地下鉄のない街 39恋人たちの過去
夢を見た。
「木島くん、教育委員会に本当に行ってきたの?」
「ああ。このまま泣き寝入りじゃ、きっと僕は一生ダメになる。僕にはそれがわかるんだ。僕はきっと人に対しても世の中に対しても何の怒りもぶつけることができない腑抜けになる。そんな自分にはなりたくないんだ」
「わかるけど…」
「それでどうだったの?」
「腐ってるね、ゴミダメを抜け出して出口にたどり着いたらまたゴミダメさ」
「うまくいかなかったのね」
「ああ。逆に説教されたよ。『学校は教師や学校制度と戦う場所なんかじゃない。共に理想を追求し、一生の財産となる師弟関係を育む場所です。仮に君のいうように一部の生徒に体罰があったとしても、それは話し合いの中でお互いの行き違いや誤解を解いていくのが正しいのです。どこで仕入れた知恵か知りませんが、自分でそういう努力もしないで裁判所に駆け込むように教育委員会を訪問するというのは論外です』だってさ」
「そう。青田君を守りたかっただけなのにね」
「学校内のドメスティックバイオレンスだよ。教師がグルになったらもう生徒は逃げ場がないよ。確かに青田は最後の最後まであいつらの言いなりにはならなかった。だからって学校の秩序を乱す元凶が青田だっていうあの流れはどうみてもおかしい。教師のいうことを聞かないということで、自分たちのメンツが潰されるという恐怖感で教師集団で青田を陥れている。そんな管理教育があっていいはずがない」
「うん。その通りだね…」
「あれ、春日井さん…どうしたの」
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…高校生の頃の木島と春日井先生か…。
僕とトニーが衝立のかげから聞いていた二人の思い出話のあれだな…。あの時の夢をみてるのか…。
二人にとってはいろんな意味で忘れられない思い出らしい。僕もトニーも断片的な話から二人の高校時代の一日をありありと、まるで舞台をみているように想像できたな。
二人が恋人同士だったとは驚いたよな、あの時は…。
それに教師の木島と正反対の高校生の木島…。それもびっくりだった。
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「あのね…木島君が教育委員会に行っている間に、おたくの生徒が来ましたってことで教育委員会から学校に電話があったみたいなの。それで青田君が木島君に教育委員会に洗いざらい暴露してくれって頼んだんだろうっていう話になって、青田君が朝からずっと職員室に軟禁状態にっなっちゃったんだ。どんな状態になったかは怖いけど想像できちゃうよね。青田君は隙をみて職員室から逃げ出して、そのまま屋上に階段を駆け上って飛び降りようとしたわ」
「何だって?!」
「取り押さえられて無事だったからそれは安心して」
「分かった。無事だったんだね。よかった。…だからこうして学校の外で待っていてくれたのか」
「うん。今学校に戻ったら大変なことになるから…」
「ごめん、ありがとう」
「いいの。それとあたしも騒ぎの後職員室に呼ばれてね。あたしもそのまま軟禁状態になりそうだったから隙をみて逃げ出してきたの」
「え?どうして?」
「遺書が見つかったの」
「え?青田の?」
「うん。突発的な行動だったみたいなんだけど、いつでも死ねるようにって遺書を持ち歩いてたらしいんだ」
「そうか…、そこまで思いつめてたのか。でも何で春日井さんが呼ばれたんだろ」
「遺書にね…。死ぬのはあたしに冷たくされたからだって書いてあったみたい」
「……どういうことなの?」
地下鉄のない街 40 踏切の手招き
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衝立の向こうの二人はしばらく無言だった。
箸を動かしていうのか、ビールのグラスを傾けていたのかは僕もトニーにも分からなかった。
トニーと僕は時折目を合わせた。
もちろん声を出して隣の話に内容についてしゃべることはできなかった。でももし仮に話せたとしても、まだ中学生の僕たちにはそれから先の内容はどんな風に話にしていいかも分からなかっただろう。
二人の思い出話が迷い込んだ重たい沈黙を破ったのは木島の方だった。
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「青田が飛び降り自殺騒動を起こした後、一ヶ月だったね。あの踏切のことは」
「そうね。今度は木島君のことも書いてあったね。遺書の内容全体が書き直されていた」
