地下鉄のない街 第一部完結

地下鉄のない街37 告白

「西村さんはね、つまりうちの親父と同じだよ。僕が心の底から神崎さんに心服していないっていういいがかりさ」

 僕は西村のあの小狡そうで神経質な目を思い出した。

「それってさっき言ってた隠れキリシタン狩りみたいなの?」

「そう。練習次第で僕が神崎さんよりも速くなりそうだっていうことはきつく口止めされてたから、僕自身も僕の走りを最初に見た部員も口をつぐんでた。だから後から入ってきた後輩なんかはそういうことはまるでしらない」

「うん」

「でもさ、言わないって言ってるのにそれを気にするってあるのかもね。犯罪の現場を目撃された犯罪者が不安でいても立ってもいられなくなって、ついに目撃者も殺しちゃうみたいなさ・・・」

 姉さんは少し腑に落ちないという顔をした。

「それもまあ、分からないでもないけどさ。でもなんで、神崎さん本人じゃないの?」

 僕はふぅと大きくため息を付いた。

「だからそういうことが木島先生の口から春日井先生に語られたりするわけなんだ。木島が作ったシステムだからね」

「どういうこと?」

「木島先生の言うには、神崎さん本人はあれでやむを得ない犠牲者みたいなところもあるらしい。何が何でも神崎というスター性を維持して学校内外にアピールし続ける必要があったみたいだね」

「何のために?」

「将来有望なスプリンターという伝説さ。まず陸上部にとってはそういう伝説にしておけば理事長の覚えめでたく陸上部には例年破格の予算が割り振られるから美味しい思いをする人も多くなる。それに互い的にも陸上競技界で大きな顔ができるとか、対外的には良い生徒を全国から集めやすいとかね」

 姉さんは呆れた顔をした後僕と同じようにため息を付いた。

「でもさ、そんな虚しいことやっても結局記録が全てなんだから簡単にバレると思うけど。学内はあんたや皆川くんを封じたみたいに偽の1位という地位を保つことができても外ではそうはいかないでしょ」

「まあね。でも将来性っていうマジックワードがあってね。例えば野球にしても陸上にしても必ずしも全国大会で名前を残さなくても強豪の伝統校の大学には入れるんだよ。将来性があればね。甲子園に一度も出たことなくても六大学に行ってそこで鍛えられてプロで活躍している選手なんていうのは山ほどいるしさ」

 姉さんは半分納得した顔をしながらもまだ半分は腑に落ちないという風だった。

「で、神崎さんが犠牲者っていうのは?」

「木島先生いわく、神崎さんはほとんど傀儡政権の旗印みたいなもんで、本人も大した才能もない自分がポジション的に都合良く利用されていることをよく自覚していたみたい」

「自覚って、まさかあんたや皆川くんみたいな有望選手のことを取り巻き連中が潰していくことも?」

「そういうこと」

 姉さんは一瞬怒こったような顔をしたけどすぐに吹き出した。

「ばっかじゃないの。何なのそれ?」

「そう。ばかばかしいんだけど、それが木島の創りだした愛の互助システムらしい」

「は?愛の?」

 僕が木島システムのことを昔みんながそう呼んでいたように言うと、姉さんは今度はたまらずゲラゲラと笑い出した。僕も一緒に笑った。笑えなかったあのシステムをこうやって腹の底から笑い飛ばすことがもし中学のことできたとしたら皆の、そして僕や姉さんのその後の人生も変わっていたんだろうな、僕は笑い終わると再びどんよりした重苦しい後悔の念に囚われた。

「西村はその木島システムのために、この際皆川くんと僕をもろとも抹殺してやろうと思ったわけさ。そういう不穏な動きについて春日井先生に問われるままに木島がいろいろしゃべってた。西村たちにとってみたらそういう栄光の、でかい顔できる、ついでに自分たちも陸上の推薦で有名大学にも運んでくれるもろもろのシステムが壊されるのは自分の現実や将来が壊されるのと同じだったってわけ。コバンザメは自分がひっつく親に頑張ってもらわないと自分が死んでしまうからね」

 笑い終わると姉さんは僕の表情を気にしながらの呆れ顔でため息をついた。


「木島システム、愛のだっけ・・・。その馬鹿馬鹿しいシステムが誤作動してあんたが不幸になったり皆川くんが結局自殺することになったっていうわけなの?じゃあ健太郎もかわいそうな被害者なんだね」

