共滅社会

未来の破滅が予定された世界を、我々は生きている。

現実的に考えると、人間が他者と共存できると言われていること自体幻想であると思っているからだ。

では他者と共存することが不可能であるともし断言したとすれば、どんな選択を我々はするであろうか。

まず考えられるのが「自滅」という道である。

次に考えられるのが、相手を滅ぼすこと。私はこれを「他滅」と呼んでいる。

そのどちらでもないのが、共に滅ぶということ。これは「共滅」と呼んでいる。


国家というものについて考えたとき、外国というのは自分の国を攻めてきてもおかしくない。

それを前提とする限り、他国は全て滅ぼして自国の支配下に置くのが、一番安全な方法である。


企業は普段からお互いにつぶし合いをしている。

市場競争に勝っていく中で、他社は全て滅ぼし、自社が100%のシェアを握るのが最も望ましいことだ。


そうして、他を滅ぼそうと本気ですれば、相手も間違いなく同じようにこちらを滅ぼそうとしてくる。

そうすると行ききつく所は、共に滅ぶことである。

そうすれば、自分も結局滅びる。


そんなことを悶々と考えながら、今日も仕事を進めている。

「まだかよ!?」

いつものように上司からの声が聴こえる。

「んんと。。。すいません、明日には。。。」

「明日?最初は一昨日までと言ってたじゃねえかよ!それが実際に期限が来たら昨日まで、昨日が来たら今日まで。いつになるんだよ、一体!?人として当たり前の約束も守れねえのかよ!?」

「あの。ですが、誰も解明したことの無い暗号ですよ。。。」

「そういう言い訳が出てくる時点で汚いんだよ、君は!」

「申し訳ございません。明日にはやります」



どうせ、それだから大学院でも博士課程を修了できず満期退学になったんだ、というようなことも思っていて、本当はそれも言いたかったのだろう。

私がどんな思いでこんな解析をやっているのか、考えてみてもくれない。

あんな上司と一緒に居たら、きっといつか私は発ガンする。


あんな奴こそいつか滅ぼしてやりたい、と思う。

ただもし実際にそれをやれば、私も社会からは消される。

まさに、共に滅びるのだ。

人類は文明が始まって以来戦争を続けてきた。

今では全人類が滅ぶのに必要な量の何倍もの毒を持つ兵器が地球上に存在している。

それでも今日もどこかで戦いは起こる。

それでも、兵器を無くし戦いを止めようとすれば自分たちが殺されるから、戦争を止めさせろと、普通の人は言わない。


人類のうちかなりの部分は既に生きていくのに必要な量を超えて物を手に入れたにも関わらず、新しい物を次々造り出すため忙しそうにしている。

そして、新しい物を手に入れるために、古い物を使い切ることもせず捨てている。

物を造り過ぎ捨て過ぎたせいで、自然は徐々に荒み、仕返しをするかのように人類に牙をむくようになってきた。

それでも、物を少ししか使わないようにすれば、仕事が減ってくる。

自分たちの仕事が無くなり、生きていけなくなるかもしれない。

だから、使い捨てを止めろと、普通の人は言わない。


ある行為を人類が滅ぶことにつながるから止めなければならない何て言っても、私個人のエゴでしかない。

もう人類は永久に存在しなければならない、という考え方は捨てるべきだ。

いつか人類が滅ぶのは仕方がない。


これまで人類は出てきては一旦絶滅して、また出てきてを繰り返している。

あと200万年もすれば、また新しい人類が出てきて今日と同じように繁栄することだろう。


私がすべきことは未来の歴史を書き換えることではない。

このことを書き記しておくことだ。

人類が滅びたあと、いつか現れる人類に役立ててもらうために。

200万年前の都市があった地層から見つかった岩に書かれていた、暗号の解析がようやく完了し、私は愕然とした。

私の発想は200万年前から全く進歩していない。

鴨坂 科楽
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