記憶の森 第一部

6・祈り

大きな樹の下には信じられないような巨大な砂時計があり、
眠くなってしまいそうな程ゆっくりとサラサラと砂が落ちている。
砂が落ちるまでの時は一年。
本当に気が遠くなりそうな砂時計なのだ。
その脇には黒板があり年数が刻んである。
ここでの暮らしは疲れたらぼーっとし
飛び回っては休み、
眠って起きれば一日、そんな生活なのだ。

そして時々皆でお祈りをした。
遠い遠い昔の記憶を頼りに。
皆樹の根元にぞろぞろと集まっては
思い思いのお祈りをした。


長老は「祈りの歌などがあったら、気が利いていてよいのだがのう。」
と、ぶつぶつ言いながら
何やら真剣に目をつぶって祈り始めた。

例のいたずらっ子達は
普段とは全く違った神妙な面持ちで
何度も地面にひれ伏しながら祈っていた。
あまりに普段と違うので驚くのだが・・・。

ルシファーはその脇で目を閉じ、
静かに十字を切りながら祈った。
そして水晶の様な首飾りを託した人のことを思った。

その脇ではテイルが宙に円を描きながらくるくる回っている。
その祈り方が傑作なのだ。
ブツブツ呪文のようなものを唱えながら、顔を真っ赤にして
頭から湯気の様なものを出しながら
宙を歩いたり、飛び回ったりしている。
それを繰り返していたかと思うと、
急にパタッと倒れて地に落ちてしまうのだ。
前にも誰かがその様を「まるで祈祷師のようだ。」
と言ったけれど、
初めて見た時にはルシファーも唖然としたものだ。
今日もまた例のごとく倒れこんでいた。
「大丈夫なの?」ルシファーは心配そうに覗き込んだ。
テイルは我を取り戻すと
「あら、私やだ。また一人で祈りすぎちゃったわ。」
と言って笑っていた。

その周りでは金色の星のような者達が
皆の祈りに合わせるように踊っていた。

ひとしきり祈りが済むと、
皆思い思いにお喋りを始めた。
長老はリクとカイに聞いた。
「お前達は何を祈っていたのだ?」
リクは「僕は太陽に祈ってたんだ。」と言った。
カイは「僕は海だよ。
 何故だか昔ね、とても素敵な人と海を見たこと覚えててね。
 その人の顔思い出そうとすると気が遠くなっちゃってね。
 またその人に会えたらいいのになーって。」
と言って笑った。
リクは「僕、もっと明るいトコにきたいんだー。」と言った。
「そうか。」と長老は言いながら複雑な思いになった。
「長老は何を祈ってたの?」とカイが聞いた。
「わしはいつか皆がここを飛び立って行く日のことを
 思っておった。
 皆の幸せを祈っておったのじゃ。」と長老は言った


7・予兆

それからカイは何か思い出したように
一人でパタパタと駆けていった。
お目当てはあの光り輝く木の実だった。
寝そべって木の実を見つめながら、
「ねえ、ねえ、おしゃべりしようよ。
 君は何になるの?きれいだから、もっときれいな物になるの?
 僕と一緒に夢を見てよー。」
すると木の実は左右に首をかしげるように動いた。
「あ、動いた。」
カイは目をパチパチさせた。
そしてみんなの方へ駆けていった。

「大変!大変なのーー。」
「どうしたのだ?」と長老が聞くと
「あの実が動いたのーー。」
と後ろの方を指さした。
「え?芽でも出るのかな~~?」
とテイルはウキウキしてるようだった。

急いでみんなでその実の所に行ってみた。
「別に変わった所は無いがのう。」と長老。
「ねえ、長老みんなでこの実を見張ろうよ。
 俺、何か気になるんだよ。」
とある者が言った。
長老は「そうだな。わしも気になる。
 ではお前、少し頼めるかな?」と言った。
「よし来た。長老、俺見張ってるよ。」

その日からその実の傍に交替で見張りがつくことになった。


8・謎のジョーカー1

その実の傍には見張り番が立ち、
相変わらずみんなのお喋りが繰り広げられる
集会所のようだった。

すると人がいっぱい居る所で必ず弁舌をふるい始める
例のちっちゃい奴がやってきた。
すばしこくて落ち着きのない奴だ。
そのいでたちから、みんなからジョーカーと呼ばれていた。
みんなの居るすぐ上の木の枝を端から端まで歩きながら、
奴は熱弁を振るい出した。