 簡単に言うとそういうことなんだ・・・。いや違う・・・。そうであってくれたらよかったんだけどね・・・。

 でも、もうそろそろ言う時が来たみたいだね。

 僕が姉さんとこうしてここでこんな話をしているのは、あれから二十数年間も僕の中でそのことが消えずに僕を苦しめ続けていたからなんだ。そして、そのことはさっきの西村と姉さんとの接点の話を聞いて、どうやら姉さんにも遠く関係しているらしい。

 姉さんがこうしてここにいるのもきっと、このことに関係した理由があるに違いない。もう今が言うべき時なんだ。僕は観念した。




 何十年分の深呼吸をして、僕は二十年来の固く封印した秘密を口にした。


「誤作動してよかったんだよ。もし誤作動していなかったら僕は確実に人殺しになっていたからね」

 姉さんは一瞬無表情になった。そして静かに聞いてきた。

「どういうこと?あんたが誰を殺していたっていうの?西村さんを?」


 僕は自分の気持を落ち着けるように何度も首をゆっくり振った。あれが幻でなかったことを体で実感するようになんどもそうした。




「違うよ。皆川くんをさ。僕は皆川君を殺すつもりだった。僕はシステムの誤作動によって寸前の所で皆川くん殺害の犯人にならずにすんだんだよ。そして自殺に追い込んだ。どっちにしても皆川くんを殺したのは僕なんだ」





 ステレオのボリュームを急速にひねったように、この世界から音が消滅した。

 僕は姉さんに手をひかれて公園のベンチに腰を下ろした。姉さんがおでこを僕の額にくっつけて何かささやくように言ったようだけど、僕は何も聞こえなかった。

 僕はあの頃のように姉さんの胸に抱かれた。体中の力が抜けてすっかり姉さんに体を任せると、姉さんは僕を抱きかかえるように肩を抱いてくれた。






 ジッ・・・

 鋭い音がして蝉が一匹飛び立ったようだった。

 なぜだかその音だけは耳をつんざくようにはっきりと聞こえた。

 姉さんが頬を撫でてくれた。

 僕は自分が姉さんの膝で痴呆のよう涙をたれ流していることに気がついた。

 姉さんの膝で永遠にこのままでいたかった。

 

$小説 『音の風景』

地下鉄のない街38 夢の中のビデオテープ

 夢を見た。




僕が通っていた学校の制服がベッドの脇に脱ぎ捨ててある。同じ学校の女生徒の制服がきちんとたたんでその横に揃っている。

 季節は夏の終わりのようだった。

 画像は鮮明ではないが、閉めきったレースのカーテンを通して夏のギラギラした日が室内に差し込んでいた。

 あれは幻聴だったんだろうか。

 聞こえるはずのない蝉の鳴き声。


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 ジッジッジッ

 どこで鳴いているのかはわからない

 制服を脱いだ男と女は切ない声を上げながら絡み合っている。

 背になっている男。顔は見えない

 でも誰かは分る。あれは僕だからだ。

 そして、もう一人は・・・




 不思議だ

 僕は僕の行為を見ている




 思い出した

 これはあの時のビデオテープだ。

 西村にあれを見せられた時には頭の中が真空になった。

 よく頭の中が真っ白になるって言うけれど、あれは嘘だ

 そういう時は脳みそが呼吸困難で窒息しそうになるから色なんてないんだ。




 蝉の鳴き声

 ジッジッジッ



 なぜ西村があの僕達の秘密を撮影したビデオテープを持っていたかはわからない。

 でも話の行く先は簡単だった。

 脅迫の矛先はむしろ僕じゃなかったから・・・

 ビデオテープに僕の顔は写っていない

 西村が薄笑いを浮かべながら指を差した先には・・・

 姉さん・・・

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「ずっとずっと苦しかったね、健太郎・・・」

 ベッドの上?山の上ホテル?

 どれくらいたっただろう。僕は眠ってしまっていたようだった。姉さんの膝の上でいくら揺さぶっても目を覚まさなかった僕をタクシーに乗せて、姉さんは予定していた山の上ホテルにチェックインしてくれていたようだった。

 ベッドから状態を起こすと、うす暗がりの中ベッドの横に姉さんが座っていた。

「随分うわ言を言ってたわ。覚えているなら続きを話してもいいし、このままこうしていてもいいの」

 姉さんは優しく言った。

 うわ言?

 ビデオテープの脅迫の夢を見た。あらゆる手段を使って皆川くんを追い込むこと。それができないのならビデオテープを学校中にばらまくこと。中学だけではなくすでに姉さんが卒業し、そのまま進学している高校にも・・・。

 僕はそのことをすべてうわ言で喋ったのだろうか・・・?


