地下鉄のない街 第一部完結

地下鉄のない街32 陸上部顧問木島

 「春日井先生が標的ってどういうことなんだろ・・・」

 姉さんは沈痛な顔をしてつぶやいた。

 それを説明するにはあの騒動から話さないといけない。

「姉さんさ、一度うちの学校の保健室って一時封鎖になったこと覚えてる?」

 姉さんは僕の顔を見て無言でしばらく考えていた。

「あ、あったね。でも封鎖なのかあれ。毎日春日井先生の保健室に行く生徒が激増して保健室からほとんど下駄箱のあたりまで生徒が行列してて異様な雰囲気の時期あったよね?入れないって封鎖じゃなくて、行列整理みたいなのかと思ってたけど」

 覚えていたか・・・。

「あれね・・・。普段から皆川くんみたいな生徒が保健室に避難していくのにイラついていた生徒たちが、阿吽の呼吸で一斉にやった嫌がらせだよ」

 そう。翌日には皆川君がトラックでタオルを叩きつけたことは学校じゅうに知れ渡っていた。そして誰もがそのことを見過ごしはしなかった。放っておけばその皆川君の撒いた事件の病原菌は、瞬く間にペストのように学校中の空気に拡散するだろうということは明白だったからだ。

 ただでさえ薄い呼吸困難な空気。微妙な空気の具合でかろうじて成立しているカースト大気圏は皆川君の放つ細菌で壊滅するだろうと誰もが恐怖した。

 今度の秩序防衛の義務を果たすのは、学校の見えない空気の流れを司る第一階級と第二階級だ。

 分かるかい?姉さん。

 姉さんは再び黙って考え込んだ。今度はさっぱりわからないといった様子で首を横に振った。

「前にも言ったよね。皆川くんに嫌がらせをした生徒が、皆川くんが全然堪えていないように見えれば見えるほど、なんだか自分のことを馬鹿にされているみたいに苛立ってくるって」

「うん。なんだろうね、分かる気がするよ。自分の能力を、変な話だよね、でもその人を傷つける能力を否定されてると思っちゃうんだよね。無視された自分もみんなの手前恥ずかしいから、ここは泣きわめく場面だろ!って発狂しそうに怒るとかあるかも…ね」

 僕は頷いた。

「教師でもいるでしょ。お前は反省してるのか、って自分から答え求めてるのに、『反省してます』とかいうと、『心から反省しているとは思えない!』とか言ってかえって激昂するのが」

 今度は姉さんが嫌悪感をあらわにして頷く番だった。

「ああ。あるよそういうの~。教師だけじゃなくて・・・」

 姉さんは口に出してからしまったという表情をした。

「うん。姉さんに対してはただの一度もないけど、うちの父親が僕に接するときの典型的態度だね」

 姉さんは僕と父親の不仲の現場を思い出したのか、かすかにうん、と曖昧に口を動かした。

「ああいう時ってさ、もう、自分に屈していない部分があるんじゃないかって無意識に探しちゃって、それが少しでもあると感じると、怒こっている自分の全能感のプライドが傷つけられたみたいになるんだよね。親父を見ていてよくわかるけど」

「うん。謝っているのにそれ以上どうしろっていうんだよね・・・」

 姉さんはため息をついた。

「その時にさ、怒りの矛先は相手の人間の心の中の神様に向けられるわけさ。その余裕ぶったお前の拠り所の神もろとも抹殺してやるってね」

「神様・・・か」

 そう。だからごめんね。姉さん。父さんは表には出さなかったけど僕のせいで姉さんにも理由のない苛立ちを覚えていたはずなんだ。僕の神様は姉さんだったから。

「長崎で隠れキリシタンを拷問した時と同じなんだ。親父見ててね、僕は拷問した役人の気持ちはよく分かるんだよね。為政者の外交方針なんてまったく関係ないんだよ、末端の役人は。自分がやっている拷問に屈しないばかりか、拷問している相手はなんか妙な幸せそうな恍惚とした表情を浮かべてる、さらに笑みさえ浮かべて拷問している自分に向かって憐れみの表情を向けたりする」

