記憶の森 第一部

5・リクとカイ

次の日からその実の周りはみんなの集会所になっていた。
何しろあの悪戯者がいくら叩いてもビクともしないのだ。

二人は昔の孤児だそうだ。リクとカイという。
ここに来た時から子供のままの姿で
時折無性に淋しくなるらしく、
駄々をこねては周りの者を困り果てさせていた。

「お兄ちゃん、これ何で割れないのーー?」とリク
「何でだろうね。僕と長老でやっても駄目なんだ。」
「これ、きれーだね。」と
カイはペタペタとその実を触っている。

二人はまるで兄弟のように周りに扱われていたが、
その性格はまるで対照的で、
リクはきかん気でちょっと乱暴者。
カイは男の子なのにきれいな物やお話しが大好きで、
二人が喧嘩した時などは手がつけられなかった。
普段は仲がいいのだが・・・。
でも好奇心が強い所はよく似ていた。
二人は長老が来る前からここに居たそうだ。
赤ん坊の姿でこの辺を這い回っていたという。

「これ、これ、お前そんなに乱暴に扱うでない。」
寝ていた長老が起きてきてリクを注意している。
あれから長老は調子がすぐれないようだ。
「ごめんなさい。僕、ただ中が気になって・・・。」
その脇でカイがその実に頬擦りしてご満悦なようだ。
(僕の宝物・・・)

「ねえ、カイ。木登りしようよ。」
長老に怒られたのでリクはカイを誘って
樹の方へ走っていった。
「あー。待ってよぉ。」
(僕これが気になるのになあ)
何度も木の実の方を振り返りながら、
カイはリクを追いかけていった。


6・祈り

大きな樹の下には信じられないような巨大な砂時計があり、
眠くなってしまいそうな程ゆっくりとサラサラと砂が落ちている。
砂が落ちるまでの時は一年。
本当に気が遠くなりそうな砂時計なのだ。
その脇には黒板があり年数が刻んである。
ここでの暮らしは疲れたらぼーっとし
飛び回っては休み、
眠って起きれば一日、そんな生活なのだ。

そして時々皆でお祈りをした。
遠い遠い昔の記憶を頼りに。
皆樹の根元にぞろぞろと集まっては
思い思いのお祈りをした。


長老は「祈りの歌などがあったら、気が利いていてよいのだがのう。」
と、ぶつぶつ言いながら
何やら真剣に目をつぶって祈り始めた。

例のいたずらっ子達は
普段とは全く違った神妙な面持ちで
何度も地面にひれ伏しながら祈っていた。
あまりに普段と違うので驚くのだが・・・。

ルシファーはその脇で目を閉じ、
静かに十字を切りながら祈った。
そして水晶の様な首飾りを託した人のことを思った。

その脇ではテイルが宙に円を描きながらくるくる回っている。
その祈り方が傑作なのだ。
ブツブツ呪文のようなものを唱えながら、顔を真っ赤にして
頭から湯気の様なものを出しながら
宙を歩いたり、飛び回ったりしている。
それを繰り返していたかと思うと、
急にパタッと倒れて地に落ちてしまうのだ。
前にも誰かがその様を「まるで祈祷師のようだ。」
と言ったけれど、
初めて見た時にはルシファーも唖然としたものだ。
今日もまた例のごとく倒れこんでいた。
「大丈夫なの?」ルシファーは心配そうに覗き込んだ。
テイルは我を取り戻すと
「あら、私やだ。また一人で祈りすぎちゃったわ。」
と言って笑っていた。

その周りでは金色の星のような者達が
皆の祈りに合わせるように踊っていた。

ひとしきり祈りが済むと、
皆思い思いにお喋りを始めた。
長老はリクとカイに聞いた。
「お前達は何を祈っていたのだ?」
リクは「僕は太陽に祈ってたんだ。」と言った。
カイは「僕は海だよ。
 何故だか昔ね、とても素敵な人と海を見たこと覚えててね。
 その人の顔思い出そうとすると気が遠くなっちゃってね。
 またその人に会えたらいいのになーって。」
と言って笑った。
リクは「僕、もっと明るいトコにきたいんだー。」と言った。
「そうか。」と長老は言いながら複雑な思いになった。
「長老は何を祈ってたの?」とカイが聞いた。
「わしはいつか皆がここを飛び立って行く日のことを
 思っておった。
 皆の幸せを祈っておったのじゃ。」と長老は言った


