記憶の森 第一部

7・予兆

それからカイは何か思い出したように
一人でパタパタと駆けていった。
お目当てはあの光り輝く木の実だった。
寝そべって木の実を見つめながら、
「ねえ、ねえ、おしゃべりしようよ。
 君は何になるの?きれいだから、もっときれいな物になるの?
 僕と一緒に夢を見てよー。」
すると木の実は左右に首をかしげるように動いた。
「あ、動いた。」
カイは目をパチパチさせた。
そしてみんなの方へ駆けていった。

「大変!大変なのーー。」
「どうしたのだ?」と長老が聞くと
「あの実が動いたのーー。」
と後ろの方を指さした。
「え?芽でも出るのかな~~?」
とテイルはウキウキしてるようだった。

急いでみんなでその実の所に行ってみた。
「別に変わった所は無いがのう。」と長老。
「ねえ、長老みんなでこの実を見張ろうよ。
 俺、何か気になるんだよ。」
とある者が言った。
長老は「そうだな。わしも気になる。
 ではお前、少し頼めるかな?」と言った。
「よし来た。長老、俺見張ってるよ。」

その日からその実の傍に交替で見張りがつくことになった。


8・謎のジョーカー1

その実の傍には見張り番が立ち、
相変わらずみんなのお喋りが繰り広げられる
集会所のようだった。

すると人がいっぱい居る所で必ず弁舌をふるい始める
例のちっちゃい奴がやってきた。
すばしこくて落ち着きのない奴だ。
そのいでたちから、みんなからジョーカーと呼ばれていた。
みんなの居るすぐ上の木の枝を端から端まで歩きながら、
奴は熱弁を振るい出した。

「さあ、お立会い。お立会い。
 今日はおもちゃの兵隊のお話(※1ページ下に注釈)だよ~~。」
カイはうっとりと眺め始めた。
「昔、昔、ある男の子の所におもちゃの兵隊達がいました。
 兵隊は全部で13人。
 一人ずつ番号を数えては、端から端まで並べては、
 行進させたりし遊んでおりました。
 その脇にバレリーナのお人形がすることがなく
 彼等を眺めておりました。
 男の子と兵隊達が遊んでいる間
 バレリーナは独りぼっち。
 (私つまんないな)バレリーナの囁きが聞こえるようです。
 そう、男の子はバレリーナに興味がなかったのです。
 おもちゃの兵隊の一人はバレリーナを見て
 ドキドキしていました。
 「もう、ご飯よ。」とお母さんが声を掛けると
 男の子は慌てて兵隊達をおもちゃ箱にしまい部屋を出ました。
 バレリーナは独りで窓辺にたたずんでいます。
 兵隊の一人はおもちゃ箱の中で
 (あの娘と仲良くなりたいなあ)と思いながら
 深い眠りに落ちました。
 あくる朝兵隊が目を覚ますと
 バレリーナの姿が窓辺にありません。
 慌てて兵隊は窓から下に飛び降りました。
 「彼女を探さなくちゃ!」
 猫に追いかけられ
 川に落ちて流れたりしながら、必死に探しました。
 何日もして、それでも見つからず、
 道端に倒れている所を人に拾われ
 なんとか男の子の家まで帰ることができました。
 家に帰ってみると
 愛しのバレリーナが窓辺にたたずんで微笑んでいました。
 「あ、窓辺でかわかしてやろう。」
 男の子はバレリーナの横に並べてあげました。
 彼は片方足をなくしてしまっていました。」
「名誉の負傷です!!」
とジョーカーは興奮して叫んでいる。
それを見てカイは楽しそうに笑った。
ルシファーも樹の根元に座って見上げながら微笑んだ。

ジョーカーは興が乗っているらしく続けて喋り出した。
「バレリーナが心配して兵隊を覗き込みます。「大丈夫?」
兵隊は照れながら「はい。」と答えました。
彼は片足をなくしたのにとても嬉しそうです。
それから彼とバレリーナは時間が経つのも忘れて
ずっとお喋りしていました。めでたし。めでたし。」
「あぁっ!私はその兵隊が羨ましい!!」
ジョーカーは木の枝にパタッと張り付いたかと思うと、
手足をバタバタさせて叫んでいます。
それを見てみんな大笑いしました。
それからジョーカーはまたハッと立ち上がったかと思うと
今度はうやうやしく手を胸に当ててお辞儀をしながら
「ほんのささやかなお話し。ご愛嬌。ご愛嬌。
 皆さん、ご機嫌よろしく!ではまた。」と言って
パタパタと飛んでいった。


※1・グリム童話より抜粋。

9・謎のジョーカー2

ジョーカーはいつも話し終えるとそそくさと
独りで行ってしまうのだ。
普段は樹の上で一人で過ごしているようだった。
彼が自分から喋る時以外は、
皆遠慮して彼に話し掛けることはなかった。
みんなが彼に近づきがたい雰囲気を感じていたのも
事実だ。

話している時の変わり身が面白く、
身振り手振りで話す姿が皆の気を惹き付けた。

そして思わぬ物知りで、
世界中を見てきたような話しをして
周りを驚かせたこともあった。

そんな時ある者がジョーカーを「お前は嘘つきだ。」
と言ったことがあって、
そうしたら彼は顔を真っ赤にして
「人を嘘つき呼ばわりする奴は死ね!」
と子供のような声で絶叫したことがあって、
皆をビックリさせたことがあった。
毒を吐くことがあっても慇懃無礼で、
のらりくらり交わしてしまうような彼が
そんな風に怒った所を誰も見たことが無かったからだ。

ジョーカーは罵った者の上をパタパタ飛びながら、
「お前死ね!死ね!死ね!」と叫んで
「あー、すっきりした。」
と言い捨てて飛び去っていった。
余りに素早かったのでジョーカーに罵られた者は
何も言い返すことができなかった。


10・閃光

それから何日かして、
例の金色に輝く木の実の傍には見張りが立ち、
その周りでみな思い思いのことをしていた。
カイはやはりその実がお気に入りのようで、
よくその実を眺めていた。

そんな時その実がいつにも増して光り出した。
(!!)皆ギョッとしてその実を見た。
パァーンと音がしてその実は弾け飛んだようだった。
鋭い閃光に目がくらんだ。
その実の中から何かがもの凄いスピードで飛び出て、
樹の根元へと飛んでいった。
まるで樹の根元で爆発が起きたようだった。
目がチカチカし、それがやっと治ってきた時、
あたりはいつもより暗かった。
皆何が起きたか確かめようとしていた。

木の実は無残に真っ二つに割れていた。
そして、樹の根元にも異変があった。
樹の根元にはその樹の魂とも言える
丸い大きな球があるのだが、
それに大きな亀裂が走っていた。
そして、木の実の前でカイが意識を失って倒れていた。

「大変だ!」
みんながカイの周りに集まって気を取り直させようとした。
「やっぱり意識が戻らない。」
リクは眠っているように思えた。
そしてそのことを長老に伝えに行った。

長老は慌てて駆けつけた。
「これは何ということだ!」
長老は力が抜けたようにその場にひざまずいた。
「カイが・・・!それにこれではこの樹は枯れてしまう。」
長老は皆の宿り木として、この樹を心の拠り所にしていた。
周りの者達もなす術もなく立ち尽くしていた。
リクは泣きながらカイの名前を何度も絶叫していた。
長老は嘆き悲しんでいた。
そしてカイを見て涙を流した。

カイはそれから何日経っても目を覚まさなかった。
長老は寝込んでしまった。
周りの者達も二人の心配をして、
重苦しい雰囲気が周りを包み込んでいた。


haru
作家:haru
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