「うん。殺すまでやってやろうという気に・・・。なるかもね」

「親父がまさにそうだ」

「お父さんの話は今いいよ」

「ごめん」

「・・・」


 蝉がざわめく・・・。

 僕は姉さんが僕と父親のことを心配していたことを思い出した。昔から・・・。そして、今この不思議な時空間に姉さんが僕を引き入れたのも父親とのことについてなにか伝えたい事があったことを思い出した。

 そして僕は蝉の鳴き声と共に、先々週菊池会計事務所に行く途中に出会った若いころの自分の父親のことを思い出した。



「それで、なんで行列になっちゃったの?」

「保健室に行くだろ。春日井先生は仮病だから教室に戻りなさいと言うわけだ」

「うん」

「皆川くんだけひいきしていると騒ぐわけ」

「バカみたい」

「うん。でも。行列作って皆が毎日それを飽きずにやる」

「春日井先生はどうしたの?」

「あんまりゴネる生徒には、担任に早退許可のメモを書いて渡したりした」

「それで?」

「早退許可のメモを受け取った担任は、春日井先生が仮病の人間に早退許可を与えて学級運営を妨害すると、各クラスの担任と横に連携をとって騒ぎ始める」

「横に連携?教師たちがグルってこと?」

「ああ。教師の意見をまとめて教頭に報告。教頭は保健室の存在のせいで学校教育が阻害されているとPTAの懇談会で現状を報告する」



「誰か糸を引いている人間がいるでしょ、それは」

 陰鬱な空気の中姉さんが核心部分を聞いてきた。

「うん」

「誰?」

「陸上部顧問の木島」



「そういうことなのか・・・」

地下鉄のない街33 マネキン人形の目が見たもの

「トニーがね・・・」

 姉さんはトニーの名前に少し首をかしげた。

 脈絡が飛んでしまうのは僕がとても話しづらいことを話してている証拠だ。そのことを姉さんはよくわかってくれている。トニーがどうしたんだろう、姉さんは今までの断片的な僕の話を頭の中でつなぎ合わせようとしているようだった。

「トニーがどうしたの?」

「木島が裏で糸を引いているのを知ったきっかけはトニーなんだよ」

「トニーがなんで?」

 僕はあの日の不思議な光景を今でもありありと思い浮かべることができる。

 いつものように下校時はトニーとふたりきりだった。その日トニーは買いたいCDがあるということで、学校から電車でターミナル駅まで出た場所にある大きなレコード屋に僕を誘った。

 ビルの上から下まで各ジャンルのCDを取り揃えている大型レコード店で、僕達はその日、飽きることなくかなり遅くまでCDを視聴したりしていた。帰りの電車に乗るために駅に向かったのはもう8時を過ぎた頃だった。

 トニーは買いたいCDが全てあってご満悦だった。そこそこ洋楽も知っていた僕だけど、僕が知らないハードロックバンドのCDを見つけて「日本も捨てたもんじゃないな」と妙な褒め方をしていた。トニーに言わせると、あの大きなビルのレコード屋だけがアメリカのヒットチャートの影に埋もれている本当のいわゆるマニア受けするCDを置いているらしい。

 僕は駅に向かう途中歩きながら、「ちょっとライナーノーツだけでも見せろよ」と僕はトニーに言って、買ってきたばかりのCDが入っている袋を開けさせようとした。

 ところがトニーが視線を前に向けたまま何も反応しないので、おかしいと思った僕はトニーの顔を覗き込んた。
 紺の詰襟のブレザー。もちろん僕も同じ物を着ていた。でも、夜のターミナル駅へ向かう路上で改めてトニーを見てみると、それはとても不思議な感じがした。

