大人のピアノ

大人のピアノ その百じゅうなな

 武蔵小杉署署長佐々木警視正は黒塗りの公用車を飛ばして武蔵小杉署にとって帰り、寺村巡査長および脇田巡査を呼んだ。

 田原慎之助の『徹夜で生テレビ』で警察が実際に裏取引をしていた動かぬ証拠を生放送されてしまったわけだが、これを寺村巡査長の囮捜査の大手柄として記者会見を開いて発表し直す。

 これが悪のキャリア四人組が一瞬にして共有したさらなる陰謀であった。

 寺村は自分がマスコミの方列の前に晒されることに恐怖し、脇田は表立ってしまうことで自分が南方組の犬(スパイ)であることが露見するのを恐れた。

 絶体絶命のピンチから一発逆転のシナリオを思いついた佐々木警視正は、二人のそうした感情には気がついていないようだったが、役者二人の腰が引けていることの危険性には思い至らぬ様子であった。

 慌ただしく記者会見のセッティングが遂行され、マスコミへの緊急記者会見開催の情報が駆け巡った。




 一方関東管区警察局長榊原の動きも早かった。

 神奈川県警刑事部長本田、千葉県警刑事部長吉沢に対し、マスコミへを巻き込んで再度都合の良いシナリオを世間に流布させる工作の援護射撃を命じたのだった。

 援護射撃の内容は他でもない。夜が明けてからの藤井組への強行突入を前倒しして藤井組長のホットラインでの生番組出演を阻止することであった。

 本田と吉沢は神奈川県警のヘリコプターにて県警本部ビルの屋上から千葉県警へと飛んだ。






「ここで新しいニュースが入ってきました」

『徹夜で生テレビ』会場で田原がスタッフからのメモを読み上げた。

「警察はこの後午前3:00より、神奈川県武蔵小杉署捜査本部にて緊急記者会見を行い、某テレビ局で報道された大掛かりな警察陰謀説について公式発表をする、とのことです」

 会場は再びどよめいた。

 速報性を旨とするテレビ番組ではあるが、放送の速報性ではなくテレビ番組そのものが事態を大きく動かしていることを会場の人々も番組の視聴者も実感していた。

「あと三十分ほどで記者会見が始まりますが、一連の事件の推移、いかがでしょうか…」

 田原がパネリストに話を振ると論士たちは百花繚乱で自説をまくし立て始めた。

 田原はあえて最小限の仕切りでその興奮の状態を電波にのせ続けた。






 神奈川県警察19階大会議室の薄暗い中に一人残ってテレビを見ていた関東管区警察局長榊原は満足げな笑みを浮かべた。

 そして、おもむろに会議室のコーナーの内線電話の受話器を上げてオペレーターに指示し、警察庁公安部長を呼び出した。

「私だ。テレビを観ていたかね。うむ…あの中の司会者に電話をかけてきた謎の情報提供者、見つけしだい直ちにその場で拘束しろ。公安警察の名にかけて国家秩序紊乱の元凶を探し出せ」






続く

大人のピアノ その百じゅうはち

 寺村渚巡査長は午前3:00を目の前にして緊張で目がくらみそうだった。

 記者会見用に使う捜査本部の雛壇はさっきまで自分が永遠に手の届かない雲の上の存在のお歴々が座っていた場所だ。寺村が所轄の交番勤務を経て憧れの刑事になってから何度も見てきた憧れの聖域、サンクチュアリ。自分がそこ座るというだけで寺村は顔が上気してくるのを抑えることができなかった。

 部屋の空気もまた熱気に包まれ、他社を少しでも出し抜こうという総勢60-70名のハイエナのような目をした記者たちの視線が飛び交っている。

 自分の人生にこういう瞬間がやってくるとは思ってもみなかった。

 望んで諦めるという類のものではない。望んではいけないもの、望まないからこそ裏方で警察の暗部の裏街道を歩けた気がする。その自分が警察組織を守るための虚偽の発言を求められてのこととはいえ、こうして日の当たる場所でスポットライトを浴びようとしている。

