まず章太郎の娘が病気にかかりあっけなく命を落とした。若い妻は町から消えた。あっという間のことだったようで、わたしが千鶴子からそのことを知ったのはすべてが終わってからだった。
彼女は店の片隅で踏み台に腰をかけ、しばらくぼんやりと行きかう人々を眺めていた。春先にはまだ早いような、薄手のブラウスが夕日にすけていたのを覚えている。
そして今朝、千鶴子がレンタカー内で練炭自殺を遂げたという知らせを聞いた。
章太郎も一緒だったというので、街中がささやきに溢れた。
車の中でなど、ずいぶん窮屈だったことだろう。わたしは、おかしいのかもしれないが、日当たりのよいベランダででも死ねばよかったのではないかと思っている。いや、そうするだろうと思っていた。まだ子供だったあの頃にみつめていた光景こそがふさわしかったはずだった。
あの放課後に彼らの背中を押してやってもよかったとすら思っているのだ。