 小さい頃、商店街のショーウインドウに青い目をしたマネキンが、路からそれを眺める僕の視線にはまったく無頓着に、僕の背をはるかに通り越して遠くを見ていたのを思い出した。マネキン人形はどんな人形でも僕には悲しそうにしているように見える。他の人がそう見えるのかどうか分らない。でも僕にはマネキン人形というのが、なにか別の世界から間違ってこの世に来てしまった孤児のようにしか思えなかった。
 僕の背を、僕の視線の存在を全く無視して遠くをいつでも眺めているマネキンのその目の先は、多分どこにもない自分の故郷を見ていたのだと僕は思う。生まれたところ育った家も知らない。両親の顔も。しかし自分は日本という国の名もない商店街の何とか銀座という色あせた看板の近くの、一日に何人かしか客も来ないような洋装店のショーウインドウに立っている。

 そして、何より僕が異様に感じたのは、そのマネキン人形は時々日本人しか着ない服を着せられている時のことだった。

 七五三の時には七五三の和服やタキシードを。テレビで何か突発的なファッションが流行ればその格好を。夏には海水浴場に行くようなラフな格好にうきわを持たされていた。そして春が始まる季節には毎年学生服を着ていた。 

 僕はトニーの姿を毎日見ていたはずだけど、その時のような感じをトニーに重ねあわせたのはそれが初めてだった。

 僕はその時何の脈絡もなく、トニーのこの日本での孤独というものを感じたのだった。そしてトニーが転校してきたその日トニーが一瞬で僕の何かを見抜き、自分と同類の何かを僕に感じたことを思い出した。

 もしかしたらトニーもまたあの時、今僕が感じたような僕の中の孤独を感じ取ったのかもしれないとあの時思ったものだった。

 トニーと目が合った。

 トニーが笑った。

 トニーはあの日教室で自己紹介をした後、僕を見つけて小さくだれにもわからないように微笑んだあの表情をしていた。

 もしかしたら僕は孤独な人間だったのかもしれないな、と今更そんなどうでもいいことを思った。わかっていたけれど。それは僕が異様と感じたあのマネキン人形と同じくらい孤独だったのかもしれない。ただ、それを認めたくなかったのかもしれなかった。余りにも突き抜けた孤独は突き抜けた哀しさしかそこにない。ただ孤独がそこにあるという事実だけで何の意味も語りもしない孤独からは、多分人間は無意識のうちに目をそらすんだと僕は思う。

 僕はターミナル駅付近で突然そんな気持ちにとらわれていた。

 永遠に交わることのなかったあの幼い頃に見た青い目の人形。

 多分その時僕とトニーは、交わることが極めて稀な眼差しをこの雑踏の中で交換してしまい、そのどうしようもない孤独をお互い確認してしまったのかもしれなかった。



 その時トニーが僕の目を駅の方に誘導した。

 僕は視線の先を追った。


 驚いた。

 視線の先にはもう一人マネキンのような目をして、僕達の方を向いている綺麗な女性がいたから。

 隣にいたトニーと違い、雑踏の先にいたその人に気がつくことはもっとはるかに稀のはずだった。

 でもあの人は確かにそこにいた。

 そしてこちらを向いて微笑んでいる。見つけたのか見つけられたのか分からなかった・・・。



 僕とトニーはなんとなく曖昧な会釈をした。

 同類を見抜き合ったあの日の教室のように。



 学校で見る時とは全く違った春日井先生が、僕たちに静かに優しい会釈を返してくれた。

地下鉄のない街34 木島との待ち合わせ

「実はトニーもね、保健室の住人だったんだ。なんとなくクラスに馴染めない雰囲気は帰国するまで続いたし、彼が外国人だったせいもあって、時々トニーが保健室で過ごしていたのは教師もクラスの皆も暗黙の了解みたいなところがあったんだ」

 僕はつぶやいた。

「それで春日井先生を雑踏の中ですぐに見つけたのか」

 姉さんは頷いた。

「そうだね。それとその後すぐわかったんだけど、トニーと先生はあの駅で前にも出くわしたことがあるらしいんだ」

「へえ、それはどうして?」

「うん、トニーの音楽の趣味と春日井先生のそれが同じでさ、春日井先生も僕らが行ったレコード屋に日本では手に入りにくいアメリカのマイナーバンドのCDをよく買いに行ってたらしい」

