地下鉄のない街 第一部完結

地下鉄のない街36 姉さんと西村

「 先生たちの話を聞いているうちに、春日井先生が僕たちを誘ったわけはだんだんとわかってきたよ。確かに僕にもトニーにも関係のある話だった。
木島先生としてはね、皆川くんの一件にかかわらず、トニーも時々避難所にしていた保健室のという場所をなくしてしまいたいというのが本音みたいだったんだ。

 いや正確には保健室を、怪我の手当や気分の悪くなった生徒を回復させる場所に限定したかったということかな。メンタルな部分はいつも閑古鳥のないている、学校の外部から専門家を呼んで常駐させているカウンセリングルームの仕事にさせたかったみたいなんだ。

 そうそう。一応そういう場所ってあったよね。でもさ、人に言えないメンタルな部分をさ、学校がお墨付きを与えたそういう場所に誘導してガス抜きさせるってなんか変な話だよね。春日井先生の保健室は心が壊れそうな生徒が自分の鼻で探り当てた信用できる場所だった。でもあのカウンセリングルームって、いかにも学校側の機関っていう匂いがプンプンしてて気味悪かったよね。そんな場所は生徒は信用しないよ。

 木島先生はね、皆川君みたいにクラスから浮いちゃった生徒はどんどんカウンセリングルームに放り込んで、クラスに順応できるように再教育したかったみたいだね。そのために学校がかなりの予算を割いてそういう場所を作ったんだからっていう話を木島がしてたよ。やんなっちゃうよね。やっぱり僕らの鼻は正しかったんだ。あのカウンセリングルームは学校の秩序を維持するために僕らを洗脳する場所だったわけさ。」

 姉さんは、そうだねと小さく相槌をうって頷いた。

「例えばトニーがカウンセリングルームに行ったら、クラスにうまく溶け込めない外国人生徒の悩みっていうことで、教科書の棒読みたいなカウンセリングが行われるってわけね」

 僕は先生たちの話を聞いていたトニーの顔を思い出しながら笑った。

「そうさ。トニーも衝立て越しに先生たちの話を聞きながら、そういう学校側にだけ都合のいい目論見はあり得ないって感じで首を横に振ってたよ」

 姉さんも苦笑する。

「そっかあ。それで木島先生は、保健室に用もないのに押しかける皆川君憎しの生徒の動きを利用して、保健室の機能そのものを麻痺させようとしたんだね」

「そうみたいだね。保健室が溢れかえっていろいろと支障が出てるからっていうことで、学校お墨付きのカウンセリングルームっていう生徒の心の収容所を復権させようとしたわけ」

姉さんはやれやれと言った顔をした。

「トニーに関係しそうなのはわかったよ。春日井先生はそういう現状をなんとかしたいと思っていて、でも自分一人の力では状況的にどうすることもできないかなり不利な立場に追い込まれていた。だから保健室の常連さんのトニーに何か協力して欲しかったのかな」

「多分そうだね」

「じゃあ、あんたに関係ある部分ってなんだろう。さっきそう言ったよね。春日井先生が呼んだのは自分にも関係あることだったって」

「うん。話が進む間にね、木島の口からポンポン僕の名前がで始めたんだよ」

僕はあの時の戸惑いとやり場のない怒りを思い出していた。

「なんで健太郎の話が?」

「陸上部のスター神崎さんの腰巾着西村さんだよ。」

「皆川君が凄いタイムで走り終わった後にタオル持って行って、そのタオルを皆川君に叩きつけられちゃった人ね」

 姉さんは何か少し含んだような笑い方をした。

「そうそう。その西村さんが陰で僕を陥れようとあれこれやってる話が出てきたんだ」

「西村君ね…」

「あれ?姉さん何か西村さんのこと知ってる?」

 別にどうでもいいことなんだけど、そんな表情でこくりこくりと姉さんが何度か頷いた。

「実は何度か手紙をもらったことがあったんだ」

「え?手紙ってラブレター?」


 今度は姉さんはふふと鼻で笑った。

「そ。返事も何もしなかったんだけど随分もらった。それっきりだったからさっき皆川くんのところにタオルを持っていった話で西村くんの名前が出た時も聞き流したんだけどね」