「すべては木島のありがた迷惑で、どんどん標的にしやすい自分が教師たちから追い詰められていったということが克明に書かれてたね」
「あたしについては、親身になって一緒に考えてくれていたのに木島と付き合い出すようになってから手のひらを返すように冷たくなったっていうその過程がびっしりと」
「うん。幸せなカップルが級友の難題を解決しようとそのこと自体を二人の時間の楽しみにしている。誰が読んでもそういうことへのバカにされた恨みが自殺の動機だったと読めた」
「誤解を解きたかったね」
「うん。青田自身が最後は本当にそう思っていたのだとしても、途中までは青田もそうじゃなかった。僕らの幻想なんかじゃなかったよ」
「そうね。でも結果的にはあたしも木島君もあの日まで気が付かなかったことになる」
「今度は本当に踏切に飛び込んで死んでしまった」
「あの後あの踏切で何度も自殺未遂が起きたのよね」
「ああ。未遂に終わった人が警察で事情聴取を受けると、決まって誰かにこっち側に来いって手招きされたように感じたって。それでついフラフラっと…」
「本当に怖いわ。青田君の霊がそうさせてるってあたしたちの間ではもっぱらだったわね」
「まったくなあ。当時は俺も春日井さんもそう思ってしまってたよね」
「うん。普通じゃない状態は卒業するまで続いたよね」
「ああ。今でも時々あるらしいよ」
「そうね。つい誰かに手招きされてるみたいに…」
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僕は喉が殻からにになった。トニーもそうだったんだろう。二人ともテーブルの上に並んだジュースの瓶をそれぞれ掴むとラッパ飲みで一気に飲み干した。
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「今こうして僕が、学校体制にロボットのように順応できる生徒を作り出すことを自分の教師としての役割だと感じてることは…」
「あたしが保健室を必要とする生徒にとことん付き合おうとして、あなたたち学校側と対立することと同じなのね」
「中途半端な体制への反抗は結局人を不幸にするだけさ」
「それが木島君の悩み抜いた末の答えなのね」
「ああ。だから君を見ていて危険だと心底思う。生徒は卒業するまでにどこに出しても順応できるいい意味での部品にしてしまうことが教師の役割だと思うんだ・・・」
「あたしはやっぱり、あの時中途半端に青田君に接したのがいけなかったんだと思う」
「自分の恋人でもないのにかい?ましてや自分の家族でもないのに」
「そうよ。クラスの仲間として」
「人間が取りきれる責任は常に有限だよ。どこかで線を引かない途方も無い責任を他人に感じる必要はないんだと思うし、無限に責任を負えるっていう幻想、もっと言ってしまえば僕らの思い上がりが青田君の誤解を産んだんじゃなかったのかい?」
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また衝立の向こうに重たい沈黙が訪れた。
僕は皆川君のことを思い出していた。
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地下鉄のない街 41大人たち
「もともと木島君は無責任な大人たちの尻拭いをやってあげたんだよね」
衝立があるから、木島の表情も春日井先生の表情もこちらからは分からなかった。
でも、その空気、落ち着いた間のとり方から、春日井先生と木島との間には静かな信頼関係が流れているのが伝わってきた。考え方ややり方は違っても、二人は高校生の時の同じ体験からその後の人生を生きているんだということが分かった。多分一日も忘れることのないほどにその日のことを振り返りながら生きている。
「今で言うモンスターペアレントだったわけだな、青田君のお母さんは」
「野球部の特待生だったよね。実際エースの青田くんのお陰でうちの高校は甲子園に初出場。」
「そうだね、それも一年生の夏からあの事件のあった三年の春まで連続3回出場だ」
「あの噂ほんとなのかな。二年生の時にお父さんとお母さんが学校にやってきて『うちの子は特別ですから、授業で寝ていてもうるさいこと言わないで欲しい』って学校に言いに来たの」
木島のかすかな笑い声がした。
「そうだなあ、ある時点から実際に授業に居眠りしていても何も言われなくなったし、試合が近づくと授業にすら出てこなくなったもんな。昔はかなりきつく注意していた教師も何も言わなくなった。じっさいに青田が、『校長先生と話はついてるはずだろ』って咎めた教師を逆に皆の前で一喝したっていう事件もあったしな」
