処女受胎

 コロンダ君は、気まずくなりかけた雰囲気を打ち消そうと、お菊さんの機嫌をとり始めた。「本当に、びっくりでしょう。作品と言うのは、いつも聞かせてくれる妄想を官能小説にして、応募したんですよ。お菊さんの才能を世界に知らしめようと、頑張っちゃった」お菊さんは、まだピンときていなかった。「官能小説?お菊のエロ話をですか?」お菊さんは、もしかして、淫乱な自分を書かれたのではないかと疑った。

 

 コロンダ君は、淫乱なお菊さんを主人公に書いていたため、内容の説明がしにくかった。「いや、官能小説と言っても、女性の人生についての物語なんです。エロいところもあるけど、性を真面目に捉えた作品なんです。お菊さんも納得していただけると思います」コロンダ君は、エロい描写には触れたくなかった。「そうですか、お菊の妄想が小説にですか?主人公は、お菊ですか?」お菊は、自分がどのように描かれているか興味が湧いてきた。「ちょとだけ、内容を話してくださいな。お菊のどんなところを書かれたのですか?」口では言えないような、エロい場面があって、返事に困った。ほとんどは、お菊さんのエロ話を参考に書いていたが、部分的に、事実を書いていたため、口に出せなかった。

 

コロンダ君は、ある深夜、一階のトイレに行ったとき、東奥のお菊さんの部屋から異様な声がするので、具合でも悪いのかと思い、様子を伺おうと部屋に向かった。襖の前までやってくると、アー、アー、という大きな声が断続的に耳に入ってきたので、やはり病気だと思い、ふすまに手を掛けた。その瞬間、イク、イク、ア~!とあのときの声が響き渡った。びっくりしたコロンダ君は、急いで二階の自分の部屋に帰り、お菊さんのあの時の姿を思い浮かべてしまった。そのときのことを勝手に想像して書いたところがあり、ここの部分だけは、罪悪感にさいなまれていた。

黙っていると、変におもわれると思い、適当に返事した。「簡単に言えば、父と僕とお菊さんのことを書いたんだ。詳しくは、受賞した「黒い花びら」を読んでください。そう、お菊さんに、訊ねたいことがあったんですよ。ほら、友達の新聞記者から聞いたんだけどね、博多の中洲女学園高校のJKが処女なのに妊娠したらしいんだ。こんなことってあるだろうか?」コロンダ君は、話を変える作戦に出た。

 

 お菊さんは突拍子もない話に耳を傾けた。「処女で妊娠ですか。どこかの新興宗教のデマでしょう。かつてそんな話を聞いたことがあります。神の子を宿したといって大騒ぎになったけど、結局は、デマでしたね。なんと言う宗教団体の話ですか?」お菊さんは、処女受胎が、信者を集めるための策謀の一つであることを知っていた。コロンダ君は、思い出しながら話し始めた。

 

 「彼が言うには、5年前、中洲に“バッテン真理教会”という教会ができて、女性の幸福を実現する女神が祭られているらしいんだ。すでに、多くの女性たちが礼拝に来ているとのことだ。そこのニワカ神父いわく、処女受胎した女性は、神の子を産み、その女性は神の母であるマリアになれる、ということなんだ。ところが、処女受胎するためには、1000万円の祈願料がいるという、うわさなんだ。処女受胎したJKの母親は、ニワカ神父に1000万円支払ったらしいよ」コロンダ君は信じられないような話を、噛みしめるように話した。

  お菊さんは、ニコッと笑い話し始めた。「坊ちゃん、新興宗教のいつもの手じゃありませんか。金持ちから金を巻き上げる手口ですよ。神の子を授かれば、末代まで繁栄し、幸福になるとか言って、金を巻き上げるんですよ。JKは処女じゃないはずです。きっと、JKが妊娠したのを知って、処女受胎したと信者に信じ込ませているに違いありません。病院で処女かどうか診断すれば、化けの皮が剥がれるはずです」お菊さんは、ドヤ顔でまくし立てた。

 

 コロンダ君は、お菊さんのいつもの自慢顔をじっと見つめていたが、お菊さんが、びっくり仰天するようなことを話し始めた。「そうだと僕も思ったんですよ。でも、JKは正真正銘の処女なんですよ。ニワカ神父は、中洲総合病院が証明したJKの処女証明書を片手に、処女受胎を声高らかに信者に自慢しているらしいんです。“私は神の使者だ。処女受胎を可能にできる神業を持った神父だ。私を信じなさい。私の神業で、皆さんを幸せにします。どんな難病も、どんな心の病も、私の祈願を持ってすれば、必ず治癒します。私を信じなさい”とこんなことを言って、信者を洗脳しているらしいですよ」

 

 お菊さんは、正真正銘の処女とはどういうことか気になった。「正真正銘の処女とはどういうことですか?いったい、中洲総合病院が証明したという証明書って、どんな証明書ですか?」その証明書は、バッテン真理教会が医者にお金を支払って書かせた偽物の証明書に違いないとお菊さんは考えた。コロンダ君も、半信半疑で話し始めた。「う~、話によると、その証明書には、女性器の精密検査の結果、処女膜には一切の破損、亀裂はなく、また、整形がなされた痕跡もまったく見受けられない、と記入されているとのことです」コロンダ君は、この話を聞いて、処女受胎を信じ得ざるをえなかった。

 

 お菊さんは、口を半開きにして、あっけにとられた顔で聞いていた。「え、処女膜が破られていないですって!そんな馬鹿な!その医者は、お金をもらって嘘を書いたに違いないわ」お菊さんは、頑として、医者が嘘の証明書を書いたと言い張った。コロンダ君は、困り果てた顔で話を続けた。「でも、JK本人も、処女だと言い張っているんです。しかも、その証明書を書いた医者は、世界的に有名な外科医で、お金で嘘の証明書を書くような医者じゃないんですよ。だから、証明書に記載された内容は、事実だと思いますよ」コロンダ君は、お手上げの表情で、両手のひらを上に向けた。

 

 お菊さんの顔は真っ赤になっていた。「処女膜が破られてない。そんな馬鹿な。処女膜を破らずに、ペニスを挿入したって言うんですか。ありえない、話だわ。いったい、どうなっているの」お菊さんは泡を吹いていた。コロンダ君も何度も頷き、お菊さんに賛同した。「そうですよね、僕も信じられないんです。処女膜を破らずに挿入するなんて、決してできるはずがないんです。本当に、処女受胎ですかね~」コロンダ君は、天上に目を向けた。

 

 お菊さんは、黙って紅茶をすすった。一口すすると、どうでもいいような口調で話し始めた。「本当に不思議な話ですわね。お菊にはさっぱり分かりません。処女が妊娠するなんて。御伽噺じゃあるまいし。でも、はっきりしていることは、卵子は受精しなければ、赤ちゃんにはならないってことです」お菊さんは、話題を変えたくなっていた。コロンダ君も、嫌気をさしていたが、参考までに、T大医学部准教授である兄の秀春の意見を話すことにした。

 

サーファーヒカル
作家:春日信彦
処女受胎
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