 半信半疑の記者たちは、自分が「私こそは市民のために危険を冒して身を呈した潜入捜査官です」という発言を信じてくれるだろうか。






 今までの四十数年の人生の中で自分が人に好印象を与えたという記憶はどこを探してもなかった。

 物心着いた頃から「なんだその犯行的な目は」と父親に怒鳴られた。何も不満があったわけではない。それどころか仕事から疲れて帰ってきた父親に、「僕たちのためにご苦労様です」という思いを持って玄関に出迎えた時にもそんなことを言われることもあった。

 生まれつき少し斜視気味の右目が悪いんだろうか。一人っきりの時寺村はそっと母親の鏡台のカバーを跳ねあげて自分自身の顔を見つめるのが常だった。

 神経質そうで何か腹に一物こっそり含んでいそうな、可愛げのない男の子の顔がそこにあった。

 そんなことはないんだ。何もおかしなことは考えてない。僕は…

 何百回目か忘れた。

 鏡の前で笑ってみる。

 笑うとかえって可愛げのない顔は一層可愛げがなくなった。

 父親が「なんだその目は」と言いたくなるのも無理はないなと思った。

 涙がこぼれてきた。




 愛されたい!

 お父さんとお母さんから、近所の大人たちから、子供達から愛されたい!

 僕は…

 こんなにいい子です!

 もう一度鏡に向かって笑ってみた。

 だめだった。



 ある日いつものように鏡を向いていると、鏡に引きつった顔の母親の顔が突然浮かんだ。

「気色悪い!お母さんの化粧台であんたいったい何やってるの!」

 振り返った瞬間母親の怒鳴り声がした。

 僕がちょうど必死に笑い方の練習をしている時だった。

 母親は僕を変態少年を見るような蔑み目で見下ろした。

 あの時の頬が焼け付くような思いは、多分部屋でマスターベーションを見つかった男の子が恥じ入る気持ちの数千倍の衝撃だったように思う。





 僕は人生の全てをかけて母親に笑ってみた。

 違うんだ、母さん。僕はただ母さんに愛されたかったんだ。右の目が目立たないような笑い方の練習をしていただけなんだよ。そんな僕の気持ちをわかって。

「何よ、その不気味な目つき。ヘンタイ」

 母は憎しみさえこもった目で僕を見た。

 僕は今後一生決して笑うまいと誓った。




 高校を卒業して警察官になった。

 刑事になりたかったが、そのチャンスはなかなかやってこなかった。

 決して笑わない、少しでも笑おうとすると強烈に不気味な印象を与える俺の目は、最初に配属された横浜市の中華街の中にある交番の中で少しずつ光を取り戻した。

 街を仕切っている中国系の不良のガキどもや、それに金魚の糞よろしくくっついている日本人のはなたれ小僧どもは俺の鬱屈した内面を瞬時に見抜いた。見抜いてその秘められた危険性に畏れ、そして共感した。

 犯罪予備軍のガキが俺の最初の理解者だった。

 俺はガキを手なずけ、適当に餌を与えながらうまく付き合った。暴力団まがいの縄張り争いから暴動が起きても俺が仕切るとすぐに街の秩序は回復した。

 ガキどもから薬を取り上げ、あるときは薬を与えてやった。ヤクザとの揉め事の仲裁役も丁寧にこなした。そして一年に一回ほどガキどもの感謝の印として、敵対するチームが絡む覚せい剤の密売の現場の情報を流してもらった。

 俺の働きはやがて神奈川県警本部に伝わった。




「佐々木といいます」

 始めて間近で接する警視正という雲上人はまだ二十代後半の東大出のキャリアだった。

 いけすかない野郎だった。

「私が来月赴任する武蔵小杉署で刑事として活躍してもらえませんか」

 いけすかない警視正様は俺にそう声をかけた。

 俺は黙って微笑んだ。なぜ笑ったのかは分からない。自分の人生に訪れたチャンスに素直に喜んだというわけではなかったように思う。お前は俺の正体を知ってるのか?俺がどんなやり方で交番で実績を上げてきたのか、俺という人間が母親に鏡台の前で死刑宣告されてからどんな風に自分の心の中に闇を育ててきたのか知っているのか。

