記憶の森 第一部

15・リクの気持ち

二人で長老の所に行こうとすると、テイルが側に寄ってきた。
「あれ、ルシファー、どこへ行くの?
 ここで見かけない人を連れて。」
「やあ、テイル。
 彼は昔の恩人の縁の人でね。ここに招いたんだ。」
「そうなの。こんにちは。テイルよ。」
「あ、こんちは。」
(何かティンカーベルみたい。
 ほんと、ここの人達って夢の世界の住人て感じだ。)
「よろしく、テイル。」とマサヒコは言った。
「これから長老のとこへ行くんだ。テイルも行くかい?」
「あ、行く行く。
 カイも寝たっきりだし、私、気が気じゃなかったんだ。」
長老には小さな小屋があった。
彼はリクとカイ三人でそこで暮らしていた。
他の者達(ルシファー、長老、リク、カイ、テイル、ジョーカー以外)は
姿形が淡くまるで妖精のようだった。
彼等は木の上で休んだり、根元で寝たりしていた。
ルシファーはマサヒコを振り返って言った。
「じゃ、行こうか。」
「ああ。」
テイルが彼等の周りを飛び回り、光の道筋を残していた。

長老の小屋に着くと
カイは相変わらず寝ているようだった。
三人でその顔を覗き込んだ。
カイは苦しそうでも病気でもないような表情で、
ただ寝ているようだった。
その傍でリクはすることも無く、
やるせない顔で足を投げ出して座っていた。

「この子どうしたの?」とマサヒコは聞いてみた。
長老が口を開いた。
「それがわからんのじゃ。
 不思議な木の実をこやつ等が拾ってきてな。
 その実が弾け飛んでから、魂が抜けたように眠っておる。」
ルシファーとテイルは少し胸が痛んだ。
(自分達があの実を取ってこなければ・・・。)
と、どこかで思った。

リクは泣き出しそうな表情で言った。
「僕、こいつが居ないと駄目なんだ。
 気がついたら二人で一緒に居て、考えることも全然違うけど、
 離れちゃったら本当にもう二度と会えなそうで、
 大好きだった場所にも戻れなくなりそうで、やなんだ!
 二人でいないと見つからない場所があるんだ!」
いつもは横暴者のリクがそんなことを言うので、
長老もルシファーもテイルもビックリしてリクを見つめていた。
「お前がそんなことを言うのは意外じゃの。
 姿形は子供なれど、お前達は大昔の者じゃろう。
 お前、あの樹のいわれを知っておるかの?」
「僕?知らない。
 気がついたらカイと二人であの樹の側で遊んでたんだ。
 親を捜したんだけど、どこにも見つからないし、二人っきりで。
 あの樹の側に居ればいつか会えると思って。
 僕達、きっと捨て子なんだ。」
「ならば本当の親が見つかったらどうするのじゃ?お前。」
「僕?考えたことも無かったよ。
 カイが居れば寂しくなかったし。
 でも、僕達二人を愛してくれれば許せるよ。
 文句いっぱい言いたいけど・・・ちくしょう!」
普段は乱暴者のリクも
カイがこんな様子なので、かなり気落ちしているようだ。

(重い物を背負った子なんだな。)マサヒコは思った。
(カイの心はどこに行ったんだろう?
 あの不思議な実は何だったんだろう?)
ルシファーは思いめぐらした。

テイルはリクを慰めていた。
「リク、いつかカイに会えるよ。きっと。
 私達みんなここから出て、それぞれに旅をするんでしょう?」
「え、僕達旅に出るの?
 でも僕カイと一緒じゃなきゃやだよ!」
またリクが駄々をこね始めた。
「リク、そう駄々をこねるでない。
 カイはきっとこの世界とは別の世界で生きておる!
 あの実が不思議な扉を開いて、
 あの樹の精霊の多くを連れて行きおった。
 あの実とカイは、きっと一緒に世界を彷徨っておるのだ。
 ならばそれを追おう!
 お前、わしについて来るがよい。
 お前達が強い絆で結ばれているならば、
 世界のどこかでまた会うだろう。」
(もう、あまり時間が無い。あの樹は枯れ朽ちていく運命。)
長老は思った。

そう、みんな決断を迫られていた。
新しい運命を生きる為に・・・・・。



16・旅立ち

マサヒコとルシファーと長老達は
連れ立って樹の根元に行った。
そこにジョーカーが現れ、全ての者達が集った。

「よし、それではこれからみんな実を選んで、
 旅立ちの支度をする。
 それはこの実のそれぞれの記憶に委ねる。
 行く先のはっきりとは分からぬ旅じゃ。
 またこの樹の元で落ち合おう。
 では、好きな物を慎重に選べ。
 一人一つじゃ。
 そして、それが生まれ変わる心と記憶の源となる。」

ルシファーはマサヒコを促した。
「さっきの実を取りに行くんだろう?」
「ああ。」マサヒコは言った。

テイルもその傍である貴婦人の記憶に目を留めた。
「私、この人に付いて行くわ。」

それから長老とリクは一緒に実を選んでいた。
「わしは、一人で気ままに生きたいものじゃ。」長老は言った。
リクは「え!それじゃカイ探せないよ。」と言った。
「カイはそこで寝ておるじゃろ。
 ここに帰ればいつでも会える。
 それにな、おまえはカイと縁があるから、
 必ずどこかで会える。心配するでない。」と長老は言った。

ジョーカーと小さな星の一陣は
くるくると木の枝の周りを飛び回っていた。
かと思うとジョーカーは狙いをすまして、
ある一房をその鎌でバッサリと切り取った。

長老は言った。「では、みな準備はいいかな?」
「その房に願いを込めよう。そして、扉が開くよう祈ろう!」

「お前、何も実を持ってないよ。どうするの?」
とマサヒコはルシファーに聞いた。
「僕?お前の付き添いをするよ。」
「え?俺の?退屈しないか?」
「や、たぶんね、僕お前の身近な者として生まれ変わると
 思うんだ。」とルシファーは言い、
「ああ、じゃあ楽しみだ。」とマサヒコは言った。

「では、皆の者。行くぞ!
 皆の生きた証がこの樹を再び蘇らせるであろう。
 そして、また時が来たらこの樹の元で落ち合おう!
 いつとは言えぬ約束だが。」

長老の言葉に、皆房に願いを込めながら祈り始めた。
すると、マサヒコが来た時のように天が光り、
天の一部がぽっかりと口を開けてドロドロと渦巻き始めた。
皆、祈りながらドロドロとした中に吸い込まれていった。



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作家:haru
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