「そうね。あの時の屈辱的な先生の顔はあたし今でも覚えてるよ。さすがにあれはやっちゃいけないことだと思ったけど、やっぱりそういうことだったのか」
「まあ、青田くんの天下は長く続かずに、二年の夏の大会の後肩を壊して練習試合で全く勝てなくなった。今までの反青田の教師連中は結束してそれまでの恨みを晴らしにかかったわけだ。勝手なもんだよな、青田君のこと擁護して、うちの高校の希望の星だみたいに言ってた連中も増長しすぎでちょうどいいところに天罰が下ったみたいな言い方して攻撃側に回ってたね」
「話の流れからすると分からなくもないけど、でも先生たちのいぢめは露骨だったもんね」
「そうだな・・・」
二人は沈黙していたので教師からどんないじめがあったのかは分からなかった。でも、そういう事情なら教師からの集団いぢめというのもありえるんだろうなと僕はぼんやり思った。
「結局親も・・・」
「そ。あいつに聞いた話じゃ、お前が学校にそう言ってくれって頼んだから無理して頼んだんだ、っていうことで、教師からのいぢめについては一言『自業自得だろ』って父親に言われたらしい。青田君にしたってそんなことはわかり切ってたわけで、それでももう自分の手に負えなくなってしまって最後の頼みの綱で他ならぬ親に頼ったということなんだけど」
「父親がそういう言い方っていうのはひどい話だよね。」
「母親も隣で深々とそうだそうだと頷いていたらしいぜ」
「ボロボロだったよね、青田君」
「それでなんとなく春日井さんが話しかけて・・・」
「三人でいくらなんでもこの状況はひどすぎるって話になったんだよね」
「そうそう。あの時はまだ青田君も冷静で、自分がアホだったわけだけど、って自分を客観的に笑える余裕もあったんだけどな」
「行くところまで行っちゃったね」
「そうだね・・・」
二人はまた黙った。今度黙ったわけはすぐに分かった。春日井先生のすすり泣きが聞こえたからだ。僕は驚いた。でも木島は何も言わなかった、ただ沈黙だけがゆっくり流れていった。
じっと静かに沈黙している木島はその涙のわけを知っているだけじゃなくて、それが十数年たった今でも涙を流すもっともな理由があるのだという、そのことを知っているに違いない。そして春日井先生は木島の前ではそういう涙を隠そうとしないのだということも分かった。
それほどその沈黙とかすかなすすり泣きは、変な言い方けれど事情を全く知らない僕とトニーを納得させるものだった。
僕はここに来る前、学校の有能な下僕の木島が、心の悲鳴をあげる生徒が皮膚感覚で探り当てる保健室の春日井先生と会うということがどうしても信じられなかった。
でも、今ではそれがとても自然なことに思えた。
理由はまだ完全には分からなかったけど・・・。
地下鉄のない街 43春日井先生の弟さんへ
蝉の鳴き声が頭の中に鳴り響いていた。
蝉の鳴き声はいつでも遠くからやって来て、いつの間にか耳をつんざく様に僕の頭に鳴り響く。短く、鋭く非難する様に。非難の声はいつしか何重にも重なり合い、僕の意識の逃げ道をじわじわと塞いで行く。
「健太郎、大丈夫?」
夢でうなされていた僕を姉さんの声が救ってくれた。
山の上ホテルだ。
僕はきつく押しあてていた自分の汗ばんだ額を、姉さんの胸からそっと離した。
しがみつくように背中に回していた自分の両腕をほどくと、目の前の一瞬姉さんと春日井先生の悲しそうな笑顔とだぶった。僕は夢の中で春日井先生の弟さんに自分を重ねていたようだった。姉さんに起こされる前、春日井先生が突き飛ばしたというその日の先生の弟さんを僕は夢の中で生きていた。
君が春日井先生を突き飛ばしたんだね。
僕はその時の理由もなく理解した。
なぜなら今なら、そう、今ならば僕も同じことをするだろうから。
きっとできるから…。
あの時突き飛ばしたのは春日井先生じゃない。君だよね。お姉さんを守るために、お姉さんの人生を守るためにそうしたんだ。
先生が君を突き飛ばしたという記憶は、先生が行方しれずになった君への自責の念で徐々に変容させて行った悲しいフォルスメモリ、偽の記憶だね。君の姉さんは優しいね。僕の姉さんと似ているかもしれない。
僕には本当のことが分かるよ。春日井先生は自分から君を突き飛ばすような人じゃない。
僕は姉さんに甘えてしまった…。君のようにはできなかったんだ。
君は君のお姉さんにしがみついたのはその時が始めてかい?
