芸術の監獄 速水御舟

芸術の監獄 速水御舟120の有料書籍です。
書籍を購入することで全てのページを読めるようになります。
芸術の監獄 速水御舟を購入

速水御舟( 1 / 3 )

速水御舟

私は8年前の1996年に(註:拙稿は2004年に書かれた物です)某ビジネス雑誌の編集部に派遣会社のスタッフとして勤めていたことがある。業務内容は文書ファイリングと郵便物の集計。地味だけど重要であり、なかなか奥の深い仕事であった。

 

編集者さんは新入りの私に、「宣伝してね」と、しょっちゅう雑誌を持たせてくれた。その紙面の「今月のアート」欄で私は速水御舟という画家を知った。短いコラムだったので「16歳で実質的にデビュー。40歳で夭折」、程度のことしか記されていないが、掲載されていた作品「炎舞」だけで恐るべき画家だと言うことが分かった。闇の中に立ち上る火炎。炎の切っ先に、明るさに惹かれて蛾が群れている。蛾そのものも、薄く発光していて、その生命の不思議といおうか神秘が迫ってくる。

 

少し経って私は、小説に「速水御舟の愛好家」を出そうかと考えた。最高度に洗練された趣味人。ただしどこか危なげではかなげ、というプロフィールである。おお、そうとなれば御舟画伯について調べなくては、絵ももっと見なくては。早速私が画集を買い込み、山種美術館に電話をしたのは当然の成り行きであったが、その他に私が行った場所は、「古本屋」であった。

 

私がひいきにしている古書店は、もっぱら新宿の辺だ。戸山、若松町、喜久井

町のあたり。ただし98年を最後に行っていないので、現在はどうなったのだろうか。マンションがかなりたくさんできているようなので、とうに立ち退いたのかもしれない。好きだったのだけどなあ、あの玉石混淆な感じの店構えや、天井まで本で埋められた、薄暗い涼しい空間が。店主もたいていは「金儲け」とかを考えていない。「お嬢、お探し物は、言ってくれりゃあ探してあげるよ」

「お探し物」は、「倉橋由美子の初刊本」だったり「昭和30年代の「レコード芸術」」だったりした。

 

私は最初から、このような文献が見つかるだろうと思ったわけではないが、結果として、思っても見ない収穫を得たのだ。それは昭和22年発行の「京のいまむかし」という地方誌である。その目次には驚くべき一文があった。

 

速水御舟画伯の「京の舞妓」のモデルが語るー若き天才画家の記憶

 

この欄に掲載するには勿論、この雑誌の発行元「京都風流の友」なる会社(?)に許可をもらうべきであろうが、なんと電話番号が載っていない上に、住所の文字がつぶれていて読めない。仕方がないので許可なしで書かせて頂きます。昭和22年(1947年)ならずいぶん昔だし。

 

どうしてこれほどの貴重な資料が埋もれていたのか、と思うほどだが、ともあれ、世の「速水御舟ファン」にとってこの文献はすばらしい資料となりうる。心当たりの方は、どうかご一報ください。旧仮名文字は全て新仮名文字に統一し、京都弁はあえて直さなかった。文中、「あて」というのは、モデルとなった舞妓さんである。

 

あてが呼ばれたんは大正8年の夏どす。7月のことでした。

へえ、あての女将さんが、その頃京にいやはった絵描きさんから「モデルになってくれる舞妓いまへんか」と頼まれたんどすな。年が「16から18まで」といわれましてん。あてはその頃、数えで17だした。もう、「顔が綺麗」とか、そんなんと関係あらしまへんのやよって(笑)。「おないどしの子がほかにいなんだ」いうのんが正しいんどす。それにしても、肝心の絵をあてはみたことがあらへんのどす。今日、お写真見せてもうて「そうやったかぁ」いう気がしましたなあ。


hayami2.jpg



芸術の監獄 速水御舟120の有料書籍です。
書籍を購入することで全てのページを読めるようになります。
芸術の監獄 速水御舟を購入
深良マユミ
芸術の監獄 速水御舟
0
  • 120円
  • 購入

1 / 3

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • 購入
  • 設定

    文字サイズ

    フォント