であり、ロウソクの火が完全に消える前に一瞬だけその火の輪郭がぼうっと拡大するようなものなのかもしれない。眼球の瞳孔がカッと見開かれたのち永遠に視力を失うように、この金属音が拡大し切った時、突然僕の意識は終わるのではないかと感じられた。



 音は確かに大きくなってきた

 そして確かになってきた

 金属のこすれる音がする

 今度は金属のこすれる複数の音が反響する

 オーケストラが舞台の上で最終のチューニングをしている時のように複数の音が混じり合い、混沌からの世界の誕生を錯覚させた。

 音はかすかだがリズムを刻みはじめた

 リズムは心臓の鼓動のようだった

 どこか眠気を誘うようなの馬蹄のリズミカルな躍動感のある音



 僕は助かるのか?



 馬蹄の生命力にまた金属音が混じった

 轡のガチャガチャという音だ

 車輪が回転するようにガシャンガシャンとリズミカルに音を刻んでいる

 何かが僕に近づいているのか?

 それは何だ?




 この感覚は幻なんかじゃない!

 僕は助かるんだ!

 僕は助かるし僕は気が狂ってなどいない!

 まだわからないけど、この何かが迫ってくる金属音は確かに僕の記憶の一番深いところで僕の内部に存在する。これは現実の記憶なんだ!




 僕は力が湧いてきた

 姉さんにももう一度会えるはずだ

 この音の正体が確かめられた時

 この音が一枚の風景となった時!




 金属音に警笛の音が混じった

 低い音は最初どこかのどかにも聞こえた

 絵本で見た蒸気機関車が鳴らすような悠々とした音だった

 何度も警笛がなるうちに、それは焦燥の色を帯びてきた

 そして狂ったように連続して警笛は鳴った

 発狂しそうになっている運転士の引きつった顔が見える

 音はいつしか耳をつんざくような高音になっていた

 調弦の狂った弦楽器に音程を外した管楽器の音が混じり合い、ティンパニーは力の限りデタラメに殴打された。






 姉さん、また会えたね。

 よかった

 僕ね

 死ぬかと思ったよ

 ホントに…





 電車の長く持続する急ブレーキの音が警笛の絶望的な低音と混じり合った。踏切のカンカンという音が誰も踊らない舞踏の伴奏をしているかのように滑稽に鳴り続けている。

 救急車の音、群衆の悲鳴と叫び声。だれかが怒鳴っている声は不思議ととても遠くの声のように聞こえる。



 よく覚えているさ

 ここはあの踏切だね…姉さん


「来たんだね、健太郎」

「うん」

地下鉄のない街68 佐藤先輩の開けた箱

「木島先生と春日井先生と青田くん。この部屋にあたしが来る前からずっとかざってあるこの写真の三人はとて仲良しに見える」

「ああ、実際に仲がよかったさ。もっとも現実には俺と春日井先生が付き合ってて、青田くんが微妙な立場だったけどね」

「微妙…。途中から青田くんが春日井先生に思いを寄せ始めてって話ね」

「ああ。春日井先生…春日井さんは…僕は精神科医でも何でもないからよく分からないんだけど【断れない病気】らしくてね。本人がそう言ってたんだけど…」

「優柔不断とは違うんだよね」

「ああ。例えば人から何か相談を受けていると、いつのまにか自分とその人との境い目が無くなっちゃうらしいんだね。」

「どういうこと?」

「いわゆる感情移入のしすぎっていうのかな。僕らもテレビや映画なんか観ていて、知らないうちにスクリーンの俳優に自分を重ね合わせてる事ってあるだろ」

「うん」

「それの極端なやつらしいんだ」

「区別がつかなくなっちゃうの?」

「ああ。でももうちょっと複雑で、例えば誰かが自分に激しく片思いしてるとする。」

「うん」

「自分が片思いされているにもかかわらず、まず相手の片思いに同情しちゃうんだ」

「何か普通はあり得ないよね。それで?」

「私がこの人の苦しみを救ってあげないといけないっていう気持ちで一杯になるらしい。春日井さんの言葉を使うと、その感情に自分が乗っ取られるって言ってた」

「今付き合ってる人がいるのに?」

「ああ、そういうこと。本人は誰も弄んでるつもりはないし、いい気になっているわけでもない。これは多分本当の事だ。嘘はない、どうしてかっていうと…」

「いいよ。分かるから。先生がそれで青田くんに春日井先生を取られちゃったってわけなんでしょ」

 静かに話が続いていた中に、佐藤先輩の優しい笑後が混じった。木島先生も照れたように笑っている。
 最初に二人が木島先生のアパートの部屋にいる光景をみた時は信じられない気持ちがすべてだったけれど、この二人には何か確かな落ち着いた結びつきがあるようにも思えた。