「さあ、お立会い。お立会い。
 今日はおもちゃの兵隊のお話(※1ページ下に注釈)だよ~~。」
カイはうっとりと眺め始めた。
「昔、昔、ある男の子の所におもちゃの兵隊達がいました。
 兵隊は全部で13人。
 一人ずつ番号を数えては、端から端まで並べては、
 行進させたりし遊んでおりました。
 その脇にバレリーナのお人形がすることがなく
 彼等を眺めておりました。
 男の子と兵隊達が遊んでいる間
 バレリーナは独りぼっち。
 (私つまんないな)バレリーナの囁きが聞こえるようです。
 そう、男の子はバレリーナに興味がなかったのです。
 おもちゃの兵隊の一人はバレリーナを見て
 ドキドキしていました。
 「もう、ご飯よ。」とお母さんが声を掛けると
 男の子は慌てて兵隊達をおもちゃ箱にしまい部屋を出ました。
 バレリーナは独りで窓辺にたたずんでいます。
 兵隊の一人はおもちゃ箱の中で
 (あの娘と仲良くなりたいなあ)と思いながら
 深い眠りに落ちました。
 あくる朝兵隊が目を覚ますと
 バレリーナの姿が窓辺にありません。
 慌てて兵隊は窓から下に飛び降りました。
 「彼女を探さなくちゃ!」
 猫に追いかけられ
 川に落ちて流れたりしながら、必死に探しました。
 何日もして、それでも見つからず、
 道端に倒れている所を人に拾われ
 なんとか男の子の家まで帰ることができました。
 家に帰ってみると
 愛しのバレリーナが窓辺にたたずんで微笑んでいました。
 「あ、窓辺でかわかしてやろう。」
 男の子はバレリーナの横に並べてあげました。
 彼は片方足をなくしてしまっていました。」
「名誉の負傷です!!」
とジョーカーは興奮して叫んでいる。
それを見てカイは楽しそうに笑った。
ルシファーも樹の根元に座って見上げながら微笑んだ。

ジョーカーは興が乗っているらしく続けて喋り出した。
「バレリーナが心配して兵隊を覗き込みます。「大丈夫?」
兵隊は照れながら「はい。」と答えました。
彼は片足をなくしたのにとても嬉しそうです。
それから彼とバレリーナは時間が経つのも忘れて
ずっとお喋りしていました。めでたし。めでたし。」
「あぁっ!私はその兵隊が羨ましい!!」
ジョーカーは木の枝にパタッと張り付いたかと思うと、
手足をバタバタさせて叫んでいます。
それを見てみんな大笑いしました。
それからジョーカーはまたハッと立ち上がったかと思うと
今度はうやうやしく手を胸に当ててお辞儀をしながら
「ほんのささやかなお話し。ご愛嬌。ご愛嬌。
 皆さん、ご機嫌よろしく!ではまた。」と言って
パタパタと飛んでいった。


※1・グリム童話より抜粋。

9・謎のジョーカー2

ジョーカーはいつも話し終えるとそそくさと
独りで行ってしまうのだ。
普段は樹の上で一人で過ごしているようだった。
彼が自分から喋る時以外は、
皆遠慮して彼に話し掛けることはなかった。
みんなが彼に近づきがたい雰囲気を感じていたのも
事実だ。

話している時の変わり身が面白く、
身振り手振りで話す姿が皆の気を惹き付けた。

そして思わぬ物知りで、
世界中を見てきたような話しをして
周りを驚かせたこともあった。

そんな時ある者がジョーカーを「お前は嘘つきだ。」
と言ったことがあって、
そうしたら彼は顔を真っ赤にして
「人を嘘つき呼ばわりする奴は死ね!」
と子供のような声で絶叫したことがあって、
皆をビックリさせたことがあった。
毒を吐くことがあっても慇懃無礼で、
のらりくらり交わしてしまうような彼が
そんな風に怒った所を誰も見たことが無かったからだ。

ジョーカーは罵った者の上をパタパタ飛びながら、
「お前死ね!死ね!死ね!」と叫んで
「あー、すっきりした。」
と言い捨てて飛び去っていった。
余りに素早かったのでジョーカーに罵られた者は
何も言い返すことができなかった。


haru
作家:haru
記憶の森 第一部
0
  • 0円
  • ダウンロード

6 / 16

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント