トップスピード七〇キロ毎時。体躯は自分より一回り大きい程度。主武装、全長一メートル前後の木刀および鉄パイプ。
その身体で本気で振るえば、人の骨の一本や二本は軽く打ち砕くだけの威力を秘める、紛れも無い人に危害を加えるための凶器(どうぐ)だ。
とはいえ、やはりそこは近接武器。少年の持つ“破壊の力”は、それのほぼ倍以上の威力と、倍以上の間合いをカバーできる……要は、奴等の間合いの外から完膚なきまでに打ち倒せる。
多勢に無勢、そんなことは全く無い。万に一つも負ける要素は存在しない。
むしろそもそもの問題は、彼奴等がその凶器を、まるで携帯電話かパス・ケースを持ち歩く感覚で手にしているという事。
そしてそれは、この場にいる僅かな無関係の、力の無い人間にのみ振るわれるという事。それが何より、少年は癪だった。
奴等が撒き散らすのは騒音だけではない。集団というものの生み出す言い知れぬ恐怖、歯止めというものを知らぬが故の理不尽な暴力、そして、死。
彼等に直接的、あるいは間接的に、しかし無残に殺された人間が一体何人いたかは想像に難くない。
そんな奴等が“癇に障る”。
少年にとって、彼奴等を潰す大義名分(りゆう)はそれだけで十分だった。更に言えば……。
「国に護られてるって幻想を抱いてる、てめぇらの全てもよ」
そう。彼等はものの見えぬ大人の作り上げた、抜け穴だらけの少年法という悪法に護られている。
エンジンの空ぶかしを注意した者を鉄パイプで撲殺しようが、じとりと好奇の眼差しを向けた物好きな者を大径のタイヤで轢殺しようが…………国に、少年法に護られている限り、絞首台だけは須らく免れる。
それが、少年は尚更気に喰わないのだ。
…………ならば、そんな彼奴等を地獄の最底辺に叩き落してやる事に、何の問題もない。いや、今は奴等をそうしたくて仕方がない。
少年の行動理念は極めて単純なそれだった。
暫くするとかの無法者達はその襲来を待ち受ける少年のもとへ辿り着き、あっという間に彼を囲繞する。
血やオイルの臭いと耳障りな駆動音に隙間なく包囲されながらも、少年はその冷淡な表情を崩さない。
「あん、何だテメェは!!」
「轢き殺されてぇのか、おいっ!!」
無法者達が鼻息を荒げながら少年をグルグルと取り巻くように走り続ける。極彩色の髪に崩れかけた顔、無駄に大きな体躯と目に優しくない様々な色の特攻服。
センスという言葉などとは無縁の彼等は、少年を脅すようにわざとエンジンを大きく吹かせながら、めいめいに大音量で喚き続ける。不協和音が少年の周囲を満たしていた。
本当、鬱陶しく騒ぐことだけは上手い奴等だ。集団になれば、その手に鈍器を持てば、大きなバイクに乗れば、それだけで強くなったと思い込んでいる。
それが少年は余計に気に喰わない。ならば…………。
「……………………死ねよ」