すると ゆっく~りと右手を彼女の前に持っていき、指をしなやかに動かし始めた。
「ハンド・パワーです」
彼女の左手を取っていき、右手をその上にそっと乗せた。 そして・・・!?
「エターナル ラブ」
二人とも目をつむって唱えた。
時が経つ。
コポッ、チャリーン。
音と共にゆっくりと目を開けた。
「えっ、ええ~・・・・・・!?」
人差し指を唇にあてる裕紀。
「シー」
「シー・・・・・・!?」
二人 同じ仕草だった。
変に見えていた。
しかし、ワイングラスの中には、輝きを放ったダイヤの指輪があった。
「俺からの婚約指輪。
受け取ってくれる」
目を合わせた。
「わっ、私でいいの・・・!?」
「うんっ」
「君じゃないとダメなんだ、オレッ」
時間がそこだけ止まったように成っていた。
各々の世界の頭の中で”時間よ止まれ”と"LOVE LOVE LOVE"が流れてコラボをしているといった雰囲気があった。
はたから見ていると・・・何この人達お互いにいつまで見合っているのと、言われる位
に長く見つめ合っていた。
「受け取って・・・くれるねっ」
目でうかがう。
・・・!?・・・!?・・・!?
「うんっ、私で好ければ・・・お願いします」
二人見つめ合って微笑む。
お互いに腕を伸ばして手の甲が触れ合う。 赤いハートが飛び交う。
沙織は、自宅のアパートに帰って浴室でシャワーを浴びていた。
「フッ、フフフッ~フ~・・・・・・」
流行の『恋の唄―mirai―』を鼻で奏でている。
長い髪をバスタオルで拭き、別のバスタオルで胸から腰までを隠し、洗面台に向かった。
魔法の箱が輝き始める。
髪に整髪料を付けたり、ブラシを通したり、顔にローションを付けたりして美容に手をかけてから、部屋に向かった。
微妙な香りを放つ。
パソコンを立ち上げる。ネットサーフィンをして楽しむ。 ミス・キュートでショッピングモールを歩いて楽しむ。
見て判る位の赤橙黄緑と色を美しく変えていく。
沙織の鼻に微妙で悪魔的な甘い香りが届く。
フッフッ、嗅覚を刺激し、脳へ。 目を瞬かせる。元を探し始め、顔を左右に振る。
ニャーオッ、ニャーォッ。 子猫の鳴き声で沙織を導く、誘い入れる、引き込む。
「えっ・・・・・・!?、この箱・・・・・・!?」
耳を近付ける。
ニャーォッ。
「エッ、なに、なにっ」
楽しげに微笑み、紺の箱をゆっくりと開ける。
小さい小さい猫が姿を見せる。
ニャーオ~。 ニャーオッ、ニャーォッ。 声が小さく成っていく。
ミシッ、ガラスや壁がきしむ。
目を剥く沙織、首や口や胸をおさく。 そして倒れた。 呼吸が出来なく成っていた。
手を伸ばし、助けを求める。 床に寝て左右に体を曲げる。 顔色を変えていく。
足をバタバタさせ、涙を流し、手を伸ばし、大きく口を開けた。 しかし、声は、出なかった。
手足には、何も当たる物が無かった・・・。 体は、中空に浮いていた・・・。 足元の方に見覚えのあるベランダが見えていた。 そして目を疑った。
猫とも蛇ともとれる異様に大きく気持ち悪い唾の伸びた化け物に体ごと大口に飲み喰われた。 無数の黒い雨が死神の線が上下から突き刺さる。
「キャー・・・・・・!?」
目をひん剥く、バリッ・バリバリッ、バ・ッ・シ・ャ・ー・ン。
一瞬にしてアパートの外壁や窓ガラスが粉砕した。 スローモーションで沙織を襲う。 脳内をよぎる。《暗闇の隅のグレーゾーンでタダナラヌモノが着火する》 煙が火をつたって一瞬で広がる。
ドカーン。 炎が沙織やガラスや混砕と共に燃え移り、広がり、プチ太陽のように成った。 炎の破片と黒い灰が、下界のアスファルトに落ちて行く。
ガラス細工のイソギンチャク!?が沙織を飲み込んだ。
《黒くタダレタ魔手がエサを奪いあう》
洗面台のガラスが曇り、三角の図形が!? ヒモが動く!? そして消えた。
ウィ~ン、ウィッ、ウィ~ン。