 分かるわけないよな、警視正様は…

 そんな悪魔の笑顔だったはずだ。



「そうですか。喜んでくれてるますか。ありがとう」

「!?」

 俺は一体どんな笑顔をしたと言うんだ…。

 おそらく母親に蔑まれたあの時の何倍もの醜い笑顔だったはずだ。

 警視正様は握手を求めてきた。

 演技ではなさそうだった。

 そういうことに無頓着な人間なんだろうか。

 世界の闇を知らない警視正様の笑顔を俺は信じたい、と思った。



 佐々木警視正が俺に白羽の矢を立てた理由は程なくわかった。

 しかしそれはどうでもいいことだった。

 警視正様の犬となって俺の人生には笑顔が戻った。

 笑うことはいいことだ。

 それがたとえ悪人同士の不敵な笑であったとしても、俺は自分を笑って受け入れてくれる人間の中でやっと人間になれたのだった。




 俺はその場所を守りたい。

 俺の望みはそれだけだ。

 しかきっとこの晴れ舞台は、俺の人生の終末への引き金になるに違いない。

 なぜだか分からないが、それは確かなことのように思われた。





 午前3:00がきた。

 寺村は捜査本部のドアを開けてひな壇に向かった。

 戻れない舞台の緞帳が今上がった。







続く

大人のピアノ その百じゅうきゅう

 同じ頃、田原慎之助は朝霧テレビ最上階の編成担当取締役の役員室に呼ばれていた。

「忙しいところわざわざすみませんね」

 役員室に入ると戸田編成担当取締役は座っていた椅子を立ち上がって田原を出迎えた。

 朝霧放送の出演がほとんどの田原だが、身分はあくまでフリーのジャーナリストである。いわば局にとってはプロ野球で言うところのある程度勝星の読める外国人助っ人、視聴率がある程度読める重宝なゲストである。部下を呼びつけて何かを申し伝えるというスタンスではない。

 しかし役員室に田原慎之助を呼んだ戸田の本音は、その弱り切った顔と、応接ソファに先客として座っている平取の役員袴田の姿に現れていた。

 戸田と袴田が並んで座るソファの前に田原も不承不承腰を下ろした。





「まあ、そんな不機嫌な顔をしないでくださいよ」

 警察庁からの天下り役員の袴田がタバコに火をつけながら田原に言った。

「警察から何かありましたか」

 先手を打って田原が袴田の目をまっすぐ見て言った。

 袴田は元警察官僚らしい鋭くほの暗さを秘めた瞳の中に田原の視線を吸収した。

「正式要請じゃありませんがね」

「正式要請ではないけれど、あのホットラインの主を明かせと」

 袴田は肩をわざとらしく揺すって笑い声を出した。

「そんなこと言ったってあなたは取材源の秘匿を理由に拒否なさるでしょう」

「最高裁判例に従って法治国家日本でのすべての取材源には秘匿の権利があると解釈しています」

「まあ、そんなことはいいです。その取材源には警備局公安が動きましたので特定できるのは時間の問題です」

 公安…。動きが早い。田原は何も知らない篠崎の笑顔が浮かんだ。

「番組を中止しろなんてこともいいません。あなたは『徹夜で生テレビ』の編集権も契約書できっちり保証されたフリーのジャーナリストです。私にも戸田さんにも今すぐに解雇ということはできません」

 解雇という言葉に戸田がギョッとして袴田を一瞥したが、そんなことに一切無頓着な袴田は平然とタバコをくゆらせている。

 戸田は「すみませんね」という目で田原をそっと見た。



「このまま藤井組組長を電話で生出演させながら番組を続けるつもりですか」

 戸田が袴田に代わって田原に訊ねた。

「すでに番組中にそのように視聴者に予告してありますので今更変更はできません。どうしても変更するならば、変更に至った理由を生放送でそのまましゃべります」




 二人の役員は静かに笑った。

 袴田取締役は不気味に陰にこもり、それと対照的に戸田編成担当取締役は諦めたような苦笑をもって。



「警察に勝てると思ってるのですか」

 袴田が不敵な笑みを浮かべて田原に言った。

 田原は平取の袴田よりも本来上席の常務取締役である戸田に視線をやった。しかし、こと今回のこの件に関しては力関係は逆転しているようだった。警察組織を敵に回すという判断は局全体としては避けたいところなのは田原にもよくわかっている。袴田の思惑に積極的に加担せず、のらりくらりと適当に相槌を打っているのがせめてもの抵抗なのだろう。


「勝ち負けじゃないですよ」

「ほう。ではジャーナリスト魂とかいうものですか」

 問いただすまでもなく、その言葉に幾分かの揶揄のニュアンスが籠っていることは先刻承知だったので、田原は笑って受け流した。





「あえて言えば"B面の真実"ですかね」

「何ですかそれは」袴田は少し興味を持ったようだった。

「例えば討論の中で、賛成反対の正しさとか正義みたいなのを超えて、ふっと一瞬、誰一人として見えていなかった世界が浮かび上がる瞬間です。みんながA面しか知らなかったのが急に同じレコードの反対側の世界が見えてくる」

「ほう」

「今日本人なら誰でも知ってる曲も世に出た時にはA面の付録としておまけでついていたような曲です」

「ふむ。例えば?」

「『リンゴの歌』『スーダラ節』『ドレミの歌』『伊勢佐木町ブルース』『翼をください』『学生街の喫茶店』『港のヨーコ、ヨコハマ・ヨコスカ』『ビューティフルサンデー』『浪花節だよ人生は』『矢切の渡し』『釜山高に帰れ』…」

「ほう。有名な曲ばかりですな」

「『もしもピアノが弾けたなら』」

「おお。それは警察時代からの私のカラオケの18番ですな。私もピアノが弾けないが思いだけがある、といった気持ちで生きてきた」

「そうですか」

 田原は袴田が意外にも話に興味を持ったことに多少の驚きを感じた。

「誰一人として見えていなかった世界が浮かび上がる瞬間…ね」

 袴田はもう一本タバコに火をつけ腕組をして目を閉じた。

「真実はいつも一つとは限らない。しかし真実は一つであるとしなければ世の秩序は保たれないのもまた真実だ。そこには大きな犠牲ももちろんある…しかしながら……」

 田原は袴田の独白をじっと聞いていた。




「もう少しお話ししたいですな」

「しかし私には番組が…」

 入室してからすでに10分少々過ぎている。スタジオは衝撃の舞台裏のフリップボードの内容について、パネリストたちが喧々諤々の放談をしている。そろそろ田原の仕切りが必要なタイミングのはずだった。

「田原さんの強い決意は十分にわかりましたので、何もわざとらしく引き止めようというわけではないんですよ」

 袴田が不気味に笑った。

「…といいますと」

「しばらくは中継メインで討論によって"B面世界が浮かび上がる"どころじゃなくなるということです」

「どういう意味ですか…」



 役員室はしんと静まり返った。






 田原が口を開こうとしたその瞬間だった。

 役員室のドアが強くノックされ、女性秘書が緊張した顔で戸田に視線をよこした。

 戸田はすっと立ち上がって自分のデスクの上に置いてあった部屋の大画面のプラズマテレビのリモコンのスイッチを入れた。秘書には会議中にかかわらず何か大きな動きがあれば知らせるように伝えてあったようだ。



 画面からは望遠カメラで写した藤井城周辺と思われる風景が映し出され、激しい銃弾の発射音が連続して流れてきた。

「警察の藤井城への突入の前哨戦が始まったんだよ」

 あっけに取られている戸田と田原に袴田が解説した。袴田は関東管区警察局長榊原ドアから藤井組組長をテレビに出さないための警察の突入前倒しの報告をすでに極秘に受けていたのだった。