 姉さんは納得顔になった。

「じゃあ、保健室でサボって買ってきたCDでも聴いてたのかな」

「うん。あるいはそうかもしれない」

 僕はトニーと先生の間に、保健室の養護の先生と生徒という関係に加えてある種のかすかな交流関係のようなニュアンスを感じていたのだけど、それはあの時にはっきりしたのだった。

 春日井先生はトニーの右手にあのレコード屋の紙包みを見ると、ああ、と笑いかけた。トニーも紙包みを自分の肩まで上げてにっこり頷いていた。そのまま駅の方向に僕らは歩いて行き、先生が立っていた駅前のロータリーの所で立ち話をした。トニーも春日井先生も僕の知らない音楽の話を楽しそうにした。バンドン名前は幾つか出てきたけど、僕には聴いたこともない名前だった。

 春日井先生との結びつきをなんとなく羨ましく思った時だった。春日井先生が僕に話しかけてきたのだ。

 春日井先生は僕に陸上部での皆川くんのことを聞いてきた。話の主要な部分は終始顧問の木島先生についてだった。

「しばらく木島のことを聞いた後ね、『これから実は木島先生に会うの』って皆川先生は僕らに言ったんだ」

 僕は姉さんにそう言った。

「それで学校からあえて離れた駅で待ち合わせか・・・」

「うん、それでね。実はあなた達にも関係のある話だから、一緒に話を聞いてみてはどうかって言われたんだ」

 姉さんは話の展開に少し驚いたようだった。

「なんで同席させたかったんだろう。それに、偶然道であんんたたちに出くわしたのに、木島先生との待ち合わせに学校の生徒をいきなりつれていくってなんか強引だなあ」

 当然だった。

「そうさ。だから・・・というか、もっと強引なのかもしれないんだけど・・・」

「どうしたの?」

「春日井先生は僕らに、自分たちが話しているすぐ後ろの席あたりで気付かれないように話の内容を聞いていればいいって言ったんだよ」

「!?。なんだかおかしな話になっていったんだね」

「そうさ」

 僕はあの時の春日井先生の、不思議と淡々とした表情を思い出しながら頷いた。

地下鉄のない街35 同級生

 学校以外で見る先生というのはとても不思議な感じがしたよ。

 ううん、そうじゃない。春日井先生が普段と違っていたのはもちろんさ。養護の先生だから普段は白衣を着てるよね。あの白衣って独特の感じがしたんだよ。あの頃の僕ら男子生徒にとって。ああ、姉さんたちもかい。そうかもね。なんていうのかな、僕たちの話に出てきた言葉で言うと、聖職者ザビエルみたいなね、あの皆川先生の白衣が、教科書のザビエルみたいに現実世界との間に何かはっきりした境界線を作っているようにも思えたんだ、少なくとも僕にはね。

 姉さんはわかるよ、といった顔で頷いてくれた。

 でもね、僕とトニーが春日井先生のシナリオ通り先に待ち合わせの店、うん、和食の座敷のある店だったんだけど、完全な個室じゃなくってお客さんが立ち上がっても顔をつき合わすことがないような背の高い屏風のようなついたてで仕切られてたんだ。そうそう。だからこっちが静かにしていれば隣の座敷でしゃべっている人たちの声ははっきり聞こえるんだよ。そこに約束の時間より少しだけ遅れてきた木島先生を僕とトニーも一瞬だけ、先生が予約していた座敷の場所を確認するために入り口のレジのところで確認した時にね、ちらっと見たんだ。

 木島先生の姿もやっぱり学校とは違ってたよ。だから白衣のせいだけじゃないんだなって僕は思ったんだ。僕はね、変な想像をしたんだ。学校ってさ、なんだか巨大な演劇の舞台なんじゃないかって。学校での役割を離れたところでは、ふたりとも少し別の人間にも見えたんだ。