僕はね、初めて僕の姉さんにしがみついたのは、子供の頃二人でスパイ映画をテレビで見ていた時なんだ。そのスパイは敵国に身分を偽って潜入している。妻子は祖国に残してね。そして身分を偽ったまま敵国の女性と結婚して女の子も生まれる。幸せな家庭だったんだ。
ところが娘がその国で一番の大学に入学した入学式から帰って来た日に本国への帰国命令が出る。男は二十年近く暮らした敵国での生活とかの地での自分の妻と娘を捨てられなかった。そしてすべてを家族に打ち明ける。祖国も祖国の家族も捨てるつもりだとね。ありそうな話だろ。題名も俳優も忘れてしまった。そんなに有名な作品でもなかったんだと思う。
でも僕にとっては忘れられない映画になったんだ。
妻と娘はそれまで自分の夫が、自分の父親が最愛の家族に嘘をつかなければならなかったその辛さがいかばかりのものであったか、泣きながら一晩中語り合ったよ。男は最初の数年間の自分の打算、本国に帰った後の昇進などを夢見ていたことなどを心の底から恥じた。そして、そのこともすべて告白して自分の卑小な人間性を罰してくれと訴えたんだ。
二人はすべてを許すといった。
夜も白んじて明け方の静寂が訪れようとしていた。遠くで蝉が鳴き始めていた。新しい朝が始まるその日、家族は娘が幼い頃そうしていたように大きなベッドの上で娘を間に挟んで三人で少し寝んだ。
男は目が覚めると秘密警察の独房にいる自分を発見した。取調官が睡眠薬を飲まされてここに運ばれたのだと告げた。男はすべてを理解した。寝る前に娘が運んでくれた紅茶。すこしいつもと違う味がした。
「紅茶か・・・」男はつぶやいた。
「家族は当然の義務を果たしたんだ」
取調官が男のつぶやきに応えるようにそう言った。男は無言で頷いた。泣き崩れることはなかったけれど涙がポタポタと取調室の机の上に落ちていた。
僕はその時、呼吸が困難になるほど怖くなったんだ。震えを抑えながら、小学生の僕は中学生の姉さんに声を振り絞るようにして言った。「僕が本当のことを言ったら姉さんもそうするの?」僕は何か隠し事をしていたわけじゃない。そうじゃなくてね。僕は自分がなにか罪を犯したわけではないのに自分という人間はどこか人様に言えないようなそんな部分を生まれつき持ってしまった人間だと思ってたんだよ。もちろんそんな思いを僕が持つのはおかしいんだ。でもね、なぜだか僕はそうだったんだ。物心ついた時からずっとね・・・。
「僕が本当のことを言ったら」というのは「本当の僕を知ったら」ということだったんだ。本当の僕を知ったら姉さんも僕をどこかに追いやってしまうのかい?僕は自分がばらばらになるような恐怖感にとらわれて姉さんにそう言ったんだ。姉さんは僕の、本当の僕を知っても姉さんでいてくれるの?って。
姉さんは一瞬、僕の眼の奥を覗きこむような柔らかいいたわるような目をした。
姉さんは静かに首を振った。そんなことないよ。唇がかすかにそう動いた。それは僕が現実に何の罪も犯す前から、僕がどんな罪悪感を持って生きているか、すべてを知っているような目だった。僕はその時、姉さんのこの目に守られていれば自分は自分の中の化物のような何かを表に出すことなく一生を送れるのかもしれないと思ったんだ。
でもね、その時いつの間にかぼくの父親が僕達の後ろに立っていたんだ。
父親は座ってテレビを見ていた僕たちの上から立ったまま言ったよ。
「家族は当然の義務を果たしたんだ。犯罪者は犯罪者だからな」
僕は多分恐怖感から父親をすごい目で見たんだと思う。そして父親にはそれは恐怖感で恐れおののいた目ではなくて、自分への反抗的な眼だと見えたんだろうね。
「なんだその目は!」
大声で怒鳴られた。僕は自分の何かが崩れそうになった。必死にその時姉さんにしがみついたんだ。姉さんは僕を強く抱いてくれた。
「姉弟で色気づくんじゃない」
父親は僕と姉さんを引き離して僕は平手打ちを何発も食らった。何十発かな。口のかなを切ってかなり出血したのを覚えている。でもね、体の傷はいいんだよ。僕は自分が、自分という化物めいた存在がいつでも世間にさらされる可能性があるんだっていうことを、その時こころと体の底から実感したんだ。
後で知ったんだけどね、その頃父親は大きな自動車メーカーの労働組合の委員長をしていたらしいんだ。そして大きなストを潰すために労組の仲間を会社に売ったらしい。父親にはそれなりの考えがあったんだろう。そんなことは僕は当然何も知らなかったんだけど、「当然のことをしたんだ」というのは、自分が労組を売った男として周りから非難されていたことへの反発だったんだろうと思うよ。母親からずっと後になって聞いたことだけどね。父親はその時の功績かどうか知らないけど、今ではその会社の取締役だ。
その時の暴力体験が引き金になって、僕のそれまで漠然と感じていた不安がときどき病的に顕在化するようになった。普段は明るくてクラスでも頼りにされる陸上競技が得意で成績優秀な僕。でもときどき精神の崩壊の予兆を前触れもなく経験するけれどそれを死ぬまで何とか隠していきていこうと決心した僕。
それからときどき精神が壊れそうになると、このまま発狂して死ぬんじゃないかという恐怖心に囚われた。でも救急車を読んでもらうわけにも行かない。説明がつかないしね。そしてすがるように姉さんの部屋に行くようになった。
うん。言い訳さ。本当は僕も君のように強くなりたかった。でも僕は行方不明になる勇気はなかったということだね・・・。
ねえ、当たってるよね・・・。君が春日井先生を突き飛ばしたんだろう。やっぱりそうか。
え?ありがとう?いや、何でお礼なんか言うんだい?
こちらこそありがとう。どうしてだかわからないけど・・・。
ありがとう…