よだかという名の

【よだかという名の】


醜い醜い
一羽の鳥は
清い
心根を持っていました

鷹にあらざる生き物なのに
生まれながらヨダカと名を与えられ
その醜さゆえに鷹には憎まれ
周りの鳥たちの嘲笑をかったのです

けれどヨダカは
カブトムシを食べるという行為を
痛む心を持ちさえすれば
殺傷せねば生きていけない
その在り方に
疑問を抱く面を
持ちさえしました

どこまで飛翔すれば
自分は楽になれるだろう

地上は辛い事が多すぎて
様々な事に心を鈍くし
漫然と生きようとも

「明日からは、――と名乗れ」
傲慢な鷹の要求通り、
神様が与えてくれた名まで捨てることが条件で

ぐんぐん風を切り高い場所まで飛んでゆく
目に映る 煌めく星々に
幾度 問いかけても
優しい答えは 返らない
「私を貴方がたのお傍に、置いてはくださいませんか」

星々に願いをかければ
口々にその望みがどんなに無理な事か、
彼らは告げるのです

めげずに、よだかは
ぐんぐん
ぐんぐん
飛翔してゆき

地上は遠のき
住んでいた場所はどんどん小さくなって
吐く息はやがて、白くなり
凍てつく寒さがきりきり苛む
抗うように翼を忙しく動かして
必死で進む先に得たいものはただひとつ
身を削っても身を傷めても
誰かの命を奪うことなく
ただ清らかに輝けるならば
それは幸福ではないのだろうか


やがてよだかは
自身が
昇っているのか、
落ちているのか、
寒いのか、
痛いのかさえ、
判らずに

そっと目を閉じて

流した涙は冷気で凍り、
でもその横に向いた血のついた嘴の
けれど表情は、少し穏やかで


天に一つ星が生まれたのはその後のこと

わたしはひどく、安堵する
とても遠い宇宙の彼方
いや、
目を凝らせば見えるのかもしれない
カシオペア座のすぐ傍で
青い燐光をそっと 放つ

静かに、誇り高く燃える
よだかの、星が



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【ある生物の物語】




長い 長い 時間
(それはヒトの世で言う数年間)

暗ぁい 静かな 土の中
小さく 小さく 身体を縮めて

短い 短い 時間
(それはヒトの世で言う数十日)

生きる時 思い描いた



土がむくむく盛り上がったらそれは

僕らか別の虫かもしれないね

僕らが鳴くのは
  哀しいからでは決してなく

僕らが鳴くのは
僕らが鳴くのは


長い 長い 時間
(それはヒトの世で言う数年間)

暗ぁい 静かな 土の中
小さく 小さく 身体を縮めて

短い 短い 時間
(それはヒトの世で言う数十日)

そう 短いと知っていても 僕らは夢見てたのさ



でも、何も哀しくなんてない
(ああ あなたに逢えたこの奇跡)

不安も怖さもあったさ けどね
鳴き声に気付き
耳を傾けるひとに出逢えたんだ
土の中にいる間 たとえ世界が変わっていても


泣く必要はない

鳴くだけだ 力の限り

青空の下 太陽のあつさに負けないように



僕らが鳴くのは



僕が 鳴くのは



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【怠け蛙の唄】



僕を蹴らないで
僕を踏まないで
僕を見止めてね
ちいさくたって
僕はこの世界の住人です


鳴いて笑って
時には疲れる
ぐたっと寝て
疲れたよって
呟いて みる

柔らかなお腹をみせて
夜空を見上げ
綺麗な星空に
なんでかどうしてだか
涙ぐんでしまう夜でも
君の温かい手を想って
護られた日を思い出す

そうすれば僕は安堵し
眠りの中へ勢いよく
落ちていく
落ちていく
僕は怠け者の
取るに足らない蛙です
皆がどんどん先に行き
それでものんびり
ここに 居たくて
雨を呼べない雨蛙
ゲロゲロゲロゲロ
でも生きて生きて
スローに生きて
おりますずっと

先を急ぐお人は
お先にどうぞ!
僕は怠け者ノ蛙
紫陽花のわきで
ゲロゲロゲロと
どっかり座って
気ままに歌って
十分休んでから
また旅に出ます

いつかまた奇跡的に
めぐり逢えたら話し
お互い歌を披露しましょう

それまでさよなら
さよなら
さよなら


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マメシバ
作家:豆シバ
よだかという名の
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