処女受胎

  お菊さんは、ニコッと笑い話し始めた。「坊ちゃん、新興宗教のいつもの手じゃありませんか。金持ちから金を巻き上げる手口ですよ。神の子を授かれば、末代まで繁栄し、幸福になるとか言って、金を巻き上げるんですよ。JKは処女じゃないはずです。きっと、JKが妊娠したのを知って、処女受胎したと信者に信じ込ませているに違いありません。病院で処女かどうか診断すれば、化けの皮が剥がれるはずです」お菊さんは、ドヤ顔でまくし立てた。

 

 コロンダ君は、お菊さんのいつもの自慢顔をじっと見つめていたが、お菊さんが、びっくり仰天するようなことを話し始めた。「そうだと僕も思ったんですよ。でも、JKは正真正銘の処女なんですよ。ニワカ神父は、中洲総合病院が証明したJKの処女証明書を片手に、処女受胎を声高らかに信者に自慢しているらしいんです。“私は神の使者だ。処女受胎を可能にできる神業を持った神父だ。私を信じなさい。私の神業で、皆さんを幸せにします。どんな難病も、どんな心の病も、私の祈願を持ってすれば、必ず治癒します。私を信じなさい”とこんなことを言って、信者を洗脳しているらしいですよ」

 

 お菊さんは、正真正銘の処女とはどういうことか気になった。「正真正銘の処女とはどういうことですか?いったい、中洲総合病院が証明したという証明書って、どんな証明書ですか?」その証明書は、バッテン真理教会が医者にお金を支払って書かせた偽物の証明書に違いないとお菊さんは考えた。コロンダ君も、半信半疑で話し始めた。「う~、話によると、その証明書には、女性器の精密検査の結果、処女膜には一切の破損、亀裂はなく、また、整形がなされた痕跡もまったく見受けられない、と記入されているとのことです」コロンダ君は、この話を聞いて、処女受胎を信じ得ざるをえなかった。

 

 お菊さんは、口を半開きにして、あっけにとられた顔で聞いていた。「え、処女膜が破られていないですって!そんな馬鹿な!その医者は、お金をもらって嘘を書いたに違いないわ」お菊さんは、頑として、医者が嘘の証明書を書いたと言い張った。コロンダ君は、困り果てた顔で話を続けた。「でも、JK本人も、処女だと言い張っているんです。しかも、その証明書を書いた医者は、世界的に有名な外科医で、お金で嘘の証明書を書くような医者じゃないんですよ。だから、証明書に記載された内容は、事実だと思いますよ」コロンダ君は、お手上げの表情で、両手のひらを上に向けた。

 

 お菊さんの顔は真っ赤になっていた。「処女膜が破られてない。そんな馬鹿な。処女膜を破らずに、ペニスを挿入したって言うんですか。ありえない、話だわ。いったい、どうなっているの」お菊さんは泡を吹いていた。コロンダ君も何度も頷き、お菊さんに賛同した。「そうですよね、僕も信じられないんです。処女膜を破らずに挿入するなんて、決してできるはずがないんです。本当に、処女受胎ですかね~」コロンダ君は、天上に目を向けた。

 

 お菊さんは、黙って紅茶をすすった。一口すすると、どうでもいいような口調で話し始めた。「本当に不思議な話ですわね。お菊にはさっぱり分かりません。処女が妊娠するなんて。御伽噺じゃあるまいし。でも、はっきりしていることは、卵子は受精しなければ、赤ちゃんにはならないってことです」お菊さんは、話題を変えたくなっていた。コロンダ君も、嫌気をさしていたが、参考までに、T大医学部准教授である兄の秀春の意見を話すことにした。

 

 「お菊さん、僕もあまりにも不可思議な話なので、兄にこの話をしてみたんだ。兄も、首をかしげていたけど、もし、本当に処女膜に破損がなく、妊娠したとすれば、考えられることは一つだといっていた。それは、人工妊娠だとさ。体外受精させた受精卵を子宮に着床させる方法らしいんだけどね。でも、これをやるにしても、母体となる女性の承認が必要なんです」コロンダ君は、兄の言う人工妊娠でJKは妊娠したのではないかと心の底では思っていた。

 

 お菊さんの目が輝いた。ポンと手を叩き話し始めた。「そうよ、謎は解けたのも同然じゃない。JKを問い詰めて、化けの皮をはがしてやりましょう」お菊さんは、すぐにでも中洲に飛んで行きたい気持ちになっていた。「え、早まってはいけません。あくまでもこれは、兄の憶測であって、何の確証もないんです。すでに多くの信者は、処女受胎を信じています。今頃、僕たちが、いちゃもんつけたら、袋叩きにあいますよ。触らぬ神にたたりなし、ですよ」お菊さんの冒険心に火をつけてしまったことに後悔した。やはり、話すべきではなかったと悔やんだが、後の祭りであった。

 

 お菊の決意は固かった。いったん燃え上がった炎を消すことはできなかった。「坊ちゃん、戦うのです。このままだと、多くの信者が騙されて、ひどい目にあうに決まっています。坊ちゃんも男でしょ。勇者は懼れず、です。さあ、出陣です」お菊さんは、コロンダ君に発破をかけた。「待ってください、お菊さん、今回ばかりは、危険です。バッテン真理教会の実態もつかめてない状態です。下手に手を出して、殺されでもしたらどうするんですか」

コロンダ君は、新興宗教にかかわりたくなかった。

 お菊さんの耳には、そんな弱気な話は届いていなかった。「能書きは、そこまでです。さっそく今週金曜の夜に中洲に出立です」お菊さんは、目を吊り上げ、鬼のような形相になった。すっと立ち上がったお菊さんは、トレイにティーポットとカップを載せ、メイド喫茶のウェイトレスのよう笑顔を作り、お尻をフリフリ、部屋を出て行った。今回ばかりは、コロンダ君の背筋に寒気が走った。

 

                クリスマス・イブ

 

 一人になったコロンダ君は、秀春の話したことを思い出していると、いろんな思惑が頭の中を巡り始めた。お菊さんには、簡単明瞭に話したが、実際は、胚移植についてもっと具体的な話を聞いていた。医学の進歩は目覚しく、卵子と精子を体外受精させ、受精卵をカテーテルという細い管で吸引し、膣から挿入して子宮内膜の上に受精卵を置いて、着床させ、妊娠させることができるというのだ。その作業は、なんと5分ほどでできるらしい。

 

 たとえ、処女膜がある膣でも、直径5ミリほどの穴があれば、余裕を持って、細いカテーテルは子宮まで届くことになる。つまり、処女でも妊娠することができるというわけだ。例のJKは、この施術を受けたのだろうか?施術を受けたにもかかわらず、誰かに口止めされて黙っているのだろうか?それとも、神父に脅されて、真実を話せないでいるのだろうか?

サーファーヒカル
作家:春日信彦
処女受胎
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