7・予兆

それからカイは何か思い出したように
一人でパタパタと駆けていった。
お目当てはあの光り輝く木の実だった。
寝そべって木の実を見つめながら、
「ねえ、ねえ、おしゃべりしようよ。
 君は何になるの?きれいだから、もっときれいな物になるの?
 僕と一緒に夢を見てよー。」
すると木の実は左右に首をかしげるように動いた。
「あ、動いた。」
カイは目をパチパチさせた。
そしてみんなの方へ駆けていった。

「大変!大変なのーー。」
「どうしたのだ?」と長老が聞くと
「あの実が動いたのーー。」
と後ろの方を指さした。
「え?芽でも出るのかな~~?」
とテイルはウキウキしてるようだった。

急いでみんなでその実の所に行ってみた。
「別に変わった所は無いがのう。」と長老。
「ねえ、長老みんなでこの実を見張ろうよ。
 俺、何か気になるんだよ。」
とある者が言った。
長老は「そうだな。わしも気になる。
 ではお前、少し頼めるかな?」と言った。
「よし来た。長老、俺見張ってるよ。」

その日からその実の傍に交替で見張りがつくことになった。


8・謎のジョーカー1

その実の傍には見張り番が立ち、
相変わらずみんなのお喋りが繰り広げられる
集会所のようだった。

すると人がいっぱい居る所で必ず弁舌をふるい始める
例のちっちゃい奴がやってきた。
すばしこくて落ち着きのない奴だ。
そのいでたちから、みんなからジョーカーと呼ばれていた。
みんなの居るすぐ上の木の枝を端から端まで歩きながら、
奴は熱弁を振るい出した。

「さあ、お立会い。お立会い。
 今日はおもちゃの兵隊のお話(※1ページ下に注釈)だよ~~。」
カイはうっとりと眺め始めた。
「昔、昔、ある男の子の所におもちゃの兵隊達がいました。
 兵隊は全部で13人。
 一人ずつ番号を数えては、端から端まで並べては、
 行進させたりし遊んでおりました。
 その脇にバレリーナのお人形がすることがなく
 彼等を眺めておりました。
 男の子と兵隊達が遊んでいる間
 バレリーナは独りぼっち。
 (私つまんないな)バレリーナの囁きが聞こえるようです。
 そう、男の子はバレリーナに興味がなかったのです。
 おもちゃの兵隊の一人はバレリーナを見て
 ドキドキしていました。
 「もう、ご飯よ。」とお母さんが声を掛けると
 男の子は慌てて兵隊達をおもちゃ箱にしまい部屋を出ました。
 バレリーナは独りで窓辺にたたずんでいます。
 兵隊の一人はおもちゃ箱の中で
 (あの娘と仲良くなりたいなあ)と思いながら
 深い眠りに落ちました。
 あくる朝兵隊が目を覚ますと
 バレリーナの姿が窓辺にありません。
 慌てて兵隊は窓から下に飛び降りました。
 「彼女を探さなくちゃ!」
 猫に追いかけられ
 川に落ちて流れたりしながら、必死に探しました。
 何日もして、それでも見つからず、
 道端に倒れている所を人に拾われ
 なんとか男の子の家まで帰ることができました。
 家に帰ってみると
 愛しのバレリーナが窓辺にたたずんで微笑んでいました。
 「あ、窓辺でかわかしてやろう。」
 男の子はバレリーナの横に並べてあげました。
 彼は片方足をなくしてしまっていました。」
「名誉の負傷です!!」
とジョーカーは興奮して叫んでいる。
それを見てカイは楽しそうに笑った。
ルシファーも樹の根元に座って見上げながら微笑んだ。

ジョーカーは興が乗っているらしく続けて喋り出した。
「バレリーナが心配して兵隊を覗き込みます。「大丈夫?」
兵隊は照れながら「はい。」と答えました。
彼は片足をなくしたのにとても嬉しそうです。
それから彼とバレリーナは時間が経つのも忘れて
ずっとお喋りしていました。めでたし。めでたし。」
「あぁっ!私はその兵隊が羨ましい!!」
ジョーカーは木の枝にパタッと張り付いたかと思うと、
手足をバタバタさせて叫んでいます。
それを見てみんな大笑いしました。
それからジョーカーはまたハッと立ち上がったかと思うと
今度はうやうやしく手を胸に当ててお辞儀をしながら
「ほんのささやかなお話し。ご愛嬌。ご愛嬌。
 皆さん、ご機嫌よろしく!ではまた。」と言って
パタパタと飛んでいった。


※1・グリム童話より抜粋。

haru
作家:haru
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