「あれれ、それは知らなかった。知らなかったけど・・・」

「そう。なんだかあたしも関係してきたみたいね」

 姉さんが少し真面目な顔に戻った。

「ラブレターに何か書いてあったの?」

「うん。まあね。・・・。でも後でいいよ。その話は。まずは健太郎の話の続きを教えて」



 僕は頷いた。
 
 僕はまた、僕と姉さんがここで再開した本当の理由に近づいてしまったような気がした。

地下鉄のない街37 告白

「西村さんはね、つまりうちの親父と同じだよ。僕が心の底から神崎さんに心服していないっていういいがかりさ」

 僕は西村のあの小狡そうで神経質な目を思い出した。

「それってさっき言ってた隠れキリシタン狩りみたいなの?」

「そう。練習次第で僕が神崎さんよりも速くなりそうだっていうことはきつく口止めされてたから、僕自身も僕の走りを最初に見た部員も口をつぐんでた。だから後から入ってきた後輩なんかはそういうことはまるでしらない」

「うん」

「でもさ、言わないって言ってるのにそれを気にするってあるのかもね。犯罪の現場を目撃された犯罪者が不安でいても立ってもいられなくなって、ついに目撃者も殺しちゃうみたいなさ・・・」

 姉さんは少し腑に落ちないという顔をした。

「それもまあ、分からないでもないけどさ。でもなんで、神崎さん本人じゃないの?」

 僕はふぅと大きくため息を付いた。

「だからそういうことが木島先生の口から春日井先生に語られたりするわけなんだ。木島が作ったシステムだからね」

「どういうこと?」

「木島先生の言うには、神崎さん本人はあれでやむを得ない犠牲者みたいなところもあるらしい。何が何でも神崎というスター性を維持して学校内外にアピールし続ける必要があったみたいだね」

「何のために?」

「将来有望なスプリンターという伝説さ。まず陸上部にとってはそういう伝説にしておけば理事長の覚えめでたく陸上部には例年破格の予算が割り振られるから美味しい思いをする人も多くなる。それに互い的にも陸上競技界で大きな顔ができるとか、対外的には良い生徒を全国から集めやすいとかね」

 姉さんは呆れた顔をした後僕と同じようにため息を付いた。

「でもさ、そんな虚しいことやっても結局記録が全てなんだから簡単にバレると思うけど。学内はあんたや皆川くんを封じたみたいに偽の1位という地位を保つことができても外ではそうはいかないでしょ」

「まあね。でも将来性っていうマジックワードがあってね。例えば野球にしても陸上にしても必ずしも全国大会で名前を残さなくても強豪の伝統校の大学には入れるんだよ。将来性があればね。甲子園に一度も出たことなくても六大学に行ってそこで鍛えられてプロで活躍している選手なんていうのは山ほどいるしさ」

 姉さんは半分納得した顔をしながらもまだ半分は腑に落ちないという風だった。

「で、神崎さんが犠牲者っていうのは?」

「木島先生いわく、神崎さんはほとんど傀儡政権の旗印みたいなもんで、本人も大した才能もない自分がポジション的に都合良く利用されていることをよく自覚していたみたい」

「自覚って、まさかあんたや皆川くんみたいな有望選手のことを取り巻き連中が潰していくことも?」

「そういうこと」

 姉さんは一瞬怒こったような顔をしたけどすぐに吹き出した。

「ばっかじゃないの。何なのそれ?」

「そう。ばかばかしいんだけど、それが木島の創りだした愛の互助システムらしい」

「は?愛の?」

 僕が木島システムのことを昔みんながそう呼んでいたように言うと、姉さんは今度はたまらずゲラゲラと笑い出した。僕も一緒に笑った。笑えなかったあのシステムをこうやって腹の底から笑い飛ばすことがもし中学のことできたとしたら皆の、そして僕や姉さんのその後の人生も変わっていたんだろうな、僕は笑い終わると再びどんよりした重苦しい後悔の念に囚われた。