「すこしこのテレビで事態の推移を見守りましょう。先ほどの"B面世界論"は非常に興味深い。ぜひその話をしながらね」

 袴田が満足そうに声をあげて笑った。




続く

大人のピアノ その百にじゅう

 藤井組長は上機嫌だった。

 武志を含めた四人は地下室を出て、国宝姫路城を模した白亜の藤井城屋上にいた。夜風が頬を撫でる中、三浦が訓練した組の若い者に迫撃砲を打たせている。

 警察からは遠距離からの威嚇射撃的な散発的な銃撃があったが、本格的なSITおよびSATの突入はまだだった。特殊警察が本領を発揮するのはあくまでも突入した後の近距離の銃撃および格闘戦であり、そのためにはまず空からの隊員のパラシュート降下が欠かせなかった。しかし近づこうとする警察のヘリは迫撃砲により命中寸前の危険に何度も晒されて容易に近づくことができない状況だった。



「しかしよ、三浦」

「はい」

「元陸上自衛隊のお前が最初に打った二発がものの見事に空中の警察庁のヘリと、地上の首都大東京放送の中継車に命中したのにも驚いたが…」

 藤井は若い組員たちが、右肩に背負った長さ二メートルほどの筒から狙いをつけて空中を旋回するヘリコプターにロケット弾を発射している様を見ながら言った。

「はい」

「素人を訓練したにしちゃ、どいつも殆どヘリに当たりそうじゃねえか」




 藤井がそう言った時、バックファイアの爆発音と爆風とともに新しい一発が空中に発射された。ミサイルは白い煙を吐きながら一直線にヘリに向かいそのままヘリを射抜いた。

 三浦が最初に撃墜した時と同じようにオレンジ色の閃光が闇に浮かび、やや遅れて標的が空中爆発する音とともにヘリは幾つかの機体にひき千切られて地上に落下していった。



「当たっちまった」

「はい」

 藤井が驚いていると三浦が苦笑して相槌を打った。

「当たるもんなんだな」

 南方も少々驚きの顔で三浦を見た。

 武志は膝の震えが止まらない。無言のままこの状況にかろうじて息をしていると言った様子だった。




「実は当たるのと当たらないのがあるんですよ。撃墜用と威嚇用と言ってもいいんですが、当たる方はアクティブホーミングなんで武志が発射しても当たります」

 三浦は藤井にそう言ってから武志の方を向いてニヤニヤ笑った。

「なんだそのアクティブホーミングってのは」

「ミサイルの中にレーダーが仕込んでありまして、そのレーダーが目標物に光線を当てて距離と方向を修正しながら勝手に飛んで行くんです。一発がかなり高価なんでうちにもそれほど数は多くないんですが、少し精度の落ちる目標物の熱を感知して追尾するパッシブホーミングミサイルと合わせて使ってます」

「なるほどなあ」

「だから若い連中には12発パッシブホーミングを打ったら一発アクティブホーミングを使えと指示してあります。とりあえずは私の指揮がなくてもこの威嚇射撃は若い者だけで続けられます」

「いや、お前がそこまで訓練してくれてるとは思わなんだ」

 藤井はそう言って三浦の肩をねぎらうようにポンポンと叩いた。

「恐縮です」



 藤井はヘリの消えた真っ暗な夜空をしばらく無言で眺めていた。

「ところでおめえ、何で自衛隊に入ったんだ」

 三浦を振り返った藤井が人懐こそうな笑顔で訊ねた。

「話せば長いんですが…」

 あらたまった言葉に三浦も照れと戸惑いの色を浮かべた。

「ちょうどいい、その話聞かせてくれや。それとどうしてうちの組みに入ることにしたのか。そっちは聞いたことはあったが今回のことで改めて聞きたくなった。作戦会議含めて一旦地下に戻ろう」

 藤井は三浦、南方、武志の三人に言った。



「それと、篠崎さん経由のテレビ朝霧の電話生出演の件も話を詰めておきましょう」

 南方が言った。

「ああ、そうだったな。あの朝子お嬢ちゃんのパパがなんかやる気満々みたいじゃねえか。俺はなんだかめんどくせえけどそのチャンネルは大事なことになりそうだ」

「よろしくお願いします」

 南方が頭を下げた。



 さっきまで上空を数機旋回していたヘリは仲間のヘリの炎上を機に後方に後退し、再び不気味な静寂が辺りを支配していた。





続く
ゆっきー
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