 例えばさ、姉さん。姉さんと僕がどこか遠いところに旅行して、その旅先で絶対に会わないはずの人にあった時に僕達はどうするかな。例えばその旅先で普段近所ですれ違うと挨拶している人にあったとしたら。そうさ。僕らは多分声はかけないと思う。なんていうか、普通のプライバシーの侵害よりももっと罪深いことのような気がする。本人さえ滅多に覗き込むことのない秘密の世界に土足で足を踏み入れるみたいな感じがしないかい?例えばそれはその人の生まれ故郷だったのかもしれない。そこには普段挨拶だけしているおばちゃんの青春の思い出やらなくなった両親の思い出やら、忘れてしまいたいこと、忘れられないことなんかがたくさんあるはずなんだ。だから僕らは声をかけることがばからられてしまうんだと思う。

 学校というのももしかしたらそんなところなんじゃないんだろうか、そんなことをぼんやりと思ったんだ。蛍の光、我が師の恩、友との別れ、永遠の友情、純真な恋。そんな思い出の場所。でも不思議だね。そんな思い出は実際にはどこにもないんだよ。みんなそんなものが嘘っぱちだって知っている。でも、かつて一度もそういうものがあった試しがなかったのに、僕らはそういう学校生活を過ごしたんだって、卒業から遠ざかれば遠ざかるほどそんな気がしてくる。一種の信仰かもしれないね。自分の青春時代は美しかったっていう。

 みんな不可侵の思い出を持っている。そしてありもしないそういう場所を大事に守って育てていく。そんな奇妙な舞台が学校っていうところなんじゃないかなって、春日井先生と木島先生を和食店という場所に置いて観た時、僕はそんな気がした。

 ふたりとも自分の過去の何かを投影しながら、学校に戻ってきたんだよ。まだ舞台は終わっていなかったんだよ、きっと彼らにとっては。


 卒業してから教師という職業を選択してその思い出を現実の歴史に接穂しようとしている人達がいる。もともと造花だったにもかかわらず、そこに自分たちの生身の手で枝を継いでみれば、その枝がやがて贋物だった台木の造花すらも自分たちのもってきた穂木で美しくうやむやにできるとでも信じているみたいにね。そして、それは先生たちの世代のまたその前の先生たちも同じようにしてきたことなんじゃないかなって。だから学校というのは、いつかそれが舞台でなくなることを信じている特殊な演劇青年たちが、舞台の作り方を伝承している特殊な空間なんじゃないんだろうか。

 そして、毎日僕らを付きあわせては、こう言うんだ。「俺達が学生の頃はそうじゃなかった」とか、「俺達もお前たちが今感動したのと同じように感動したんだ」とかね。些細なことを捕まえては、自分の思い出と照合して何かを確認しようとしてるんだ。だって彼らはそのために学校に戻ってきたんだからね、多分・・・。そして僕らがシナリオ通りに動かないと自分の思い出すらも穢されたように感じるのかもしれない。

 そのたびに僕らはその舞台に付き合わされていることを思い出す。そして、卒業という大きな幕が降りるまではその舞台から決して逃れられない。そのことをときどき絶望的に確認するんだね。


 そう考えてみれば、春日井先生が僕らを自分たちの会合の場所に呼んだのもそんなに特殊なことじゃないのかな、なんて思ったりもしたよ。

 そうさ、課外授業だね、いわば。

 学校での演劇を外の舞台で演じてみせるというだけだったのかもしれない。いや、そうじゃなくてもっと絶望的に・・・僕らにはもしかしたら学校の外にも自由はなかったのかもしれない。

 その証拠にね・・・。





 僕はあの時の驚きを思い出していたので、目の前の姉さんに相槌を求めることもなくここまで一気に話をした。




「その証拠にねあの二人は同じ中学の卒業生だったんだよ。」

「え?」

 姉さんはさすがに驚いた顔をした。





『久しぶりね』

『そうだね、春日井さんとはうちの学校でも二人で喋ったことはなかったね。』

『そう。こうやって二人でしゃべるのは中学以来よ』


 僕の耳に二人の親密そうな声が蘇った。
ゆっきー
地下鉄のない街 第一部完結
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