 僕は頭が混乱して、再び眠りに落ち込みそうになった。正気でいることに耐えられないとき人は死んだように眠るという。じゃあ、きっと今がその時なんだ。


「もう少し寝たほうがいいみたいね」

 姉さんの言葉に多分僕は頷いた。でもその時には僕はベッドに沈み込み、すぐにまた夢の続きが始まった。


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 悪いのはおまえじゃない
 悪いのは、だれでもないんだ
 誰も悪くない
 だから誰も責められない

 ほんの冗談
 冗談を誰も責められない
 おまえもそうだよな
 冗談を否定したら、こんどはお前が標的だ

 自殺はしないよ
 自分のためじゃない
 おれが自殺したら、お前が困るだろ
 悪いのはばらばらにされて組み立てられたすりかえられた関係性の悪意さ

 どうしてこんなことするんだ、なぜこんなことになるんだ
 おまえにこういえたらどんなに楽だろう
 でも、誰に言ったらいいんだろう
 いつもおれをいじめるおまえか?

 ちがうよな。おまえはそんなにひどいやつでもない。
 だれににやらされているわけでもない
 やらせているのは、もっと違う不気味な何かだよな
 相手のいないところへ向かって自己主張はできない

 敵はどこにもいないんだ
 ただ、悪意だけが亡霊のようにあたりを支配している
 何かをすることは不毛なんだ
 悪意は、目で見えないし、胸ぐらもつかめない

 しゃべっていないと、何考えてるのといわれる
 何も考えていないとは、だれもいえない
 たとえ、何も考えていなくても
 何かしゃべらないといけないように

 だれか嫌いな人間いないのか、おまえは
 だれもいないとは誰もいえない
 たとえ、そいつのことを嫌いじゃなくても
 だれかを標的にしないと生きていけないからね


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「健太郎…お城を抜けだしたお姫様はね、どうやらもう一つ夢から醒めないといけないみたい。夢から醒めた夢。蝉は鳴いていたんだよ、幻聴じゃなくて。あたしには健太郎のうわ言で全部てわかっちゃったんだ。あなたがずっと気がついていなかったことも・・・。あたしがこの世界に来たわけも・・・」


 夢に落ちていく中で、姉さんの声が嗚咽と一緒に聞こえたような気がした。

地下鉄のない街 39恋人たちの過去

夢を見た。


「木島くん、教育委員会に本当に行ってきたの?」

「ああ。このまま泣き寝入りじゃ、きっと僕は一生ダメになる。僕にはそれがわかるんだ。僕はきっと人に対しても世の中に対しても何の怒りもぶつけることができない腑抜けになる。そんな自分にはなりたくないんだ」

「わかるけど…」

「それでどうだったの?」

「腐ってるね、ゴミダメを抜け出して出口にたどり着いたらまたゴミダメさ」

「うまくいかなかったのね」

「ああ。逆に説教されたよ。『学校は教師や学校制度と戦う場所なんかじゃない。共に理想を追求し、一生の財産となる師弟関係を育む場所です。仮に君のいうように一部の生徒に体罰があったとしても、それは話し合いの中でお互いの行き違いや誤解を解いていくのが正しいのです。どこで仕入れた知恵か知りませんが、自分でそういう努力もしないで裁判所に駆け込むように教育委員会を訪問するというのは論外です』だってさ」

「そう。青田君を守りたかっただけなのにね」

「学校内のドメスティックバイオレンスだよ。教師がグルになったらもう生徒は逃げ場がないよ。確かに青田は最後の最後まであいつらの言いなりにはならなかった。だからって学校の秩序を乱す元凶が青田だっていうあの流れはどうみてもおかしい。教師のいうことを聞かないということで、自分たちのメンツが潰されるという恐怖感で教師集団で青田を陥れている。そんな管理教育があっていいはずがない」

「うん。その通りだね…」

「あれ、春日井さん…どうしたの」





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…高校生の頃の木島と春日井先生か…。

僕とトニーが衝立のかげから聞いていた二人の思い出話のあれだな…。あの時の夢をみてるのか…。

二人にとってはいろんな意味で忘れられない思い出らしい。僕もトニーも断片的な話から二人の高校時代の一日をありありと、まるで舞台をみているように想像できたな。

二人が恋人同士だったとは驚いたよな、あの時は…。

それに教師の木島と正反対の高校生の木島…。それもびっくりだった。

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「あのね…木島君が教育委員会に行っている間に、おたくの生徒が来ましたってことで教育委員会から学校に電話があったみたいなの。それで青田君が木島君に教育委員会に洗いざらい暴露してくれって頼んだんだろうっていう話になって、青田君が朝からずっと職員室に軟禁状態にっなっちゃったんだ。どんな状態になったかは怖いけど想像できちゃうよね。青田君は隙をみて職員室から逃げ出して、そのまま屋上に階段を駆け上って飛び降りようとしたわ」