「でもさ、別に先生の過去の思い出にケチつけるわけじゃないんだけどさ」

 佐藤先輩が笑い声の混じった声で続ける。高校をやめたせいもあるのかもしれないけど、陸上部マネージャーだった頃に比べてとても大人びて見えた。木島先生に対してもなんだかすごく余裕が感じられる。それはこのアパートの部屋の二人の間に、そういうゆったりとした時間がいつも自然と流れているからなんだろう。

「何だい?」

「あのさ、先生だって最初に春日井先生に同情されちゃって付き合い始めたのかもしれないじゃない」

「ん?」

「だからあ」

 佐藤先輩はくくくっ笑をこらえながら、芝居かかったような仕草でピッと木島先生のことを指差した。

「ズバリ、春日井先生は誰かのことを思っていたのに先生の気持ちに同情して、誰かを振って先生と付き合い始めたかも知れないってことよ」

「あ!」

 鳩が豆鉄砲を食ったような・・・そんな光景だった。





 隣の姉さんが思わず吹き出した。

 僕も笑い声をこらえた。

 教師と元教え子。最初はびっくりしたけどいい関係だな。僕もねえさんもそう思い始めていた。






 しかし、笑い返すはずの木島先生の声は聞こえてこなかった。少し気まずい沈黙が部屋に流れかかった。



「ごめんなさい。傷ついたの?」

 佐藤先輩が申し訳なさそうに俯いた。

「いや、ごめん。そんな大人げない事じゃないんだ」

 佐藤先輩はホッとしたような目をして「じゃあ、どうして」と小さく口を動かした。どうして突然深刻な顔をして黙り込んでしまったのかということなのだろう。

「春日井さんにとって家出した弟さんだなそういう存在は…もちろん変な意味じゃなくて。弟さんがの苦しみを受け止めきれなかった自分を常に罰し続けてる。僕はどうしてそこに気づかなかったんだろう。そうすればもう少し彼女に別の接し方ができたかも知れないのに…」

「どういうこと?」

「…うん」

「今まですべてバラバラだった事がだんだんと繋がってきた。そうか、だから西村は春日井先生の過去に興味を持ったのか…」

「え?全く分からないよ、西村くんがどうしたっていうの?」

「実はね、今度の競技会で今日西村が病院送りにした皆川が公式にデビューするんだけど、それについて西村がちょとした陰謀を企んでるんだ」

「陰謀をってまた神崎くん絡みの…」

「そう。君が神崎と別れる事になったあの事件の再現だ。何がなんでも神崎を抜かす記録を部員が出さないようにするといううちの陸上部の「護送船団方式」維持の儀式だね。だから君には黙っていようと思ったんだが、今の話で嫌な予感がしてきた。西村はもっと大掛かりな陰謀を企んでるかも知れない…」

「それが春日井先生のこととどんな関係があるの?」

「うん、落ち着いて話を整理しながらしゃべるよ。そうか…二年の君島健太郎を巻き込もうとしていたのにも何か別の意味があるのか?」







 二年の君島健太郎を巻き込む?

「なんか怖いよ。パンドラの箱みたいだ・・・」

 姉さんが不安を隠しきれない緊張した面持ちで僕の手をそっと握った。

地下鉄のない街69 春日井先生の真実?

「どうしても嫌かい。八百長は?」

 木島先生と佐藤先輩の声がすっと消え、西村の声が背後で聞こえた。僕と姉さんは驚いて後ろを振り返った。

 病院?