「西村はその木島システムのために、この際皆川くんと僕をもろとも抹殺してやろうと思ったわけさ。そういう不穏な動きについて春日井先生に問われるままに木島がいろいろしゃべってた。西村たちにとってみたらそういう栄光の、でかい顔できる、ついでに自分たちも陸上の推薦で有名大学にも運んでくれるもろもろのシステムが壊されるのは自分の現実や将来が壊されるのと同じだったってわけ。コバンザメは自分がひっつく親に頑張ってもらわないと自分が死んでしまうからね」

 笑い終わると姉さんは僕の表情を気にしながらの呆れ顔でため息をついた。


「木島システム、愛のだっけ・・・。その馬鹿馬鹿しいシステムが誤作動してあんたが不幸になったり皆川くんが結局自殺することになったっていうわけなの?じゃあ健太郎もかわいそうな被害者なんだね」

 簡単に言うとそういうことなんだ・・・。いや違う・・・。そうであってくれたらよかったんだけどね・・・。

 でも、もうそろそろ言う時が来たみたいだね。

 僕が姉さんとこうしてここでこんな話をしているのは、あれから二十数年間も僕の中でそのことが消えずに僕を苦しめ続けていたからなんだ。そして、そのことはさっきの西村と姉さんとの接点の話を聞いて、どうやら姉さんにも遠く関係しているらしい。

 姉さんがこうしてここにいるのもきっと、このことに関係した理由があるに違いない。もう今が言うべき時なんだ。僕は観念した。




 何十年分の深呼吸をして、僕は二十年来の固く封印した秘密を口にした。


「誤作動してよかったんだよ。もし誤作動していなかったら僕は確実に人殺しになっていたからね」

 姉さんは一瞬無表情になった。そして静かに聞いてきた。

「どういうこと?あんたが誰を殺していたっていうの?西村さんを?」


 僕は自分の気持を落ち着けるように何度も首をゆっくり振った。あれが幻でなかったことを体で実感するようになんどもそうした。




「違うよ。皆川くんをさ。僕は皆川君を殺すつもりだった。僕はシステムの誤作動によって寸前の所で皆川くん殺害の犯人にならずにすんだんだよ。そして自殺に追い込んだ。どっちにしても皆川くんを殺したのは僕なんだ」





 ステレオのボリュームを急速にひねったように、この世界から音が消滅した。

 僕は姉さんに手をひかれて公園のベンチに腰を下ろした。姉さんがおでこを僕の額にくっつけて何かささやくように言ったようだけど、僕は何も聞こえなかった。

 僕はあの頃のように姉さんの胸に抱かれた。体中の力が抜けてすっかり姉さんに体を任せると、姉さんは僕を抱きかかえるように肩を抱いてくれた。






 ジッ・・・

 鋭い音がして蝉が一匹飛び立ったようだった。

 なぜだかその音だけは耳をつんざくようにはっきりと聞こえた。

 姉さんが頬を撫でてくれた。

 僕は自分が姉さんの膝で痴呆のよう涙をたれ流していることに気がついた。

 姉さんの膝で永遠にこのままでいたかった。

 