「何だって?!」

「取り押さえられて無事だったからそれは安心して」

「分かった。無事だったんだね。よかった。…だからこうして学校の外で待っていてくれたのか」

「うん。今学校に戻ったら大変なことになるから…」

「ごめん、ありがとう」

「いいの。それとあたしも騒ぎの後職員室に呼ばれてね。あたしもそのまま軟禁状態になりそうだったから隙をみて逃げ出してきたの」

「え?どうして?」

「遺書が見つかったの」

「え?青田の?」

「うん。突発的な行動だったみたいなんだけど、いつでも死ねるようにって遺書を持ち歩いてたらしいんだ」

「そうか…、そこまで思いつめてたのか。でも何で春日井さんが呼ばれたんだろ」

「遺書にね…。死ぬのはあたしに冷たくされたからだって書いてあったみたい」

「……どういうことなの?」

地下鉄のない街 40 踏切の手招き

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 衝立の向こうの二人はしばらく無言だった。

 箸を動かしていうのか、ビールのグラスを傾けていたのかは僕もトニーにも分からなかった。

 トニーと僕は時折目を合わせた。

 もちろん声を出して隣の話に内容についてしゃべることはできなかった。でももし仮に話せたとしても、まだ中学生の僕たちにはそれから先の内容はどんな風に話にしていいかも分からなかっただろう。

 二人の思い出話が迷い込んだ重たい沈黙を破ったのは木島の方だった。

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「青田が飛び降り自殺騒動を起こした後、一ヶ月だったね。あの踏切のことは」

「そうね。今度は木島君のことも書いてあったね。遺書の内容全体が書き直されていた」

「すべては木島のありがた迷惑で、どんどん標的にしやすい自分が教師たちから追い詰められていったということが克明に書かれてたね」

「あたしについては、親身になって一緒に考えてくれていたのに木島と付き合い出すようになってから手のひらを返すように冷たくなったっていうその過程がびっしりと」

「うん。幸せなカップルが級友の難題を解決しようとそのこと自体を二人の時間の楽しみにしている。誰が読んでもそういうことへのバカにされた恨みが自殺の動機だったと読めた」

「誤解を解きたかったね」

「うん。青田自身が最後は本当にそう思っていたのだとしても、途中までは青田もそうじゃなかった。僕らの幻想なんかじゃなかったよ」

「そうね。でも結果的にはあたしも木島君もあの日まで気が付かなかったことになる」




「今度は本当に踏切に飛び込んで死んでしまった」

「あの後あの踏切で何度も自殺未遂が起きたのよね」

「ああ。未遂に終わった人が警察で事情聴取を受けると、決まって誰かにこっち側に来いって手招きされたように感じたって。それでついフラフラっと…」

「本当に怖いわ。青田君の霊がそうさせてるってあたしたちの間ではもっぱらだったわね」

「まったくなあ。当時は俺も春日井さんもそう思ってしまってたよね」

「うん。普通じゃない状態は卒業するまで続いたよね」

「ああ。今でも時々あるらしいよ」

「そうね。つい誰かに手招きされてるみたいに…」




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僕は喉が殻からにになった。トニーもそうだったんだろう。二人ともテーブルの上に並んだジュースの瓶をそれぞれ掴むとラッパ飲みで一気に飲み干した。

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「今こうして僕が、学校体制にロボットのように順応できる生徒を作り出すことを自分の教師としての役割だと感じてることは…」

「あたしが保健室を必要とする生徒にとことん付き合おうとして、あなたたち学校側と対立することと同じなのね」

「中途半端な体制への反抗は結局人を不幸にするだけさ」

「それが木島君の悩み抜いた末の答えなのね」

「ああ。だから君を見ていて危険だと心底思う。生徒は卒業するまでにどこに出しても順応できるいい意味での部品にしてしまうことが教師の役割だと思うんだ・・・」

「あたしはやっぱり、あの時中途半端に青田君に接したのがいけなかったんだと思う」

「自分の恋人でもないのにかい?ましてや自分の家族でもないのに」

「そうよ。クラスの仲間として」

「人間が取りきれる責任は常に有限だよ。どこかで線を引かない途方も無い責任を他人に感じる必要はないんだと思うし、無限に責任を負えるっていう幻想、もっと言ってしまえば僕らの思い上がりが青田君の誤解を産んだんじゃなかったのかい?」


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 また衝立の向こうに重たい沈黙が訪れた。

 僕は皆川君のことを思い出していた。

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ゆっきー
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