 包帯で顔の右半分が隠れた皆川くんに西村さんが話しかけている。

「お前はなんのために走るんだい?」

 西村が話しかけても皆川くんは無言だった。

「なあ、皆川。この世の中みんなでつき通す尊い嘘で成り立っていると思わないか?」

 皆川くんの表情が動いた。

「どういう意味です?」

「俺が神崎さんがすごいなって思うのはさ、あの人は自分より早く走れるやつがいるって分かってるのに自分が偽者のスターでいた方が陸上部がうまく回っていくっていうことを知っててその役割やってるって事だと思うんだ」

 穏やかでまるで親友に語りかけるような口ぶりだった。

「お前に宗教ごっこって言われちゃったうちの教団もな、こんなことここだけの話だけど、教団代表の父親も教祖の母親も神様なんて信じちゃいないのさ。それでも信者を騙してるわけじゃない。信者にとっては必要なんだよ、教団も教祖も。あってくれないと、いてくれないと困る。」

「西村さんのご両親と神崎さんは同じだと?」

 無表情な顔で皆川君が答える。ただ少し話に興味がでたようでベッドから状態を起こそうとした。西村が皆川君の脇を抱えるようにしてそれを助けた。

「ああ。顧問の木島先生も同じさ。あの人は高校の時親友を死なせてる。波風立てずにやり過ごせば良かったのに学校や教育委員会と喧嘩して、力足らずにその親友の学校での立場を悪い方向に追いやってしまった。本当の事を訴えるなんていうこと、本当の事を暴きたてることなんてガキのやる事さ。」

「僕が入部する前にも記録を巡って騒動があったそうですね」

「ああ。あの時はマネージャーの佐藤さんが、もうこういうことはやめようって騒いだな。」

「佐藤さんって昔は西村さんと付き合ってたんですよね」

「あれ?誰かおしゃべりなやつがいるんだな。まあ、いいや。付き合ってるというかオレの一方的な思いだったかもしれないけどな」

「尊敬する神崎さんに譲ったってわけですか」

「譲るも何もないわけだけど、神崎さんのしんどさ分かってくれるたらいいなと思ったよ」

 皆川君は少しの間無言だった。

「僕はただ、この高校に自分がちゃんといたっていう思い出が欲しいだけなんですよ。僕もどっちかというと実は人に求められるままに自分の本当の思いとか、自分の姿なんて隠してやってきたんです。いわゆるいじめにあってた状態ですけど、僕はいじめられてるとは思ってなかった。誰か標的が必要なんです。誰でもいいから誰かいじめておけば、とりあえず自分はいじめられない。ある日なんでもないことからいじめられた僕は、次の標的を探してバトンタッチするのはやめようって思ったんです。」

 西村は頷いた。

「ああ。皆川がそういう人間だっていうのは俺はわかってたよ。みた瞬間からな。」

「でもね、春日井先生と接しているうちに思ったんです。あの人と接していると自分の中の、このまま表には出さないでやって行こうと思っていたものが表にでたがってくるっていうか、そんな気持ちになるんですよ。別にカッコつけたいとかじゃないんです。そんな気持ちにさせる人なんです。ああ、そういう風に本当の自分になって生きてみるってこんなに嬉しいことなのかって、大げさにいえば生きてる実感がもらえるんですよ。春日井先生の笑顔をみてしゃべっていると」

 西村が立ち上がって病室の窓の方にやってきた。

 窓の外から見ている僕と姉さんは一瞬ドキッとしたが、どうやら気がつかないらしい。

「じゃあ、俺も皆川が知らない真実とやらを一つ教えようか」

「何です?」

「春日井生が数えきれないほど男子生徒との色恋沙汰の問題行動を起こして、その度ごとに学校を追われてこの学校にやってきたということ。この学校に限ってみても君の前にそういう問題を引き起こして厳重注意受けて自宅で謹慎していたという時期があったという真実さ」


 皆川君がかすかに震えて、少し引きつった顔で唾を飲み込もうと喉仏を動かそうとしているのが見えた。

「佐藤さんが陸上部と学校を辞める結果になったこと、その後君は知らないだろうが木島さんと暮らしているということ、その引き金になったのは…」

「僕の前に、神崎さんよりいい記録出そうとしたというのは…」

 西村はまた親友に接するようなに笑いかけた。

「そう。そいつも保健室が大好きだった」
ゆっきー
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