$小説 『音の風景』

地下鉄のない街38 夢の中のビデオテープ

 夢を見た。




僕が通っていた学校の制服がベッドの脇に脱ぎ捨ててある。同じ学校の女生徒の制服がきちんとたたんでその横に揃っている。

 季節は夏の終わりのようだった。

 画像は鮮明ではないが、閉めきったレースのカーテンを通して夏のギラギラした日が室内に差し込んでいた。

 あれは幻聴だったんだろうか。

 聞こえるはずのない蝉の鳴き声。


□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆

 ジッジッジッ

 どこで鳴いているのかはわからない

 制服を脱いだ男と女は切ない声を上げながら絡み合っている。

 背になっている男。顔は見えない

 でも誰かは分る。あれは僕だからだ。

 そして、もう一人は・・・




 不思議だ

 僕は僕の行為を見ている




 思い出した

 これはあの時のビデオテープだ。

 西村にあれを見せられた時には頭の中が真空になった。

 よく頭の中が真っ白になるって言うけれど、あれは嘘だ

 そういう時は脳みそが呼吸困難で窒息しそうになるから色なんてないんだ。




 蝉の鳴き声

 ジッジッジッ



 なぜ西村があの僕達の秘密を撮影したビデオテープを持っていたかはわからない。

 でも話の行く先は簡単だった。

 脅迫の矛先はむしろ僕じゃなかったから・・・

 ビデオテープに僕の顔は写っていない

 西村が薄笑いを浮かべながら指を差した先には・・・

 姉さん・・・

□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆



「ずっとずっと苦しかったね、健太郎・・・」

 ベッドの上?山の上ホテル?

 どれくらいたっただろう。僕は眠ってしまっていたようだった。姉さんの膝の上でいくら揺さぶっても目を覚まさなかった僕をタクシーに乗せて、姉さんは予定していた山の上ホテルにチェックインしてくれていたようだった。

 ベッドから状態を起こすと、うす暗がりの中ベッドの横に姉さんが座っていた。

「随分うわ言を言ってたわ。覚えているなら続きを話してもいいし、このままこうしていてもいいの」

 姉さんは優しく言った。

 うわ言?

 ビデオテープの脅迫の夢を見た。あらゆる手段を使って皆川くんを追い込むこと。それができないのならビデオテープを学校中にばらまくこと。中学だけではなくすでに姉さんが卒業し、そのまま進学している高校にも・・・。

 僕はそのことをすべてうわ言で喋ったのだろうか・・・?


 僕は頭が混乱して、再び眠りに落ち込みそうになった。正気でいることに耐えられないとき人は死んだように眠るという。じゃあ、きっと今がその時なんだ。


「もう少し寝たほうがいいみたいね」

 姉さんの言葉に多分僕は頷いた。でもその時には僕はベッドに沈み込み、すぐにまた夢の続きが始まった。


□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆

 悪いのはおまえじゃない
 悪いのは、だれでもないんだ
 誰も悪くない
 だから誰も責められない

 ほんの冗談
 冗談を誰も責められない
 おまえもそうだよな
 冗談を否定したら、こんどはお前が標的だ

 自殺はしないよ
 自分のためじゃない
 おれが自殺したら、お前が困るだろ
 悪いのはばらばらにされて組み立てられたすりかえられた関係性の悪意さ

 どうしてこんなことするんだ、なぜこんなことになるんだ
 おまえにこういえたらどんなに楽だろう
 でも、誰に言ったらいいんだろう
 いつもおれをいじめるおまえか?

 ちがうよな。おまえはそんなにひどいやつでもない。
 だれににやらされているわけでもない
 やらせているのは、もっと違う不気味な何かだよな
 相手のいないところへ向かって自己主張はできない

 敵はどこにもいないんだ
 ただ、悪意だけが亡霊のようにあたりを支配している
 何かをすることは不毛なんだ
 悪意は、目で見えないし、胸ぐらもつかめない

 しゃべっていないと、何考えてるのといわれる
 何も考えていないとは、だれもいえない
 たとえ、何も考えていなくても
 何かしゃべらないといけないように

 だれか嫌いな人間いないのか、おまえは
 だれもいないとは誰もいえない
 たとえ、そいつのことを嫌いじゃなくても
 だれかを標的にしないと生きていけないからね


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「健太郎…お城を抜けだしたお姫様はね、どうやらもう一つ夢から醒めないといけないみたい。夢から醒めた夢。蝉は鳴いていたんだよ、幻聴じゃなくて。あたしには健太郎のうわ言で全部てわかっちゃったんだ。あなたがずっと気がついていなかったことも・・・。あたしがこの世界に来たわけも・・・」


 夢に落ちていく中で、姉さんの声が嗚咽と一緒に聞こえたような気がした。

地下鉄のない街 39恋人たちの過去

夢を見た。


「木島くん、教育委員会に本当に行ってきたの?」

「ああ。このまま泣き寝入りじゃ、きっと僕は一生ダメになる。僕にはそれがわかるんだ。僕はきっと人に対しても世の中に対しても何の怒りもぶつけることができない腑抜けになる。そんな自分にはなりたくないんだ」

「わかるけど…」

「それでどうだったの?」

「腐ってるね、ゴミダメを抜け出して出口にたどり着いたらまたゴミダメさ」

「うまくいかなかったのね」

「ああ。逆に説教されたよ。『学校は教師や学校制度と戦う場所なんかじゃない。共に理想を追求し、一生の財産となる師弟関係を育む場所です。仮に君のいうように一部の生徒に体罰があったとしても、それは話し合いの中でお互いの行き違いや誤解を解いていくのが正しいのです。どこで仕入れた知恵か知りませんが、自分でそういう努力もしないで裁判所に駆け込むように教育委員会を訪問するというのは論外です』だってさ」

「そう。青田君を守りたかっただけなのにね」

「学校内のドメスティックバイオレンスだよ。教師がグルになったらもう生徒は逃げ場がないよ。確かに青田は最後の最後まであいつらの言いなりにはならなかった。だからって学校の秩序を乱す元凶が青田だっていうあの流れはどうみてもおかしい。教師のいうことを聞かないということで、自分たちのメンツが潰されるという恐怖感で教師集団で青田を陥れている。そんな管理教育があっていいはずがない」

「うん。その通りだね…」

「あれ、春日井さん…どうしたの」





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…高校生の頃の木島と春日井先生か…。

僕とトニーが衝立のかげから聞いていた二人の思い出話のあれだな…。あの時の夢をみてるのか…。

二人にとってはいろんな意味で忘れられない思い出らしい。僕もトニーも断片的な話から二人の高校時代の一日をありありと、まるで舞台をみているように想像できたな。

二人が恋人同士だったとは驚いたよな、あの時は…。

それに教師の木島と正反対の高校生の木島…。それもびっくりだった。

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「あのね…木島君が教育委員会に行っている間に、おたくの生徒が来ましたってことで教育委員会から学校に電話があったみたいなの。それで青田君が木島君に教育委員会に洗いざらい暴露してくれって頼んだんだろうっていう話になって、青田君が朝からずっと職員室に軟禁状態にっなっちゃったんだ。どんな状態になったかは怖いけど想像できちゃうよね。青田君は隙をみて職員室から逃げ出して、そのまま屋上に階段を駆け上って飛び降りようとしたわ」

「何だって?!」

「取り押さえられて無事だったからそれは安心して」

「分かった。無事だったんだね。よかった。…だからこうして学校の外で待っていてくれたのか」

「うん。今学校に戻ったら大変なことになるから…」

「ごめん、ありがとう」

「いいの。それとあたしも騒ぎの後職員室に呼ばれてね。あたしもそのまま軟禁状態になりそうだったから隙をみて逃げ出してきたの」

「え?どうして?」

「遺書が見つかったの」

「え?青田の?」

「うん。突発的な行動だったみたいなんだけど、いつでも死ねるようにって遺書を持ち歩いてたらしいんだ」

「そうか…、そこまで思いつめてたのか。でも何で春日井さんが呼ばれたんだろ」

「遺書にね…。死ぬのはあたしに冷たくされたからだって書いてあったみたい」

「……どういうことなの?」
ゆっきー
地下鉄のない街 第一部完結
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